推しの配信を見ていますわー!!


 カロナは推しの配信を見るため、配信を終了したつもりだった。

 いつもは配信ツールのウィンドウを『閉じる』で配信をシャットダウンしていたが、今日は、ほんの少しそれがズレていた。

 そのため、配信ツールを『最小化』したまま、『配信が続いていた』のである。


”お嬢ー、後ろ後ろ”

”カロナ嬢、結構PONだから(抜けてる所があるの意)いつかやると思ってた”


 ダンジョン配信のときとさほど変わらない状態。けれどホームにおいては机に座標を固定していたため、折角の警告コメントも、後ろを向いたカロナの視覚外だった。


”ミカド様配信同時視聴会場はここですか?”

”まぁミカド嬢はミラー配信禁止してないし規約的には大丈夫だな。ヨシ!”

”推しお嬢様を見るお嬢の配信……危ないセリフが出そうでちょっと心配”


 そしてカロナの配信ではミカドチャンネルの配信と、カロナの後ろ姿が流れている。

 ミカドの配信では、OPが終わってミカド本人がにこりと挨拶をするところだった。



『ごきげんよう皆さま。本日もわたくしのお茶会へようこそ、天納時てんのうじミカドですわ』

「ひゃー! 今日も美麗! 白魚のような指先に、ビロードのような御髪! 気品のある御召し物もお声もお顔もお美しくていらっしゃいますわー!! 好きッ!!」


”早速お嬢が壊れた”

”まぁこの程度はいつもの範疇?”

”だがこれが俺達のお嬢だ。解釈一致”


 奇声をあげるカロナだが、割と視聴者たちは落ち着いていた。カロナイトたるもの、このくらいは想定内である。

 だってカロナだもの。まだ慌てるような時間じゃない。


”誰かSNS経由とかでフレンドに教えて通話入れてもらったら?”

”フレ……ンド……? トモ、ダチ……お嬢に……いるのか?”

”【悲報】お嬢はぼっち【フレンドリスト0人】”

”Oh……なんかすまんかった (´;ω;`)ブワッ”


 そんな悲しいお知らせをよそに、配信に首ったけのカロナ。

 ミカドは配信しながら、向かうダンジョンを選ぶ。向かう先はソロダンジョンであり、カロナが行ったら一発即死も免れない高難易度高レートのダンジョンだ。


『今日は今度行うチャリティーオークションに出品する品を収集する予定ですわ』


 そういってニッコリと柔らかくほほ笑むミカド。廃墟の古城を模したダンジョンの石畳の道を、まるで木漏れ日の公園を散歩するかの如く優雅に歩いていく。


「はぁー、絵になる。最高かよ……これぞお嬢様ですわー!」


”同意せざるを得ない。これが本物のお嬢様か”

”カロナ嬢には到底真似できない上品さ”

”……あれ? この配信、手前にいるのって、さてはお庶民様だな?”


 そして、道の端からモンスターが飛び出してきた。黒い影のようなトカゲ、シャドーリザード。影に溶けて物理攻撃を無効にする、非常に厄介なモンスターである。

 が、ミカドは慌てることなくそれを日傘で受け止めて――


『――スキル発動。【宝石封印】』


 次の瞬間、シャドーリザードは6角柱の透明な宝石に閉じ込められ、カランと石畳に転がった。コインほどの大きさのそれを、ミカドは傘を使って跳ね上げ、ぽすと手中に落とす。


「出たぁー! ミカドお姉様の宝石封印!! 素敵! 私も閉じ込めてーー!!」

『ああ、初見様のために説明いたしますと、これは私のユニークスキル【宝石封印】ですわ』


 ユニークスキル。

 デブリ技術によって作られたアバターは、ダンジョンを攻略していくことで経験情報が蓄積され、RPGゲームのレベルアップのように強化されていく。その中で、稀に固有のスキルを習得することがあった。

 一般スキルと異なる強力な効果であることが多く、また数多くの強化を経てようやく覚えるため、ユニークスキルを持つことが上位攻略者の証とも言われている。


『【宝石封印】は、対象を宝石に閉じ込めるスキルですの。このくらいの相手なら弱らせずとも封印できますわね。――そして、この宝石は閉じ込めたモンスター1匹分の素材として取り扱うことができますわ』


”高難易度ダンジョンのモンスター丸々1匹分の素材……いくらになるんだ?”

”単純に計算してあれひとつで数十万。レア部位も確定で内包してるし、実は上位陣の装備はミカド嬢に支えられている説ある”

”それをチャリティーオークションに!? ミカド様すげぇ。これが本物のお嬢様か”

”カロナ嬢じゃ逆立ちしても勝てないお嬢様力ですわ……!!”


 驚愕するカロナイト達。一方、カロナの反応は――


「モンスターを宝石にしてしまうだなんて、なんと優雅で綺麗なユニークスキル! ああ、モンスター入り宝石欲しいけど圧倒的に高くて手が出ないぃ……! 秘書AIのお金をつぎ込んでしまおうかしら……いや、でも執事とメイドはお嬢様的に欲しい……いやいや、でもでも宝石たちは一期一会、この機会を逃したら……ッ」


”お嬢もはやただのミカレイドで草”

”ミカド嬢のファンネームだっけ?>ミカレイド”

”だぞ。ミカド+レイド(集団)な。尚ドM属性が強くなるとミカドレイになる”

”草wwww”


 秘書AIのために貯めたお金でチャリティーオークションに入札するかどうかで本気で悩んでいた。もっとも、10万円では入札したところで競り落とせるかは甚だ怪しいラインである。


『石達は、後日配信でチャリティーオークション致します。が、決して無理に入札なさらないてくださいましね? ご覧の通り、私であればいくらでも手に入れられる石ですからね』

「っはぁーい! 今回は見送ります、すみませんお姉様! でも貧乏ミカレイドにも配慮してくださる心意気! 素敵! 抱いてっ!」


”抱いてとか言うなし。配信されてんだぞお嬢”

”そろそろ気付いてくれんかなー?”

”言う事素直に聞いてて草w ミカドレイ疑惑あるでこれ”


 ほんの少しギリギリな発言だったが、まだまだセーフだ。




――――――――――――――――――――

(おおっ! カクヨム総合週間107位になってましたわ!!

 あとちょっとでお寿司(スーパーで半額)ですわ!!!

 ……お寿司食べたいので★★★応援よろしくですわーーー!)

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