プレゼント。


「今日は歌枠ですわー! 歌ってみた! しますわよ!!」


 というわけで、お嬢様はカラオケボックスにやってきていた。

 まぁ正確にはホームの内装を一時的にカラオケボックスにした、というだけだが。


 皮の貼ってない枠のみタイプの三日月型タンバリンを手に、コクヨウも盛り上げる気満々である。

 セバスはほどほどなところで飲み物やポテトを運んでくる予定だ。


”こんカロナー。おお。お嬢の歌枠って初めてだな”

”聞かせてもらおうか、お嬢の歌声とやらを……”

”リクエストいいですか?”

”こんカロ。なに歌うのー?”


「まぁ、私最近の流行の曲とかもあまり把握してないので、ここは適当にこう……何がいいかしら?」

「アニメソングとかどうですかお嬢様?」

「それですわ!! オープニングとエンディングなら歌えますわ!!」


”そしてCメロが歌えない”

”あるある”


「……確かに、アニメのオープニングとかだとカットされてて、Cパートはわからんちんどもとっちめちんですわね!?」

「お嬢様ご安心を。私が補助します!」


”なぜ急に一休さん出てきた?www”

”そしてAIメイドが優秀だわ。メイドさんとカラオケいいなぁ。いくら払えば”

”↑5万円定期”

”↑+カラオケホーム環境1000円だぞ。タンバリンもついてくる”

”↑だからVRヘッドセットを忘れるなっていつも言ってるだろ!”

”あ。セバスに男パート歌ってもらおうぜ”


「歌えますの、コクヨウ!?」

「歌えます。BCDで包括契約済みなので著作権も問題ありません!」

「お嬢様、男声が欲しくなったらいつでも言ってください。爺も昔取った杵柄、バーで歌姫を落とすために鍛えた喉を披露しましょうぞ!」


”セバスの過去がまた一つw”

”さすが元傭兵(設定)は格が違った”

”案外お茶目よなセバス”


 と、そんな感じで歌枠が進む。主にアニソンを中心に。

 Cパートはコクヨウにマイクを渡せば綺麗に歌ってくれる。凄い。


「あ、やっべ。この曲サビしか分かりませんわ!? コクヨウ!」

「お任せください! ~~~♪」

「お、おおっ。すご……これサビの気持ちいいとこだけ歌えちゃうぅ……!」


”すげー、お嬢様のサポート完璧なんだが?”

”というかAIメイドってカラオケの学習データもあったんだ?”

”いや、初期状態だと無いはずだけど”

[コクヨウ]:”あ。こんなこともあろうかと事前にお嬢様の選曲しそうな曲を聞いて練習済みですよ。フフフ”

”コクヨウさんwww 歌いながらチャットに混ざるとか器用だなwwww”

”すげぇwww 今難しいとこ歌ってんのにwww”

”やっぱり常態的にBCDつけっぱで好き勝手させてるんだなお嬢www 暇を持て余したAIの成長がやべぇぞwww”


 と、歌枠を満喫するカロナとカロナイト達。


 ――しかし、実のところ今日のメインは歌枠ではなかった。



 一通り好きなだけ歌って、良い頃合いの時間になったのでそろそろ、とカロナはセバスに合図する。


「ふぅー、一杯歌いましたわね!……そろそろ良いかしら。セバス、アレを持ってきて頂戴!!」

「ここに」


 パンパン、と手を叩くと、セバスが箱を持ってくる。


「……コクヨウ? ちょっといいかしら」

「はいっ! なんでしょうお嬢様!!」


”めっちゃウキウキで草w”

”もうわかってんなコレ”

”サプライズとは一体……”


「コクヨウ。あなたの働きに、私はとても満足していますの。だから、これを差し上げますわ」


 セバスがぱかっと箱を開く。そこには、沙耶カロナの手作りのフェルトマスコットがあった。


”おおー、コクヨウちゃんそっくり”

”すげー! 手作りしたの?”

”かわいい。欲しい”

”お嬢様の手作り、プライスレス”


「はい、大事にしてくれると嬉しいですわ」

「お嬢様……!! わ、わだじ、う、うれじいでずぅうぅ!! ありがどうございまずぅぅぅう!!!」

「ああ、もう、そんなに泣いたらマスコットが濡れちゃいますわよ」


 コクヨウはカロナから手渡されたフェルトマスコットをぎゅううっと抱きしめた。

 嬉しさの涙。滂沱ぼうだとはこのことだというレベルだ。


[サクラ]:”【500¥】フフフ、手芸は良いぞ……!”

”サクラさん! 手芸沼に引きずり込む気満々のサクラさんじゃないか!”

”報酬で500円払ってもらう話だったはずなのになんで逆に払ってるんですかねぇ!?”


「あの、サクラさん? 嬉しいですがそれ私が払う約束では……!?」


[サクラ]:”気にしないで!! 私のことはただのいちカロナイトだと思って!!”

”手芸沼に引き込むためにお嬢沼にはまりに来た女”

”お嬢沼にハマってから手芸沼にも誘う感じじゃね”


「……まぁ良いですけど。サクラ様には後程ダンジョンブレイバーの配信で上乗せしてスパチャ返ししますわ! あ、セバスもどうぞ」

「おお! ありがとうございますお嬢様」


 と、セバスの分のフェルトマスコットも手渡す。


「……お嬢様、お嬢様。ちょっとこちらのフェルトマスコットにちゅっとしてくださいませ?」

「え? ちゅ、ですの?」

「はい。お嬢様の手でこの子に命を吹き込んでいただきたく!!」


[サクラ]:”あっ、ぬいガチ勢だわこの子。ぬいぐるみガチ勢の略ね”

”コクヨウさん分かってんな”

”AIが命とか言い出したwww いろんな意味ですげぇぞw”


「え、ええ。まぁ構いませんわ。私の作った子ですし……ちゅっ、これでよろしくて?」

「完璧ですお嬢様!!!」


 流石に本人の前でぬいぐるみの口にするのは恥ずかしかったので、おでこにちゅっとしたわけだが大丈夫だった模様。


 ともあれ、すごく喜んでもらえてよかった、とカロナは満足げに配信を終えた。


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