第50話 物件探し




 翌日、俺は早速行動を開始した。

 定住する為の物件探しだ。

 不動産商会へ歩いて行く。後ろには小さな少女が一人。サキだ。


 何もすることがないらしく、俺に着いて来たのだ。

 追い返す必要もないため、一緒に物件を見て回ることにした。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で」

「物件を探しに来ました。この町で暮らそうと思いましてね」

「そうですか。それではご紹介させて頂きます。このような区画がありまして、こちらには住まわれることは出来ません」

「貴族領ですかね?」

「はい。お客様がご貴族と認められるとコチラの方へ住むことも許される。この国の法律にもありますので、念のため確認させて頂きました」


 挨拶程度の話か。

 恐らく誰もが始めに聞かされる定型文。そんな感じだ。


「お客様ですとこの様な物件がお得かもしれませんね」


 早速紹介が始まる。

 諸々すっ飛ばしているが、この職員にはカリスマ性があるかもしれない。そう信じてその物件の詳細を見る。


 しかし、目当ての感じとは真逆。

 雰囲気で察し、いきなり紹介を始めたのではなく、俺とサキを見下しての話の進め方だったようだ。


 騒ぎは起こしたくないため、身分証にしているギルドカードの残高照会を見るよう促す。


「ご心配なさらず、良い物件を教えて下さい」

「ん? ああ、すいません。いきなりご紹介をはじめまし、て……」


 カードを受け取り情報を確認して行く。残高のところで彼女は言葉を失った。

 庶民が持っていては不自然な程の金額。彼女は失礼な態度を取ったと反省しているだろう。まあ、そこに声を荒げるなんてことはしない。


「申し訳ございません」

「うん。気をつけたほうがいいね」

「はい」


 サキが職員に忠告する。

 職員は失態を犯したため、年下からの言葉にも同じような態度で接する。

 イレギュラーがある。彼女は今日、一つ学んだ。


「お客様に合うと思われる物件です」

「ありがとう」

「見る」

「おう」


 改めて用意された資料を渡され、俺はそれに目を通す。サキも興味津々で、一緒になって候補の物件を見ていく。


「これって直接見れないですかね?」

「勿論見れますよ。馬車を用意するので――――」

「移動はこっちで用意できるから、資料と案内だけ頼むよ」

「かしこまりました」


 時間が掛かると考え、馬も荷車も自分で用意する。貴族領の時の騎士ではないにしろ、少しばかり不安に感じた。

 短縮できるところは短縮したい。職員も了承したため出入り口に向かい、馬車を用意する。


「じゃあ、行きましょう」

「お願いします」

「出発〜」


 馭者は俺。

 二人を後ろに乗せて、職員のガイドのもと様々な物件へと向かった。

 貴族領近くの小さな土地の細長物件。それとは対照的な、庶民領一等地の大屋敷。外壁近くの一般宅。治安悪めの区画にある大豪邸。親類での近隣住宅買い占め跡地。と様々な物件を見て、本拠点とする物件を決めた。


「ここにします。あとここも」

「ふ、二つもですか!?」

「はい。自宅と商会で二つ」

「かしこまりました。こちらにサインと血を一滴お願いします」

「はい」


 それに従い契約を済ませる。

 買ったのは、近隣住宅買い占め跡地と庶民領の大屋敷。後者が商会用だ。


「お買い上げありがとうございます。こちらに注意事項など書いてありますので目を通しておいてください」

「了解。それじゃあ不動産まで戻ろうか」

「はい」


 職員の返事が出発の合図となり、元いた不動産へと戻る。俺とサキは職員を下ろすとすぐに本拠点へと向かう。


「これどうするの?」

「こうだ……そしてこう!」

「うお〜」


 サキの問いに魔法を用いながら答える。

 買い占め跡地の土地は、どうやら繋げて一つにしても良いそうだ。そのため、道を削り全てを繋げる。

 結果、安く簡単に大豪邸を手に出来た。


 商会の物件は元々建物があるのもあって、内装の掃除を魔力で、装飾を創造魔法で造り替える。

 念話で部下たちも呼びつけ、馬車の移動や整理を任せる。


 借りた宿も引き払い、自宅へ物を移して行く。

 人数分の部屋もあるため、そこに家具一式を魔法で用意し、とりあえずの作業を終えた。


「マサキさん。商会の方はどうしましょう」

「そうだねぇ。明日から四日で整えよう」

「了解です」


 指揮を取らせる部下との話し合いを済ませる。

 今後は商会と関わる割合を減らしていく。俺とサキは学校へ行くことになっているし、意欲のある人間がやった方が成長に繋がる。そう考えて全てを丸投げする方針だ。


「後は使用人募集ぐらいだなぁ」

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