ちくちく


 というわけで、カロナの中の人、沙耶はフェルトマスコットを作ることにした。


 作り方は難しくない。型紙に合わせて適切な色のフェルトを切って、縫い合わせて、ひっくり返して、綿を入れながら閉じるくらい。

 髪パーツとか装飾とかそういうのはボンドなり縫うなりしてくっ付ければいいらしい。ヘッドセットによるスキャンをすることを考えたらどちらでも同じだ。


「サクラさん、手順書まで送ってくれたからなぁ……感謝感謝……」


 と、材料を買いそろえてきたところでふと思った。


「……手芸配信、してる人もいるよね??」


 手芸配信。つまり、手元実写配信とかそういうやつだ。

 まぁ、BCDでもできなくはない。MRモードでやるのだ。


「でも、さすがにそれはコクヨウにバレるか」


 ……尚、普通に既にバレている。コクヨウがお嬢様のつぶやきを聞き逃すはずがなく、コクヨウは全力で知らないフリをしていた。

 それもこれもお嬢様への愛故にである!


「さーて、始めるかな。こういうの、中学で家庭科やったぶりだな……」


 百均の裁縫セット(ボタン付けとかを前提とした手のひらサイズのコンパクトタイプ)から針を取り出し、糸を通す。糸を舐めて濡らして尖らせ、頑張って通してから糸通しがあることに気が付いた。


 で、普通の工作ばさみでチョキチョキとフェルトを少しずつカット。


「まつり縫い……っと。えへへ、これは昔やったな、覚えてたや」


 ちくちく、ちくちく、と少しずつ手作りでフェルトマスコットが出来上がっていく。あらかじめ尻尾や耳やらを縫い付けておけば、玉止めや玉結びが裏返したときの内側にいれておける。


 ボタンの目を縫い付けて、ペンでそばかすをちょんちょんと書く。

 フェルトの眼鏡もちくちくとポイントで縫い付けた。


 それらを内側にして両端を縫い合わせてから、くるんとひっくり返せばいっきに人形のようになった。まだ綿は入れていないが、ちゃんとコクヨウっぽい。


「おー。我ながら凄い。……いや、これはサクラさんの型紙が凄いのか」


 髪や服を固定する程度に縫い付けたら、ふんわりとする程度に綿を詰め、閉じる。


 これで完成だ。


「できたぁー!! 本当にコクヨウのマスコットだ。サクラさんありがとう。さて、これをコクヨウにプレゼントするか。ふっふっふ」


 誰かにプレゼントなんて何年ぶりだろう? と沙耶は思う。

 とはいえ、スキャンした後に現実世界にあるマスコットの実物は残るわけだが。これは自分で使ってもいいだろう。


「あ、セバスのも作るかな」


 と、二体目のフェルトマスコット、今度はセバスの分を作り始めた。

 一度コクヨウのフェルトマスコットを作ったので、手順や要領がしっかり分かっている。耳と尻尾がない分、作るのも楽だった。

 このため、コクヨウの時と比べて半分近い時間で作り上げることができた。


「こっちもちゃんとセバスっぽさが出てるなぁ」


 これは約束の報酬、ダンジョンブレイバーに投げるスパチャも少し色を付けて投げるべきだな。と、貧乏でケチな沙耶でも思った。


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