ニコノワールプロダクション(3)


「……ですが、それでは私をスカウトした意味がないのでは?」

「いやいや、あるさ。これを見てくれたまえ」


 ぽち、と黒井専務が操作すると、ホログラムのアバターが現れた。

 それは、黒いポロシャツを着た、ゴルフクラブを構えているスタイルの良い女性のアバター。


「これは我々のデザイナーが提案するプロゴルファーB-Caster、鴉羽からすばクロナだ」

「……ゴルファー、ですの?」


 と、ここでハッとカロナは思い至る。


「そう、君のスライムゴルフの腕前を存分に生かして欲しいわけだ。そして、君はお嬢様になりたい、と、言っていただろう?」

「え、ええ。私はお嬢様になりたいのですわ」

「鴉羽クロナは、プロのゴルファー。君も言っていただろう? ゴルフは紳士淑女のスポーツであり、金がないとできない――金持ちのスポーツ!」


 ここで大げさに腕を広げる黒井専務。


「つまり、クロナはお嬢様・・・なのだ。君は、お嬢様になる・・・・・・のだ!」


 そう言い切る。言い切った。お嬢様になりたいカロナに、お嬢様になるのだと。


「お嬢様に、なれ、る……!?」

「そうだ。もちろん、現実でも教育を施す必要がある。お嬢様となるサポートだな。なに、最初はハリボテだろうが、我々のプロデュースに従うのであれば金はたんと稼げる。実態があとから追いつくだろう」


 無論、その演技のために必要な経験――食事等、旅行費等は、教育のための費用として会社で持ってくれるらしい。


「……で、ですが、コクヨウとセバスはどうしますの!?」

「メイドと執事をたんと並べよう。その中に紛れさせてしまえばそのままいても不思議はない。偶然と言い張れる程度の、多少の『匂わせ』というのもいいものだ」


 ククク、と笑みを浮かべる黒井専務。


「さぁ、この話……断る理由はないだろう? 雇用契約書にサインしたまえ、それで君は晴れて鴉羽クロナ。ゴルファーお嬢様になれるのだ!!」

「わた、私が……お嬢様に……ッ?」

「お嬢様。落ち着いてください。……申し訳ありません黒井様。今は一旦話を持ち帰り、検討させていただきたいのですが」


 コクヨウがそう言うと、黒井専務はフンと鼻で笑った。


「AI風情が口を挟むんじゃない。これは人間同士の、仕事の話だ。わきまえて邪魔をするな」

「……ですが、現在お嬢様は正常な判断が難しい状況だと推測できます。我々AIのデータはBCD本社に送られていることはご存じでしょう? この状態での契約が有効かどうかの証拠にも……」

「チッ。AIなだけあって小賢しいな……わかった、一旦話を持ち帰ることを認めよう。どうせ我々以上に良い条件などありえないものな。竜胆寺君、良い返事を期待しているよ」


 カロナが雇用契約書を手に悩んでいるうちに、あれよあれよと話が進んで、カロナは一旦話を持ち帰ることになった。


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