第40話 変化
翌朝目を覚まし、ここ数日のことを思い出す。
獣人の裏切りに始まり、病への対抗、侵入者の対応、獣人討伐。目まぐるしい日常を送っていることを再認識する。
「今日は、現状の確認だな」
同時に進めている計画の進捗を把握し、これからの動きを考える日と決める。
寝室から出て、ダンジョンコントロールルームと称したコアが置かれた部屋へ移動する。
「おはよう」
「おはよう」
「おはようございます」
一人増えてる。
薄い緑色の肌、スラッとした肢体に適度に膨らむ胸と尻。白い髪をストレートに伸ばしてカミ子の後ろに控えている。
見た目からしてゴブリンであることは間違いない。しかし、あまりにも人間的すぎる。
ダンジョン含め領域にいるゴブリンの中で一番の美貌を持っている。
「召喚した子か?」
「そう」
「初めまして。これからよろしくお願いします」
「ああ、世話してやってくれ」
「はい、かしこまりました」
オレはカミ子が座るソファの横に座りながら会話する。言葉遣いからメイド仕様という感じが伝わる。
世話役であるため適任ではある。ただこの子をダンジョンのゴブリンたちに合わせてはいけない。
明らかにメスとしての魅力が桁違いだ。ダンジョン内のメスゴブリンたちなんか比にならない。
しかし、魅力を上げるための指導なんかはやってもいいかもしれない。
「カミ子。この子はオスゴブリンに合わせるなよ」
「言うと思った」
「ただメスたちには魅力を上げる指導のために合わせていいかもしれない」
「そうなると思ったから日程を組んでいた」
「おお〜」
カミ子は画面の一部を手をかざして引っ張り、オレの目の前に持ってくる。そこには六日置きに指導する計画となっており、レベルや口説かれた数、行為を行った回数を覚えておくよう指示するみたいだ。
その変化に応じて指導する内容も変わる。そんな感じだ。
「メスが原動力だからそっちを先にすべきだったかもなぁ……」
「やらないとわからなかったと思うし、いいんじゃない?」
「まあ、それもそうか」
カミ子が答えて納得する。
そのおかげかあまり落ち込むこともなく、次の確認に移ることができる。
「そんなゴブリンたちはどんな感じだ?」
「想定していた最終ラインまで拡大し切って手狭になってる」
「本当だな。ん? これは何だ?」
「え?」
「マジ?」
カミ子も予想外だったのか驚きの声を上げた。
理由は簡単。何とゴブリンたちはダンジョンを真似して塔を建てていたのだ。
わずか一日で変わり過ぎ。しかも管理者の目を盗んでというか、全く気づかせずに建設していた。
オレとカミ子は事実確認を行うため、慌ててゴブリンリーダーに念話を繋げる。
⦅ダンジョンできてんだけど!?⦆
⦅ちょっと報告来てないよ!?⦆
⦅うわっ!! ビックリしたぁ……⦆
同時に、それもやや大きめに念話したため驚かせてしまった。しかしそんなことはどうでもいい。ダンジョン、巨塔の話が先だ。
⦅ビックリしたのはこっちだぞ?⦆
⦅いやはや、報告遅くなりました。昨日から一日中入れ替わり立ち替わりで作業しておりまして⦆
⦅完成したの?⦆
⦅はい。先程そう報告がありました⦆
建設途中かと思っていたが既に完成済み。ゴブリンの数とその労働力のゴリ押しで成し遂げた感じだ。
しかし、疑問が浮かぶ。
⦅それってさ、オレたちの権能使えたりすんのか?⦆
⦅恐らく可能だと思います。我々が拡大した森の領域に転移陣を設置できますので、ダンジョン産ゴブリンが携わることで可能になるかと⦆
⦅やべぇ……⦆
思わず考えていたことをそのまま念話で伝えてしまう。
いや、それも仕方ない。この事実はオレの目的達成に大きく関わる。
ダンジョンをそれぞれ攻略して、各地域、産出されるアイテム、素材によって経済を支配することで目的の達成と考えていた。
