第27話 貢献制度と妹
目の前には、正真正銘の実の妹が居た。
番号を教えていたが、無断で来られると少し不快感が出てくる。
ただ、それを表に出すことはなく、普段接している通りに話しかける。
「どうしたんだ? リツ」
「いつもと一緒だよ」
家に来た理由を尋ねるが、リツはちゃんと説明をしない。
「そうか。今日はもう寝るから明日からな」
「んふふ。分かってるね〜」
いつもと一緒というのは、両親がどちらも仮想世界へとダイブしていて暇だからということ。
ただそれは建前だ。
本当の理由は別にあるはずだ。
そうでなければ、わざわざオレと同じ日程で貢献制度を組む理由がない。
長期休暇の時は必ずと言っていいほどオレと遊びたがる。
昔から親の代わりに遊んでいたのがこうさせてしまったのだろうか。
普段は両親も現実世界で活動しているが、春休みといった長期休暇の際には仮想世界に二人でダイブしていたりする。
それは昔から変わらず、年齢不相応のオレの落ち着きに親も甘えていると考えた。
ただその結果、リツとの時間をオレが多く過ごしてしまっている。
リツが低学年の頃には一緒に仮想世界へダイブもしていた。
この現実世界だけではなく、仮想世界での時間もより多く共有しているのだ。
親よりオレに懐いていると解釈してもいいかもしれない。
ただ、一人で生きていく力を養ってもらいたいところではある。
進路は知らないが、これからは容易に会うことも出来なくなるわけだ。
そこを自覚して行動に移してもらいたい。
オレは高校を卒業すれば進学しないため学区を出ないといけない。
中学までは義務であるため両親も一緒に住んでいるが、進学しなければ離れて暮らすことになる。
両親の年齢を考えれば、遠い区域に移り住むことになり、オレとリツはここから近くの同じ区域での生活が待っているだろう。
ただ、その後ある引越しで三年の期間があるため、その時は一人で生きていく、もしくはパートナーと共にということになる。
いつまでも甘えられても困るからな。
「ほら、寝るぞ」
「うん」
まだ三年先の話を頭の中で考え、ある程度結論が出たところでリツに寝るよう告げる。
リツは素直に従い、自分の部屋と化したオレの家の余った部屋へと入っていった。
翌朝、起きてすぐにオレとリツは社会貢献制度へと向かうため家を出た。
「良かったね。朝早いのが空いてて」
「ああ」
リツの言葉に返事をして労働を行う場所へと二人で向かう。
車を使うほど遠くもないため徒歩での移動だ。
社会貢献制度の働き口は朝の七時にリセットされる。
その前に起きて自分に合った、もしくは空いているところへ申請を出すことで、その日から決めた日数分を確保できる。
今回はゴミ回収に申請し、運良く二人とも同じ場所での採用が決定した。
もしかしたらゴミ回収の人気がなかったのかもしれないが、そこはいいだろう。
「準備はいいか?」
「いいよ」
オレはリツへ確認し、車を発進させる。
勿論自動運転でコースもプログラムされているため、回収者は乗ってその場に向かいゴミを拾うだけ。
臭いや視覚からの不潔感を除けば楽な仕事だ。
たったの三日、一日三時間で終わるこの貢献制度は、オレたちのような平凡な人間には丁度良い。
それからオレとリツはゴミ回収を行なっていった。
ゴミ捨て場に着きリレー方式でプレス機に放り込んでいく。
それが終われば車を発進させて次の現場へと向かう。
これを繰り返し三時間続けた。
出発した場所に戻ってきて車を停車させると、デバイスに通知が来て終了となる。
その後、オレとリツは家に帰宅しそれぞれ汗を流すと食事をとった。
それから少しの筋トレをし、進学先で必要な知識を勉強する。
筋トレは健康を維持するため、勉強は学校生活を楽に送るために行う。
リツもオレ同様にそれらをこなし、余った時間で様々な娯楽を楽しんだ。
漫画、小説、アニメ、仮想世界実況動画などなど。
現実世界でも楽しめることは豊富にあるため退屈はしない。
だがそこで、リツから相談を受ける。
「あのね、オープンワールドで知り合った人に仮想世界で不倫されてた人がいたんだけど、その人のことどうにかできないかな?」
それは仮想世界へ自由に行き来できるようになっていた初期から問題視されていたことで、大体の答えは出ていた。
しかし、そう割り切れる人間も居ないため、未だに問題として取り上げられる。
「女性か?」
「そうそう。仮想世界の記録ってあるじゃん? それを覗いたらその場面のログが出てきて分かったんだって」
「なるほどな……」
リツの話では、その女性が勝手にログを見たことから判明したらしい。
ちなみにログとは、ヘッドギアから仮想世界で体験したことを、現実世界でも見れるよう詳細に書き記した記録のことを言う。
それは自分が認識していないものまで含まれており、ゲームとしてダイブしている者たちにとっては、世界を攻略するための鍵とも言われている。
詳細に書き記されるため、今回のようなケースは見つかればその女性のように悩むのは理解できる。
しかし、正直それは自業自得に近い。
それに旦那の方からすれば、ゲーム感覚でのことを勝手に見ておいて言われるのは筋違い。
まあ、リアルに体験できるのが問題で、どちらの世界も同じように見ているから解決しないのだろう。
「その人は今どんな状態だ?」
「離婚しちゃって男の人が信じられなくなったって」
「ふーん」
「何かない?」
リツは本当に心配しているのかオレに助けを求めてくる。
しかし、全く乗り気がしない。
解決するには男との行為を諦めるか、その女性だけと関係を持つパートナーを見つけるかの二択だ。
悩んでいるということはそういった願望はあるのだろう。
オレはそう推測して仮の答えをリツに告げる。
「その女性にしか興味がない男を探すしかないだろう」
「難しい……」
「仮想世界へのダイブも必ず一緒の時にしかしない人とかな。父さんたちみたいに。まあ、他の案も考えとくよ」
「わかった……」
それで相談は終わり、それからはリツのお願いによって等速の仮想世界へと一緒にダイブすることになった。
そのルーティンはリツが帰る日まで続いた。
『現在、仮想世界への不正アクセスが横行しています。ロックをかけていても侵入されるようで、各国政府が対処にあたっています。もし、不正に侵入された場合は、世界の創造主に通報するか、侵入者の情報を待機空間において拡散してください―――』
リツが帰る日。
昼過ぎの時間にニュースを見ていると、中々に怖いことが取り上げられていた。
オレは帰る準備をしているリツに念のため忠告しておいた。
「仮想世界での犯罪がかなり起きてるらしいから気をつけろよ。詳細はデバイスに送っておくから、父さんたちにも伝えておいてくれ」
「うん。わかった」
それから二人でマンションの玄関へと降り、自動運転の車を待った。
「来た」
「それじゃあ、また今度な」
「うん」
「次は連絡しろよ? いきなりはビックリするからな」
「わかった。来週も来るね」
「わかったよ」
いきなり来ないように釘を刺す。
リツはそれならばと別れ際に次の約束を取り付けてきた。
それにはオレもNOとは言えないため、了承して出発する車を見送った。
オレは車が見えなくなると自室へと戻り、今起きている犯罪の対処法を調べていった。
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