第43話 冒険者
清々しい朝を迎える。
体には柔らかい感触が残っており、何ともいえない心地良さが全身に駆け巡る。
ベッドから体を持ち上げ床に立つ。
昨日もらった紙の裏に文字を書き置き、創造魔法で服と靴、各種装飾品を作成してお礼の品とした。
家を出て清潔魔法を使う。
マサキと会話して冒険者をすることになった。それを思い出し冒険者ギルドへ足を向ける。
通りは朝から賑わい、ちらほらと商品を買う人間もいた。そんな光景を眺めながら念話を始める。
(カミ子。ゴブリンたちの指示は一旦止めておいていい。というか、これからお前には統括者として領域を管理してもらう)
(いきなりなんだ? 別にいいが、何をする)
(お前はオレの考えがわかるだろ。だからオレの考えにそぐわないことを各指示役がやっていたら注意、訂正することだな)
(わかった)
(ああ、頼んだ。メイドゴブリンは絶対に見せるなよ。それじゃ)
カミ子との念話を終わらせ、次はゴブリンリーダーに繋げる。領域もゴブリンも増えて来たため進行スピードを落とすように伝える。
⦅今後ゴブリンへの指示はお前が担え。オレやカミ子が出した指示はスピードを落としてもらって構わない⦆
⦅了解です。期待に応えようと思います⦆
言葉から誠実さが伝わる。
それを聞き問題ないと判断して次へと移る。
(お前は今後オーダーと名乗れ。今もやってると思うが人間の指示、管理は任せた)
(了解しました。ご期待に添えるよう全力を尽くします)
ダンジョン産人間のリーダーに名前を与え、改めて管理者として任命する。
オーダーも誠実に対応し、ダンジョン産であることを再認識した。
やるべきことが一つ終わる。その間にも足は動かしており、冒険者ギルドの前に到着する。
「朝からうるさいなぁ」
一際騒がしい場所に愚痴を漏らす。
こんなところに毎日通うことになると考えて一瞬身を引く。しかしマサキと話し合って決めたため、仕方なく扉を開いて中に入る。
すると一瞬にして声は消え、オレに視線が突き刺さる。何人いるかわからないが、ほぼ全員に見られている。その感覚を覚えながら受付と表記された場所へ向かう。
「冒険者登録ですね」
「ああ」
「年齢、性別、名前を記載の上、こちらに一滴血を垂らしてください」
「わかった」
言われる通りに進め、針を指先に刺して血を出し終わる。獣人たちの病の件があったからか、少し集中するだけで傷を塞ぎ、何事もなかったように説明を聞く。
「ルールとしましては、一般社会のものが最優先に適応されます。次に冒険者、その次に当事者同士のものとなります」
「ああ」
「こちらのカードでお金の管理、情報の管理を行えます。冒険者は依頼を受けて、それを達成することで報酬を受け取ります。依頼を受ける際は――――」
その後も丁寧に説明され、あっという間に理解する。次はどうやら能力試験だそうで、魔力測定、戦闘技術判定、知力判定が行われる。
始めは魔力測定。
「こちらに手を置いて魔力を流してください」
「これでいい?」
「……はい」
強張った表情が不安だが、次の戦闘技術を見てもらう。
「あちらの方と模擬戦闘を行ってもらいます」
「わかった」
始めの人間は数秒。次は1分。最終的にステータスに出る同ランクの者を倒して終了となった。
「……お疲れ様でした」
「ああ。次は知力ね」
「はい、お願いします」
別室へ移動して、この世界での基本的な問題が出題される。問題はよく分からないものばかり。ただ冒険者たちの記憶を覗かせてもらって正解だった。
「……呼び出されるまで、腰をかけてお待ち下さい」
「はい」
結果が出るたび担当した職員は改まった対応をして来る。不甲斐ない出来で目も当てられない。もしくは初心者でこれはおかしい、逸材を見つけた。自分では判断がつかない。そんなところか。
まあ結果が出ればどうでもいい。どこからスタートしようがやることは変わらない。
「ヒロトさん。結果が出ました。受付までお越しください」
呼ばれたため椅子から立ち上がり移動する。
名前を呼ばれるとは思っていなかった。これで名前は周知された。さて、どうなるかな。
「どうでしたか?」
「ええぇっと、端的にお話ししますと、異例の飛び級スタートです」
「そうですか」
「はい。本来Fランク、一番下のランクからですが、ヒロトさんのステータスはC1を記しておりますので、Cランクからのスタートとなります」
ステータスも同期されているためか情報が筒抜けだ。カードに対策しないとどんどん抜き取られる可能性があるな。
「飛び級と言ってもこれは異例ですよ? もっと驚いてもいいんですよ?」
「そうなのか? よく分からないから驚きようもないよ」
「本当は飛び級でもEが限界なんですよ。それがステータスと同じ数値からスタートなんて異例も異例ですよ」
「なるほどな。だからこんなに見られてるんだな」
「す、すいません」
説明を聞く間も突き刺さる視線に
「別にいいんだけど……」
「よう坊主。なんだか生意気してるらしいじゃねぇか」
早速起きてしまった。
変な情報が出回れば食いつく奴らが居るのがこの業界。フィクションと変わらない感じで出てくるみたいだ。
「ほらね」
「申し訳ありません!!」
後ろの人間を無視して職員に呟く。