しかしこれは、大陸全土を支配可能であると告げているも同義。
その事実に高揚し震えが止まらない。
「うわっ……本当に使える」
「コレはっ……!? ヒロトっ!!」
「何だ……?」
カミ子に呼ばれ目を向ける。すると指をさしており、その方へと注目する。
「マジか……」
衝撃の事実。
『ダンジョンを建てれば、そのダンジョンの主要生物を決めることができる。』
この一文に、オレの脳内では想像妄想が駆け巡った。
⦅ダンジョンの件は……把握した。またこっちから念話する⦆
⦅了解しました⦆
ゴブリンリーダーとの念話を終わらせ、ソファに全身を預ける。
カミ子も同じく足を投げ出し寝そべっている。
「進行スピード早すぎだ……」
「もう全部支配する流れだよ」
「上手くいきすぎ」
「そうかな? 裏切られたりするじゃん」
「それもそうか」
二人で上の空になりながら会話を続ける。
言葉にしている通り進行スピードは早く、裏切りがあったにしろ上手く行き過ぎている。
ふらっと立ち上がり、次に確認するはずだった冒険者の観察を遅らせ、必要階層のダンジョン転移を行った。
ダンジョンの共有も可能となっており、新たに作られたダンジョンを人間製造工場にしようと考えたためだ。
「オレはあっちで作業してくるわ」
「分かった……ご飯出来たら呼ぶね」
「おう」
「いってらっしゃいませ」
最後にメイドゴブリンに見送られ、オレはもう一つのダンジョンへ転移した。
⦅ゴブリンリーダー。今後このダンジョンは別の目的に使う。もう二つ程自分達用のダンジョンを作ってくれないか?⦆
⦅了解しました⦆
⦅すまないな。明日また指示すると思うけど、一部の連中を北の方へ派遣し領域拡大を目指す⦆
⦅おお! それはとても良いですな⦆
⦅ああ、だから今日は我慢するよう伝えてくれ⦆
⦅いえいえ、構いません。それでは⦆
念話を済ませ、新ダンジョンでの活動を始める。
狂戦士冒険者の観察、クローン体生成、男二人の
健康状態把握。この三つを行い計画を進める。
「やあ、君たちを生み出したこのダンジョンのマスターだ。よろしく」
生成した人間たちに挨拶して次々に進めて行く。
一度ゴブリンではあるが経験しているため、リーダーとする人物を選び、ソイツにこの世界の知識を魔法を使ってインプットさせる。
「お前たちには町に行って、情報収集、事業の立ち上げ・拡大を行ってもらい、影響力を付けてもらう」
「なるほど。では私がこの者たちに知識を授け計画を進めよ、と」
「その通りだ。生活に欠かせないものは提供できるし、自分たちでそれらを生産することも可能だ。その時は言ってくれ」
「了解しました。では早速――――」
次々とリーダーが必要なものを提示して、オレがそれを与えていく。
食料問題に関しても自分たちでやった方がいいと考えたのか、畜産や農業など、今楽園でやってること全てを教えた。
そのため、農業を行う階層、家畜を育てる階層、住居の階層と分けていった。
ダンジョンはそれで終わり、次は冒険者たちの下へ向かった。
「やってるなぁ」
狂戦士化を図る一人の冒険者は既に完成しつつあり、入れ替わりでゴブリンたちが転移陣から現れ戦闘を行っていた。
用途はいまだ未定で、ただオレの楽しみの一つとなっている。いつかこの男を使う日が来ることを願っている。
次に向かったのはクローンを生成している階層。
そこには二人の女冒険者。純粋な人間と、エルフと人間のハーフ。分かりやすくハーフエルフと呼ぶことにする。
「へぇ〜、出来てるな」
「……」
フィクションでよく見る大きな培養機の中に、人間の方のクローンが五体ほど並ぶ。
ただそれを嫌ってか、オリジナルの女冒険者は不服そうな目でこちらを睨む。
「順調そうだな」
「はいぃ。ヒロト様のために、日々研究しております」
返事をしたのは従順に従うハーフエルフ。
