第四章

第28話 再び異世界へ




 調べ物を済ませると、オレはいつものように時間を過ごした。

 ただ夜になると、マサキから連絡がありそれに返信して仮想世界への準備を進めた。


「明日の5時にダイブか……」


 マサキからの連絡を再度読み返して何をするか考える。

 ダイブすれば三年間もの時間が待っている。


 やれることは沢山あるだろうが、時間に余裕を感じて逆に良い案が浮かばない。

 短く期間を設ければ出来るだろうか。


 一年、半年、三ヶ月と、やるべきこととやりたいことを組み込んだ計画を立てる。

 そうすることで、無為な時間を防ぐことが出来るかもしれない。


 オレはそう考えると、やるべきこととやりたいことを挙げていった。


「全部で……九つか」


 ダンジョン捜索。地図作成。ダンジョン運営。領域保護。領域外での生活。ダンジョン踏破。文明レベルの把握。人材確保。事業立ち上げ、拡大。


 さっと考えついたものでも九つあり、ダイブ後は更に増えると考えやる気が出てくる。

 その後、妄想を膨らませその心地よさに浸り、満足すると必要になる知識を調べインプットしていった。


「もうこんな時間か」


 夢中になって調べていると、いつの間にか朝の4時になっていた。

 オレは調べ物を中断してシャワーを浴びる。


「さてと、ダイブするか」


 ベッドに寝転びヘッドギアを装着する。

 室内空調を弄り仮想世界ダイブモードに設定する。

 本体電源を入れ、目の前のプラスチックフィルターに操作画面が現れる。


 ダイブ終了前に空調のモード切り替えを行うように設定し、待機空間へとダイブする。

 頭全体にゾワッとする感覚を得て最終確認を行う。


 次の瞬間、一瞬の緊張と同時に瞼が閉じ、意識はブラックアウトした。

 覚醒すると、目の前には待機空間特有の浮遊感と複数のウィンドウがあった。


 何度体験しても不思議な感覚だ。

 殆どの人間はあまり気にしてないだろうが、極細の針を頭皮に刺し、あの一瞬に電流を流されている。


 待機空間は、脳を再現する仮想世界。

 地球を観測する衛星のように、脳を観測して意識だけを移すためには必要な仕組みだ。


 完全没入体験を得るには、それと特殊な送受信回路がなければ成り立たない技術。

 人間も機械のようなものという証明でもあったが、またそれは別の話。


「お、来たか」

「ああ、招待してくれ」

「おーけー」


 待機空間でマサキから連絡が来るのを待っていると、丁度良く接続して話しかけてきた。

 そのため、オレはすぐに世界へ招待するよう告げる。


 マサキは返事をしてオレを招待し、ダイブまでの時間を利用して話しかけてきた。


「お前さ、あの領域から出ねーの?」

「出るさ。冒険者にもなってみたいし、どんな世界か把握しきれてないからな」

「そうかそれならいいんだ。街であったら声掛けてくれ。商売で忙しいと思うけど」

「ああ、わかった」


 それを最後にオレたちは仮想世界へとダイブした。


 マサキは連絡手段を持ってないからか、あらかじめ声を掛けるように話してきた。

 一緒の世界にダイブするのに、行動が別々であることを少しばかり後悔しているようにも受け取れる。


 領域から出たら頼るのも良いかもしれない。

 情報を得るのも楽じゃないからな。


 そこで意識が途切れ、気づいた時には目を瞑った状態から少し瞼を持ち上げたところだった。


「……来たか」


 隣で眠るカミ子の姿を見て仮想世界へ来たことを認識する。

 ダンジョンでの運営や獣人たちの働きぶりなど、これまでやってきたことを鮮明に思い出す。


 脳の切り替えが行われた。

 オレはそう思っているが詳細は不明。

 悪いことではないとだけ理解している。


 とりあえずその記憶が落ち着くまで待ち、それこらオレは行動を開始した。

 まだ眠るカミ子を起こさないように立ち上がり、一人になれる場所へ移動する。


 その間にスキル化した清潔を使い全身を綺麗にする。

 まだ誰も起きてないぐらいの時間であるため、極力音は出さないようにする。


 オレは自室を出るとフロアの右奥へ向かい、獣人たちの訓練場に足を運んだ。


「(聞こえるか? マサキ)」

「(うおっ!? 何だ? これ)」

「(念話だ。無事入ることができたみたいだな)」

「(おう。そっちこそな、って連絡できるなら前の時にしてくれよっ)」

「(すまないな。他のことに熱中していたからできなかった)」

「(あー、それなら仕方ねーか。ま、なんかあったらまた連絡してくれ。こっちからもするからよ)」

「(ああ、またな)」


 早速マサキへ念話を使い連絡した。

 安否確認的な意味もあるが、これでマサキからも連絡が来るようにできた訳だ。


 念話は一度繋げば使えなかった者も使えるようにできる優れた代物。

 魔力があればまずは魔法として発動でき、日常的に使っていればスキル化する。


 マサキならこの有用性は理解できるはずだ。

 今後のオレの計画にも使えるため、早速獣人たちに覚えさせよう。


「そこのお前。ちょっと来い」

「は、はい」


 階段を上り最初に見つけた黒狼くろおおかみの獣人に声を掛け、念話を繋げる。


「(これは念話だ。灰狼はいおおかみの奴らにも共有して、とりあえず男たちは全員使えるようにしてくれ)」

「わ、わかりました」


 一度繋げばその者も使用可能となる。

 それを利用してオレはその黒狼の獣人に念話の共有を任せた。


 オレはその慌てぶりを見つつ自室へと足を運ぶ。

 するとカミ子も起きたようで、何も言わずハグして椅子に座った。


「おはよう。今日から少し忙しくなるぞ」

「わかった」


 カミ子は返事をすると水を飲んでぐったりとする。

 オレはそれを横目に水晶へ触れ、現状の確認を開始する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る