第44話 冒険者終了
ギルドマスターの一言を聞き、どうするべきか思案する。
感じる強さは自分以上であるため、無理に戦闘を行うと死ぬ可能性すらある。だがこのまま何もせずいいように使われるのはごめんだ。
「話し合いを設ける。今回の件に関わる者たちはついて来なさい」
ギルドマスターはオレの横を抜けて階段へと向かった。担当した職員は同僚に一言告げてその後ろをついて行く。
ここで逃げる訳にもいかなくなり、嫌々ついて行くことにする。
どうせ帰ろうとすれば、権利を剥奪する何て脅して来るに違いないからな。
まあ、その時はその時なんだが。
「申し訳ありません……」
オレがついて来ていると分かって職員は小声で謝罪する。奴らとは違って本当に理解し、反省しているようだ。
「いい。次の被害者を出さないことだけ考えろ」
ぶっきらぼうだがこの職員には見込みがある。偉そうにもそう感じて許すことにした。
「入りたまえ」
「失礼します」
「……」
ギルドマスターが扉を開き中へと入る。
続いて職員、オレと続いた。
「治療が終わり次第残りの二人がこちらへ来ます」
「わかった」
職員とギルドマスターの会話を聞きつつオレは椅子に座り、到着を待つ間寝ることにした。
「起きてください……」
職員の声で目を覚まし周囲を見る。
どうやら集まったらしく、最後に待たせたのはオレだったようだ。
「始めてくれ」
偉そうな態度でギルドマスターに告げる。
それを受け取りギルドマスターが口を開いた。
「事の経緯は彼女から聞いた。死んだ男、落ち度は奴にあったとし、殺害に対しては不問とする」
は、ね。
情報漏洩に関しては既に許している。それを聞いていたためか言及は無し。
二人の生存した冒険者に関しては何か言われることを理解してそれを待つ。
「二人への暴行に関しては、そこまでする必要があったのか。そう問いたいが、どうかな?」
「その裁量はオレが決めることで、問われる謂れはない」
「なるほど」
こちらをイラつかせ、その蓄積を考えていない。
あの瞬間、冷静ではなかったにしろ男がちょっかいかけて来なければこうはなってない。
職員にも注意、警告ほどで終わりだった。
男が関わり、更に優男、女冒険者と増えていきこうなっている。
だが男が死んでるため、話すことは殆どない。ギルドマスターはどう出るだろうか。
「冒険者資格の剥奪。と言ったらどうだ?」
やはり来た。権力による脅迫。
この後の流れとしては、断れない、懐柔、依頼の押し付け。こんな所だろう。
無かったとしてもオレが折れる必要は無い。
マサキとの計画ではあるが無理してまで嫌なことをする必要は無いし、冒険者での名声、情報収集はダンジョン産の人間にやらせればいい。
「構わない」
「え?」
「!」
「……!」
女職員は声を漏らし、優男と女冒険者は目を少し見開き驚く。
普通じゃない選択。それが驚かせた要因だろう。
ギルドマスターはそれに驚くこともなくオレを見る。
受け取っていたギルドカードをテーブルに置き、それが本意であることを示す。
ギルドマスターはそれを受け取る。
前例を作りたくないのだろうな。組織を運営していれば多少は理解できる。
オレはその瞬間に切り替え、冒険者への思いを無かったものにする。
「受け取らせてもらう。今後冒険者として永久に追放することになる。どこの冒険者ギルドに行っても登録することは不可能となる」
「ああ、問題ない」
話は終わるが、誰もそこを動こうとしない。
時間が無駄に感じたため、終わりを告げて部屋を出る。
「話は終わりだろ。帰らせてもらう」
「ああ」
「……」
「……」
扉を開き階段を降りる。
賑やかになっていたギルド内が一瞬静まり返る。
視線を受けながらもどこ吹く風と、出入り口の扉を開いて外へ出た。
数分で冒険者になって辞めるなんて予想していなかったな。
それにしても代替案が思い浮かんで良かった。
何も無しに辞めるのはマサキに悪い。
とりあえず、ぶらぶら散策でもするか。
「ま、待ってくれ……!」
後ろから優男の声が届く。
恐らくオレに呼びかけてるのだろう。立ち止まり振り返る。
「すまなかった……」
頭を下げて謝って来た。
オレにとっては既に過ぎたこと。むしろ謝るのならこっちの方のはずだ。
冒険者資格の剥奪。
冒険者として生きる彼らにしてみればとんでも無いことかもしれない。そう考え謝罪しに来たのだろう。
あれだけ言っておいてまだ自分の中でしか考えていない。数分で変われと言う方が酷なこと、か。
「気にするな。お前の尺度で生きていない」
改めて考えが違うことを伝える。
それだけ言ってオレは元の散策モードに入る。
奴は真面目過ぎるのかもしれないな。
しかし困った。
冒険者として生活しようと考えていたため時間が余った。
すぐ戻って計画を開始するのは何か違う。
まだ朝でこれからって時だし。
「良かった。まだ居た」
昨日の女店員が目の前に現れる。
それもどこかで見た服を着て、控えめな装飾品も身につけている。
「どうしたんだ?」
「いや、勝手に居なくなってたから……」
「ははっ、少し用があったからね」
「笑うんだ……」
「時間ある?」
「あるよ」
「そっか」
小さく溢した声にあえて反応せず、時間があることを尋ねる。
女店員は即答し、それに応えてオレもすぐ用件を伝える。
「デートしようか」
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