ニコノワールプロダクション

(だいぶ難産でお待たせいたしましたわ……!)

――――――――――――――――――――



 カロナは星空プロダクションの時と同様、ニコノワールとの面接を行うことになった。


「うわぁお……」


 今回も相手のホームに出向いたわけだが、規模が違った。いくつも施設が立っていて、町のようになっていたのだ。

 基本は撮影スタジオ、アトラクションのような遊具、そして提携しているのかファストフードチェーン店まである。これはカロナも驚いた。


 実はこの時代、ネットワーク上の空間というのはタダで広げられるようなものではない。『ダンジョン』という災害があるからだ。ローカルで自分一人しか接続しないPCならともかく、『誰かが接続する空間』は広さに規制がある。

 『たくさんの接続があるバーチャルな広い空間』はデブリが堆積しやすく、本物のダンジョンになりかねないからだ。


「これだけの広さの空間を使えるということは、相当ダンジョン災害に対して貢献をしてるんでしょう。大きな箱ならではですね、お嬢様」

「むむむ、金があるということですな。しかし金を稼いでいるということはそれだけ阿漕アコギなことをやっている可能性もありますぞ、お嬢様!」


 肯定的なコクヨウと、否定的なセバス。なんやかんや拮抗している。


 ともあれ、中央にあるビル――ニコノワールの事務所へと向かう。

 まるで、いや、まさに巨大企業のオフィスビル。高級なホテルのロビーのような受付。そこに居た女性の受付に声をかける。


「すっ、すみません! 私、竜胆寺カロナともうしまして!」

「はい。13時ご面会予定の竜胆寺様ですね。お待ちしておりました。入館パスを発行いたしましたので、そちらのエレベーターで66階会議室へどうぞ」


 と、受付のお姉さんからゲスト入館証を受け取る。1人分。首から下げるストラップタイプのやつだった。


「……あー、その、付き添いが居ても大丈夫かしら?」

「そちらの方は……ああ、秘書AIですね。ええ、そのままご一緒されて大丈夫ですよ」

「あらそうなの? ではこのまま失礼しますわね。ありがとう」


 カロナたちは指定されたエレベーターへと向かう。ボタンを押せばすぐに「チーン」と扉が開き、エレベーターが開いた。


「VR空間をエレベーターで移動っていうのも、風情がありますね。セバス様もこういうのお好きでは?」

「……即座に転移するのではだめなのですかな? 非効率ですぞ」

「セバスったらここまできてそんな荒探しなんてしないで頂戴? まぁ、こういうこだわりがあるのは個人的にはプラス要素ですわね」


 とはいえ、即座に扉が開いたことを考えるとそのあたりはちゃんとバーチャルならではの効率が考えられているのだろう。66階というのも空間が圧縮されていると思われる。


 エレベーターの中で待っていると、ぐんぐんと電光掲示の数値が増えて、10秒ほどで66階に到着したことを示した。


 扉が開くと、そこは1フロアが丸々一部屋の広い会議室になっていた。

 角丸の細長いテーブルをはさみ、スーツ姿の中年男が胡散臭い笑顔を浮かべ、椅子に座ったままカロナたちを出迎えた。


「ようこそ。ニコノワール専務の黒井だ。では早速だがそちらの書類にサインしてくれたまえ」

「はい?」


 手前側。カロナの目の前にあるのは、雇用契約書だった。

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