どうやらエルフやハーフエルフは魔力や魔法に魅力を感じるようで、オレの魔力にあてられ従順な態度へと変わった。
「あまり無理するなよ。必要な人材なんだから」
「は、はいぃ……今日もいいですかぁ?」
「いいぞ」
そう返事をすると、ハーフエルフはオレの手を握る。そこで魔力を流し、ハーフエルフがそれに触れる。すると。
「はあぁ……いいですねぇぇ……」
このように癒されるようだ。
理由は教えてもらえず、その行動に理解ができていない。ただこうすることで、ハーフエルフの体調も良くなり研究効率も上がるため行なっている。
「それじゃあ早速、二体のクローンを持っていく」
「かしこまりました」
培養液が別の容器へと移されていき、クローン体が空気に触れる。完全に液が移り終えて扉が開き、女冒険者のクローンはこの世界に降り立つ。
「着いてこい」
「はい」
二体のクローンがオレの後ろを歩く。
気がかりは、体は出来ていても心、感情がどうなるかわからないということ。一応対策はあるため問題ないが、対策を取らなければならないという状況を今後改善したいところだ。
一人の男の階層の入り口まで到着する。
そこで一度立ち止まり、一体のクローンにオリジナルの記憶、性格等をコピーし、加えて魔法を使用する。
「
クローン体は、目の前の男のことをとても好ましく思い、その男を愛することしか出来なくなる。そういった改竄を行った。
その後階層に進入させ、もう一人の所へも同じようにしてクローン体を送った。
「様子を観察して報告書を作成してくれ」
「了解です」
「後は人体の研究も頼む」
「はい、勿論です」
「……」
自由な暮らしは与えているがショックが大きいのだろう。人間の女は話すことはなく、ただじっとオレを見るだけで何もしない。
不思議に思うが警戒は怠らないようにする。
最後に、獣人たちの暮らしを見て仕事を終わらせる。そう決めて小鬼ダンジョンに戻り部屋を出た。
「あーーー!!!」
「あうあうあうあう」
「びやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「あっあっあっあっあっあっ」
至る所から甲高い声が響く。
いきなりのことに思考が停止する。
「な、なんだ、この声は……」
戸惑っていると、そこに女児が現れる。
「お久しぶりです」
「あ、ああ。この声は何かわかるか?」
獣人の裏切りを確認させた時の女児がたまたま通りかかり挨拶して来た。
オレはそれに応え、疑問をぶつけた。
「赤ちゃんたちです」
「赤ちゃん? 獣人たちのか?」
「はい」
「え、早くない?」
「?」
女児は理解できてないのか首を傾げる。
普通人間の出産は約九ヶ月は掛かる。狼や動物の月日は分からないが、それでも早いことだけは理解できる。
変化させたことでバグが起きたか?
「何人産まれたんだ?」
「全部は分からないけど、一人五人ぐらいは産んでたよ」
「五人?」
動物的な数だ。
ただそれよりも、獣人たちはお腹が大きくなっていなかった。この解明はしないといけない。
「見てるか分からないが、出産時の赤子の姿は分かるか?」
「分かるよ。赤ちゃんたちは狼の姿で産まれてたよ。お母さんたちもそうだったけど」
「あ、ありがとう」
「うん」
戸惑いながらも女児の頭を撫で感謝を伝える。
そこで別れてオレは部屋に戻る。
「少しやり過ぎたかなぁ……」
ありえないことの連続で自分の行動を省みる。
しかし不幸は今のところ起きていない。様々な現象が絡まり起きることはあるかもしれないが、天罰を喰らうなんてことはない。
この世界の神はマサキとオレだ。
そこを再認識して、このままでいいと自分に言い聞かせた。
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