第33話 病の侵攻




 起きて早々かなりの問題に直面させられる。

 獣人たちが病気にかかったのだ。

 目の前の女も少しばかり怠そうだ。


 立っていられるのはあと数分といったところだろう。

 女を観察してどんな症状があるか探り始める。


「お前もキツイだろう。もう休んでいろ」

「そんなことできない。みんなが死んじゃうかもしれないんだ」

「いいから寝てろ。後はオレが何とかする」

「何とかって……」


 女は食い下がるが話している間にも体力を消耗していき、言葉を放つのがやっとになり始める。

 それを見て立場が完全に決まり、オレはそこをついて女の行動を阻む。


「話すのもやっとだ。いいから大人しくしてろ」

「……」


 女は黙り、何も言わなくなる。

 言い方は良くないが、ちょうど良く症状が悪化したようだ。


 オレはそれを理解し、女を抱えて住居まで送り届ける。

 住居に着き女を寝かせると、すぐに外に出て自分に清潔魔法をかける。


 その後、近くの家々を周りどんな症状が出ているのか把握して、簡易的な地図にマッピングしていく。

 住居の位置と、症状別に色分けしたマークを付けてどんな病人か一目で分かるようにしていく。


 現状動けるのがオレとカミ子のみ。

 さっきまでの女と同じように、次々と騒いでいた奴も住居に戻り始めた。


 そんな様子を眺めながら、症状の種類を確認する。


「発熱、吐き気、頭痛……」


 現代ではたまにあるか無いかの症状。

 病気になることすら珍しい時代であるため、正直それが何を意味しているのかさっぱりわからない。


 ただ発熱とは、病原と体内物質が争っている証拠というのは聞いたことがある。

 しかしそれが当たっているのかすらわからない。


 ここに来て現代と異世界の差が大きく出てしまった。

 そのせいで、オレは何が出来るのか考えるが分からなくなる。


「どうすればいいんだ……」


 思ったことが口から出る。

 それは無意識であり、その声を聞いて自分がかなり焦っていることを初めて認識した。


 病気に罹ったことがないため、何をどうすればいいかわからない。

 現実であれば調べることは簡単だが、ここは異世界であるためそれは不可能。


「いや、魔力でどうにかするしか」


 無いものを考えることをやめ、今使える最高の道具を信じ、オレは患者の容態を調べることにした。


 熱が出るのは病原があり、それに対抗する物質が争っているからだったはず。

 ならば、そこに何か居るということ。

 魔力でそいつを――――。


「っ……何だよこれっ」

「ハァ……ハァ……」


 魔力で調べ始めるが、病原の正体を掴むのに手こずる。

 それに伴い患者は呼吸が早くなる。

 早くしなければ命に関わる。


 しかし、病原を見つけ魔力で覆い解析しようとするも、何故か魔力を乱され思うようにいかない。

 病原の周りだけが特に魔力を乱され、病原に意志があり何か能力を使っているとしか思えない。


 オレはそう考え、病原が発する魔力を感知するために患者の体全体を魔力で覆った。

 すると、三種類の魔力を感知することに成功した。


 一つはオレ自身。もう一つは患者のもの。そして、病原が放つもの。

 病原が放つそれはかなり微細なもので、感覚をかなり研ぎ澄まさなければ見つけることはできなかっただろう。


「これで何とか時間を延ばせるな」


 魔力を感知して、それを抑えるための魔力波を患者自身に操作させる。

 始めにオレの魔力で波長を作り、徐々に患者の魔力に馴染ませていく。


 少しすれば、患者は無意識に魔力を操り始め、病原に対してのみ効果的な魔力を巡回させ続ける。

 ただ、これは応急処置でしかない。


 元を突き止めなければこの病は続いていく。

 毎年同じ時期に発症するものであれば環境を変えればいい。

 しかし、オレたちが来たことにより発症した。もしくは獣人化したためともなると早急に手を打たなくてはならない。


 個人的には環境に問題があると思うが、それはより詳しく調べなければ分かることではない。

 そのため、今は応急処置に集中する。


「カミ子。周りが冷静になれてない。さっきから叫び声がうるさい」

「うん。それは同意するけど、どうやって鎮めるのさ」

「患者が一人安定している。体力の無い者順に処置を施すと言って回ってくれ」

「わかった」


 病原の魔力はめちゃくちゃ厄介。

 集中しなければ今のオレには対処できない。

 しかし、現在の周囲の環境はすこぶる悪い。


 悲鳴や泣き声、不幸な未来を思い描き嘆く者までいる始末。

 フロア内は悲嘆の声で溢れかえっている。


 効率よく迅速に対処するとなればかなりの労力、集中力が必要だ。

 カミ子にはそれを取り払うために動いてもらう。


「よし。次はあっちかっ」


 マッピングした地図を基に治療の優先順位を見極め移動する。

 応急処置を施した者は緑色にして地図上で変化させ、再処置をすることを防ぐ。


「ありがとう。カミ子」

「……」


 カミ子が近づいて来たため、礼を言いながら治療を続ける。

 しかし、カミ子から返事がない。

 それが気になり、オレはカミ子の顔を改めて見る。


「どうしたっ……」


 カミ子は目に涙を蓄え今にも溢れさせる寸前だった。

 オレはそれに反応して治療する手を止める。


「どうしたんだ?」


 改めて聞き返し、涙の理由を尋ねる。

 すると、カミ子は震えながら答えてくれた。


「……治るって、言ったらね……? すごく怒ってて……」


 何となくだが理解できた。

 必死に耐えてる人間に、何とも無い人間が治るなんてスッと言ったら腹が立つのも頷ける。


 しかし、カミ子がここまでメンタルをやられるとは思わなかった。

 深い傷にならなければいいが、どうなるかわからないな。

 とりあえず今は慰めるのが先か。


「大丈夫だ。みんな必死だっただけだ。お前はちゃんとオレの伝言を伝えただけ。後は何とかするから部屋に戻ってるといい」

「……うん」


 カミ子は目を擦りながらコクッと頷き背中を向けた。

 ゆっくりと遠ざかるそれを視界の端で捉えながら治療を再開する。

 そこからオレは、優先度に従い獣人たちの治療を行なっていった。


 翌日。

 オレは重い体を持ち上げて部屋を出る。

 すると、数人だが活動を再開している者たちがいた。


 どうやら処置は効果があったようだ。

 しかし、活動しているのは後回しにしたはずの者たち。

 やはり体力はそのまま活動量に繋がるようだ。


 その中には五人の訓練生たちもおり、早くも鍛錬を再開させていた。

 オレはそれを見て病の根源調査を開始することを決めた。

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