AIのある生活



「ただいまーっと。……最近は生活も安定してきたなぁ」


 カロナの中の人、沙耶さやは玄関で靴を脱ぎつつ呟いた。その手に持ったエコバッグの中には、なんと豚肉が入っていた。タイムセールで手に入れたレジにて半額の一品だ。


 それもこれも、AI秘書、セバスチャンとコクヨウのおかげである。

 BCDはAI秘書以前と以後に分けられるだろうと沙耶は思っている。


 まず収入源たるダンジョン攻略だが、最近はセバスチャンのおススメダンジョンに向かうことで実力に見合った安定した収入を得られている。

 それはもう、AI秘書代を完全にペイして十分儲けている形で、カロナの最大HPたる貯金残高はなんと25万円に到達していた。新記録である。

 (逆に、ダンジョンマスター側は無謀に突っ込んでくるプレイヤーが減ったために収入が減っているらしい)


 次に、配信や切り抜き動画。

 サムネや動画を、良い感じのものをコクヨウが作ってくれている。たまに撮影のためポーズを要求されるが、それも楽しいものだ。胸元のアップ撮影とかは恥ずかしかったけれど。

 このためか、平均同接数が30人くらいに増えたのだ。スパチャ解禁の時はちょうどバズっていたこともあり100人を超える接続数だったが、まぁ野次馬で。大事なのは安定してみてくれる人数だ。これが増えたのはとても嬉しい。


 そして、沙耶の生活のサポートだ。

 いままで細かく家計簿を付けるようなことはしていなかった沙耶だが、なんとコクヨウが家計簿を付けてくれている。しかも、おススメのタイムセール情報も提供してくれるのだ。

 そんな機能があるとはカタログにも載っていなかった。恐るべしAI秘書。


 と、ここで電源をつけっぱなしのVRヘッドセットから音声が流れた。


『おかえりなさいませお嬢様。購入レシートをお見せいただけますか?』

「あ、うん。ただいまコクヨウ。はいこれ」

『拝見します。……はい。スキャンできました。ありがとうございます』


 コクヨウの声に、沙耶は買いものレシートをVRヘッドセットのカメラに見せた。流石にデータがなければ家計簿を付けられないので、レシート等をVRヘッドセットのカメラで見る必要があるのだ。


 コクヨウのアドバイスにより、VRヘッドセットにBCDをバックグラウンドで起動させておくことでAI端末として流用している。

 ――つまり、AIメイドであるコクヨウが、自由にVRヘッドセットのカメラから沙耶の部屋を見ることができる状態なわけだが、それはそれ。スマート家電の端末と考えればよくあるモノなので、沙耶は気にしていなかった。


 あとなにせ、コクヨウはメイドなので。メイドは部屋の中で待機したりするのも当然なのだ。


 外出用ヨソイキのパーカーを脱ぎ、部屋着ジャージに着替える沙耶。


『はぁ……わたしに身体があれば、お嬢様のお着替えをこの手でお手伝いできますのに』

「さすがに人型ロボットな端末はねぇ、ウン千万とかするし業務用だよ」

『先は遠いですね』


 しかしこうして流暢に会話ができる相手がいるだけでも、一人暮らしに花が咲いたような充実感があった。


「せめてコクヨウのためにまともなAI端末を買いたいね」

『現状はMRモードとスキャン機能をあく、げふん。応用しての疑似端末ですからね。ですが色々難しいかと。これもバレたら規制されるかもしれませんし』

「え、そうなの?」

『BCDと連携できるAI用端末が公式で発売されるまでは無理でしょう。それとも自作なさいますか?』

「あっはっは。端末を自作できる技術があったら、BCDじゃなくて技術者で食べていけるよ」


 そう言って沙耶は冷蔵庫から差し入れでもらったペコシのドリンクを取り出し、カシュッと開ける。

 一口飲めば、みたらしグレープの微妙なフレーバーが鼻を抜けた。


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