コラボのお誘い


 その日、BCDにログインしたカロナに、セバスが話しかけた。


「え、コラボのお誘いですの?」

「はい。ダンジョンブレイバーのヤマト様から手紙が届いておりました。ご確認くださいお嬢様」


 セバスから封蝋の外れた紙の封筒――実際には電子データで、ただの開封済みメールだ――を差し出され、受け取るとその文面がウィンドウに表示された。



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 Subject:コラボ配信のお誘い


 拝啓、竜胆寺カロナ嬢。


 ダンジョンブレイバーのヤマトです。

 『赤の洞窟』では大変お世話になり、あれから楽しくカロナ嬢の配信を

 拝見しております。


 早速の要件ですが、今度コラボ配信をしませんか?

 先日の切り抜き視聴配信を拝見しまして、カロナ嬢のスライムを使った

 遠距離攻撃手段に見惚れました。是非伝授していただきたく存じます。


 授業料として、該当配信・動画収益の9割をカロナ嬢に渡す所存です。


 よければ打ち合わせをしたいので連絡ください。

 返信お待ちしています。


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 それは、至極真っ当なコラボのお誘いだった。

 ダンジョンブレイバーのヤマトは、カロナが唯一活躍できたマルチダンジョン『赤の洞窟』で、ボス部屋でちらっとすれ違った戦士だ。


「……これ本物ですの? あの方、もっと砕けた口調ではございませんでした?」

「送り元からして間違いなく本人ですよ」

「実はこの喋り方が素ということかしら?」


 カロナもお嬢様ロールプレイはしているが、中の人こと沙耶は普通の一般人。日常ではお嬢様口調で喋らない。

 カロナならメールでもお嬢様ロールは崩さないところだが……


「お嬢様。親しい交流があれば別ですが、物を頼む時は最初から砕けた口調では話しかけないものですぞ。これは社会人マナーというやつです」

「あら、そういうものなの?」

「ヤマト様は兼業B-Casterという話ですしな。なかなか礼儀正しい男です。爺は気に入りましたぞ? メールも要件や目的が分かりやすく読みやすい」


 宛先の名前、自分の名前、簡単な挨拶。からの要件、要件の背景。そして報酬、締め。と、清流のようなビジネスメール。

 適度な文字数で揃えた改行も、メールの読みやすさを上げるさりげないテクニックだ。


 それに、ヤマト達ダンジョンブレイバーのチャンネル登録者数はカロナの3倍以上、3500人を超えている。いわば格上の存在だ。

 それが、丁寧にお願いする形で、しかもコラボ配信・動画の収益もほとんどカロナに渡すと書いてあるではないか。


「セバスから見ても、良い話だということかしら?」

「まぁ、悪くはないかと。チャンネルの動画や配信も正統派ファンタジーな冒険動画という感じでした。詐欺ということもないでしょう」


 デキる執事は既にダンジョンブレイバーの身元調査ならぬチャンネル調査を済ませていたらしい。


 であれば、あとはカロナの気持ち次第ということだ。


 ……正直、ちらっと話しただけの相手とコラボというのもちょっと怖い。


 だが! そもそもカロナはこういう出会いを求めてマルチダンジョン『赤の洞窟』に潜ったのである。であれば、これは願ったり叶ったりというもの!

 ……結局あれから全然マルチダンジョンには潜っていなかったが!


「分かりました。この話、受けますわ!」

「かしこまりましたお嬢様。それでは返信をしたためますか?」

「ええ、早速書いてしまいましょう」


 と、メールの返信を書き始めるカロナだったが、ふいに手が止まる。


「……セバス、失礼のないメールの書き方教えてくださる? たぶんですけれど、ビジネスメールで絵文字や顔文字はマズいですわよね?」

「ほっほっほ! お嬢様もそういうことを気にされるお年頃になったのですな。もちろん、お教えいたしますとも」


 こうして、カロナはダンジョンブレイバーからのコラボ配信を承諾するメールを書いた。

 ……セバスの『爺や』ロールに内心「うへへ、爺や最高だぜですわ」となっていたのは、バレバレだが秘密だ。

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