それにもう一度頭を下げ謝罪をする職員。それを最後に見てオレは振り返る。すると。
「くらえ!!」
眼前には拳。
容赦なく殺しに来たそのパンチをオレは避ける。
それは続き、全く当たらないことにキレた男は怒鳴り声を上げる。
「逃げてばっかりかっ!!」
おかしな指摘に笑いそうになるが耐える。代わりに右手に魔力を集め圧縮を行う。
どんどん膨らむ魔力に理解した者は立ち上がる。
「やめろっ……!」
一人の男が止めに入る。しかしそれはできない。
目の前の男の自業自得。無駄に絡んで来たのが悪い。
オレは静止の言葉を無視して拳を避けると、右手で男の顔をタッチする。その結果。
パンッ――――と弾ける音が響き、目の前の男は後ろに倒れた。
その光景を見て室内は静まり返る。
人が死んだのだから当然と言えば当然。
オレは振り返り職員へ告げる。
「次も同じようなことがあればオレは殺すぞ。お前たちも情報は丁重に扱え。次はないぞ」
「は、はい……」
目の前の職員は自分のしでかしたことに頷くことしかできない。地雷がどこにあるか分からないことも理解できたはずだ。
これで十分と思い帰ろうとする。すると。
「君! 殺す必要はあったのか?」
金髪の
あの瞬間、止めるように言った男だ。
経緯を知らないのか、相手の立場になれないのかと本音で尋ねて来ている。
「同じミスをさせないための見せしめだ」
「なっ……!? それなら気絶させるまででいいじゃないか!」
「押し問答するつもりはない。お前の論理の中にオレを入れ込もうとするな」
「そんなつもりはない。ただ命が軽すぎる。そう思うから言ってるんじゃないか」
優男はやめない。
時間稼ぎか? そう思うぐらいにオレの話を聞いていない。問答しないと言っているのに関わらず、答えを求めるように話して来る。
面倒だ。こいつも殺すか? 一瞬殺気を漏らす。
「何をするつもりだっ……」
男は少し距離を取り臨戦態勢を取った。
そこで目の前の男が少しは出来ると感じて、オレは殺気を収めた。
「問答しないと言ったよな? それを無視したから殺そうとしたまでだ」
「君の言葉を借りれば、君の論理の中に僕を当てはめようとしていることにならないか?」
「はあぁぁ……」
説明されないと納得できない奴のようだ。
こういうのが一番面倒臭い。実力もそれなりにあって頭もそれなりにキレる。
互いの思想が違うことを理解して離れようとしないのが、コイツがバカな理由なんだろう。
「いいか? そもそも命は軽いんだよ。お前が言ってるのはその人間に対する情の方だ。命単体のことを言ってないだろ? お前は。そこでまず食い違ってんだ。お前とオレじゃ相容れないんだ。わか――――」
「なーんか、いけすかない感じー?」
そこで優男の後ろから女冒険者が割り込んでくる。
オレのイライラはもう限界だ。
「なあ、オレ言ったよな。問答するつもりはない。次はない、と」
「すいません! お二方、私のミスなんです。この方に非はないんです。申し訳ありません!!」
吐き出された言葉に危機感を抱き、女性職員が慌てて止めに入る。だが、もう遅い。
この二人が納得したとて逃しはしない。
「あなたが謝る必要はないでしょー? この――――」
ダンッ。
「避けっ――――」
ボトッ――――。
「ぐッ……」
女は苦悶の表情を浮かべ、無くなった左腕を見つめながら左の肩を抱く。
抜き切った剣の血を払うように振り、鞘に戻す。
「退け」
「……」
目の前に優男が立ちはだかる。
オレが女に更なる攻撃を加えないようにするためだろう。しかし対象は女だけではない。目の前のお前自身も殺害対象だ。
「死ねよ」
「ブホッ」
魔力を込めた拳を鳩尾に入れる。
自分を対象外だと認識していたのか、綺麗に決まって優男は吹き飛ぶ。
テーブルに座っていた冒険者達の所へ突っ込んで料理は台無し。テーブルは壊れる。
「おい。分かったよな? オレとアイツ、お前がオレと相容れないことが」
「かっ……」
「返事は?」
女の首を持ち上げ声を出せない状況で聞く。
側から見れば、首を持ち上げてるから喋れないだろとツッコミが入るだろう。しかしそれは、返事をさせる気がさらさら無いからだ。
「ぁ……ぁぃ……」
微かに聞こえた返事を最後に、首から手を離し蹴りを顔面に入れ全てを終えた。
殺すつもりだったが、これだけ痛めつければいいだろう。そう考え出口に向けて歩き出す。そこで。
「暴れてるみたいだが、どうしたのかね?」
二階から低い声で問われる。
ただそれを説明する義務はない。オレは無視して扉へ進む。
「こらこら。無視は良くないよ」
「……」
髭を蓄えた男が目の前に転移してくる。
オレを追及するつもりなのだろう。だが落ち度はギルド職員、他三人の冒険者だ。
「私はギルドマスターだ。かなりの権限があるが、無視するかね?」
「そうか。だが態度がデカいぞ。今回の件はテメェの組織のミスから始まってんだよ」
「……そうか」
「退け」
それで終わり。そう思い視線を切って足を前に出す。しかし、ギルドマスターは動く気配がない。顔を上げその男を睨む。
「だからと、この惨状を見て見ぬふりはできないな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます