お寿司配信。(前半)


 お寿司。

 それは、高級食品。

 一般に米飯などと主に魚介類を組み合わせた伝統的和食。


「……ッ!!」


 そして沙耶は、今回スパチャ解禁のお祝いということでお寿司を買いにスーパーにやってきたわけだが――狙い通り半額シールが貼られている――そこには、何種類かのパックがあった。


 ひとつは助六パック。巻き寿司といなりずしのセット、定価300円。

 ひとつは単品の握りずし。同じネタが3個で1パック、定価400円。

 ひとつは詰め合わせの握り寿司セット。イカやら青魚やら玉子やら、何種類かの寿司が8個で1セットのやつ。定価700円。

 そして詰め合わせの中でも「三種のマグロ!」と書かれてる定価1500円の高いやつ……!!


 それぞれ1つずつ残っている。さて、どれを購入するべきか――


「……ど、どうしよう。お寿司、というからには握り寿司のがいいよね。種類が多い、詰め合わせの方がいいよね?」


 沙耶だけの印象かもしれないが、お祝いの寿司といえば握り寿司だった。あるいはひな祭りのちらし寿司だが、握り寿司をイメージしていたのだからここは譲れない。


 そして、握り寿司なら1種類よりもたくさんの種類があるヤツの方がお得感がある。なにより、単品のは1個当たりの値段が地味に高そう。ネタの種類で値段は異なるんだけど。


「……よし! 決めた」


 と、沙耶は定価700円のパック寿司、最後のひとつに手を伸ばし――


 ――その手は空ぶった。

 おばちゃんに取られたのであるッ!! なんということ!!


 そして残された詰め合わせは定価1500円のお高いお寿司詰め合わせ!!

 半額シールが貼られていて尚お高いから残りやすいお高いやつ!!!


「……ぐ、ぐぅっ!! で、でも!!」


 いつもの沙耶なら、絶対に諦めてしまう。が、沙耶の頭には先ほどの配信のスパチャがよぎった。「寿司代」のレインボースパチャだ。わざわざお寿司のためにあれほどのお金をくれたのだ。

 であれば、寿司に妥協してはならない!! それは寿司代スパチャをくれたカロナイトへの見返り、還元である!!


 そう、これは逃げでは、残り物ではない。買うと決めた前進なのだ!


「……ッ!!!」


 がしっ、と、沙耶は定価1500円の3種のマグロのパック寿司を掴んでカゴに入れた。

 半額でも750円。沙耶的に高級な存在に緊張で手汗が出て、ちょっと滑りそうだった。


  * * *


 沙耶の持つヘッドセットにはスキャン機能も付いている。元々部屋の壁等をスキャンするための機能だが、これを用いて物品をスキャンし、3Dデータとして現実の物品をVR空間に持ち込むことができる。

 そして、それをBCDのMRミックスリアリティモードを併用し、同時に現実でも食べることで、アバターで『食事配信』ができるのだ!


「こんカロナー。ただいま戻りましたわ皆様方! お祝いと戒めを兼ねてお寿司を……お高いお寿司を買ってきましたわーーー!!」


 カロナは、身バレしないようにラベルシールにあるスーパーの住所情報を消してスキャンしたお寿司のパックを見せた。

 自転車で急いだせいか、イクラとウニが若干パック内に飛び散っていた。


”お高い(半額シール)”

”1500円が半額で750円……文庫ラノベ1冊くらいか”

”ま、まぁお嬢的にはお高いし。普段モヤシ1袋で1食にしてるお嬢だぞ”

”【750¥】寿司代”

”【750¥】寿司代”


「ひえっ!? 私が清水の舞台からバンジージャンプする勢いで使った750円を何の躊躇もなく!? しかもなんで2回!? っていうか今更ですけど、皆様ってどんだけセレブですの!?」


 カロナは自分をフォローしてくれるカロナイトの経済力に戦慄しつつ、早速食べていくことにした。半額寿司とはいえ、寿司は鮮度も大事なのだ。それはパックから開けてからの時間だとカロナは信じている。


 MRモードでスキャンしながらパックを開ける。改めて見れば、マグロとわかる赤いのが3個、白いのが3個、サーモン、エビ、軍艦巻きのイクラとウニが1個ずつ。全部で10個のお寿司。


「いただきます……いざっ!」


”ちゃんといただきます言えてえらい”

”俺も晩飯食べよ”

”寿司いいなー”


 カロナは、寿司に箸を向けた。

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