第42話 再会




 店内に戻ると、全ての視線がオレを貫く。

 何も言うこともなく、ただただ見続けられる。そんな状況の中、気にするそぶりも見せず元の席に座る。


「食事をしたいんだ。お前らも元に戻れ。いつまで呆けてる」


 席に着いてもなお見て来る客に語気強めに告げる。すると客は、一斉に顔を背き思い思いに話を始める。ただ聞こえて来るのは、オレの話ばかり。


「まあ、ずっと見られるよりいいか」

「お、お待たせしました〜」

「ありがとう」


 店主が気を利かせたのか、女店員がすぐに料理を運んで来た。しかしそれはオレだけの分じゃなかったらしく、隣の席に女店員が座り許可を求めて来た。


「私もここで食べていいですか?」

「好きにしろ」

「は〜い」


 まかないを客と同じテーブルで食うのか? という疑問が湧くが、小さなことで声を上げるのもどうかと思う。結果同席を了承し、静かに食事を始めた。


「お客様ってお強いんですね」

「そうなのか?」

「はい〜、とっても。氷漬けになられた方はこの町じゃ有名な冒険者様ですよ?」

「そうか」


 女店員は静寂に耐えられなかったのか話題を振っては広げようと努力する。冒険者という部分は少し気になるが、是が非でも聞こうとは思わない。


 このまま情報を少し得ることが出来れば問題ない。そう考え、最低限の返答を続けた。


「お客様は冒険者じゃないんですか?」

「違うな」

「えー! あんなに強いのにですか?」

「ああ」

「ほえ〜」


 少し面倒だ。

 食事をしたいが話すことで必然的にペースが落ちる。どうしたものか。


「すまねぇ。同席いいか?」


 困っていると一人の男が話しかけて来た。こちらも冒険者のようだが、先の男より印象も良く、対等な目線で話しかけて来たように感じる。

 断る理由もない為、同席を許可する。


「好きにしろ」

「悪りぃな。おい! こっちに来い!」


 男は仲間を呼びつける。

 どうやら集団、パーティーというやつらしい。この世界でその言葉が合っているか分からないが、そんな雰囲気を感じる。


「お、お客様は大物に縁がありますねぇ」

「大物?」

「はい〜、こちらの方々もこの町では有名でございます」

「そうか。興味ないな」

「ええぇ……大物〜」


 構わず食事を続ける。

 そんなオレの様子に女店員は大物認定をしたようだが、それもどうでもいい。

 もう少しで食べ切る。そんな時。


「悪い悪い。遅れた」

「リーダー遅いぜ〜。俺たち腹ぺこだ〜」

「だから謝ってるだろ? 全く」


 パーティーのリーダーが遅れて来たようだ。

 席はオレの右隣だけ空いてる。リーダーと呼ばれる男はそこに座る。何も言わないのは無愛想過ぎると思い顔を上げた。


「同席感謝するよ」

「気にするな」

「何だ、ヒロトか」

「ああ、マサキか」


 お互い一言告げて顔を見た。そこで正体を認識し、知人であったためポロッと名前をこぼす。

 ただそんなオレたちに女店員が尋ねる。


「お知り合いですか?」

「……」

「……」


 もう一度互いの顔を見る。そこで。


「「ビックリしたぁ〜」」


 二人して驚いた事を口にした。

 あまりに自然すぎて久しぶりに会ったことを思い出す。


「自然すぎて認識が遅れた」

「何だよお前。女の子侍らせてよ〜」

「ただの店員だ。賄い食ってるだけだ」

「そうか」


 理由に納得したのかそれ以上踏み込んでくる事なく、マサキは料理が運ばれるのを待っていた。しかしそこで、異議を唱えるものが現れる。


「ちょっとそれは違うよ〜。あなたを狙う、女の子よ〜!」


 女店員はオレの横に来た真意を告げた。


「らしいぞ」

「そうか」


 マサキはオレに回答を促す。

 オレは理解したことだけ告げ、最後の一口を口に運んだ。


「もう〜、仕事に戻ろっ」


 女店員はオレの皿と自分の皿を持って厨房へ戻って行った。それを見届け、オレとマサキはパーティーと距離を取り話を始めた。


「やっと町に出て来たか」

「成り行きだ。まあ、今後は出て来ることも多いかもな」

「へぇ〜、色々進んでんだな」


 マサキは深入りすることはなく、何となく計画が進んでいる事だけを理解して相槌を打つ。

 オレもとりあえず把握するため尋ねる。


「マサキの方はどうだ? いろんなところに行けてるか?」

「ああ。俺は荷物運んだりして金と体験を得てるな」

「そうか」


 そこで一瞬会話は途切れる。

 しかし気になることがあり、オレはそれを尋ねる。


「そういえば、侵入者の件はどうなった?」

「ああ、そうだな。念話でも話したけど、待機空間に拡散はした。ただ一つ問題があるんだ」

「何だ? 共有してくれ」

「不確かなことだから言わなかったけど、侵入者の通知とほぼ同時期に、英雄と勇者が現れたっていう噂が広がってたんだ」

「なるほどな」


 初めて聞くことに腕を組み考える。

 通知が届くと同時期か。見つかるまでに若干のラグ、遅延があってもおかしくない。

 侵入者は一人であるからして、英雄、勇者のどちらか。もしくは、それに近しい人物となる。

 オレはそう結論づけ、マサキに対策を提案する。


「約一年、好きにさせることになりかねないが、オレたちが頭を悩ませることになった原因だ。どうにか制裁を加えたいな」

「確かになぁ……俺は商人だから、できるのは情報集めぐらいかな?」

「アプローチは多い方がいい。マサキは商人として、庶民から貴族までできるだけ情報を集めるぐらいでいいんじゃないか?」

「OK」


 貴族が居ると仮定して話たが、まあ上手くやるだろう。ただオレはどうするかだが。


「ヒロトは冒険者になって高難易度な依頼とかやって名声を轟かせるといいんじゃね?」

「あー、まあ、それもアリか」

「マジ? 冗談なんだけど」

「いや、丁度いい」


 そう、丁度いい。

 組織ではなく個人で動く目的があれば、ダンジョン産の人間を解き放ち情報を得ても、依頼の時に掴んだと言ってオレに注目を集めることができる。

 その提案に乗らせてもらおう。


「各々の行動はそのくらいだな」

「報告は念話でいいか?」

「ああ。それでいい。後は、そうだな……バレない。これが重要だな」

「難しいなぁ……まあ、やるしかないか」

「無理だと思ったら手を引けばいいし、気楽にいこう。侵入者は一年経てば消えるんだからな」

「おう」


 そこでオレは席を立ち会計に移る。すると女店員が対応し、店の外まで見送りに来る。


「ご丁寧に、どうもありがとう」

「いえいえ。これを渡したくて」

「……なるほどね」

「ありがとうございました〜」


 そう一言告げ、オレは通りを歩いて行く。

 後ろから響く女店員の声を聞きながら、受け取った紙の場所まで向かった。

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