マルチダンジョン『スライムの滝』(2)


 そして、スライムゴルフ講座が始まった。


「まず一つ先に謝っておくことがございますの……」


 《竜胆寺カロナちゃんねる:コメント》

”お?”

”なんぞ??”


 《ダンジョンブレイバー:コメント》

”初手謝罪?”

”なんだなんだ”


「謝っておくこと……?」

「何かしら。カロナちゃんじゃないと使えない固有ユニークスキルだとか?」

「いえ! これは誰でも、訓練すれば使える技術ですわっ! ただ、その……」


 神妙な顔でカロナは言う。


「実は、スライムゴルフとは言いましたが……ゴルフとは限りませんの!!」


 《竜胆寺カロナちゃんねる:コメント》

”……お、おう”

”そ、そうだな? 普通に歩きながら打ったりしてたし”

”切り抜き動画だな。見た見た”


 《ダンジョンブレイバー:コメント》

”そもそもゴルフではないしな……?”

”え、それだけ?”

”律儀っていうのかなんというかw”


「え、それだけか?」

「それだけ、とはなんですかヤマト様! 紳士淑女のスポーツとされるゴルフだからこそこの私に、このお嬢様たる私に! 教えを乞うてきたのでしょう!?」

「え、あー……お、おう! そうだな!! そうだった!」


 《竜胆寺カロナちゃんねる:コメント》

”ど、どうでもいいーーー!! お嬢、どうでもいいよ!?”

”知ってたwwwww”

”お嬢!? 本気でスライムゴルフを紳士淑女のスポーツだと思ってんの!?”


 《ダンジョンブレイバー:コメント》

”な、なんだと!? スライムゴルフは紳士淑女のスポーツではなかったのか?”

”ふうむ……それは少し引っかかるな。これは”

”いやまて。だが俺達のヤマトだ。そんな事忘れてた可能性もある!”


 と、カロナの視聴者とヤマトの視聴者がそれぞれコメントする。

 どちらかと言えばヤマト達ダンジョンブレイバーの視聴者――ファンネーム『ポーター』(荷物持ちの運び屋。戦闘には参加しないが同行するものという意味合いで付けられた名前)という――達のほうが、ノリが良いかもしれない。


「なので私、申し訳なくて申し訳なくて……それでもよろしいですか? 紳士淑女、とは限らないかもしれない競技ですのっ!」

「構わない。こういっては気を悪くするかもしれないが、そもそも俺達はスライムゴルフの理念よりも、実益を求めているからな。安価な遠距離攻撃ができれば、何の文句もない」

「……それはそれでアレですが、お金をお節約したいという心――受け取りましたわ! よかろう! それでは講座を始めますわよっ!」


 カロナは満足気に頷いた。


 《竜胆寺カロナちゃんねる:コメント》

”あっ、ロールプレイか。びっくりしたー……ロールプレイだよな?”

”ヤマトさん優しいぜ……お嬢との初コラボ相手にこれ以上ない人選だったな”

”す、すまんなうちのお嬢が……! 半分本気で言った可能性がやや多めにある”


 《ダンジョンブレイバー:コメント》

”いいってことよ”

”ヘヘッ、これがウチのヤマトだからよ”

”お前んちのお嬢様も、イカしてるじゃねぇの。嫌いじゃないぜ”


 カロナのどうでもいい謝罪に、お互いの配信のコメントで視聴者同士が、こう、なんとなく仲良くなった。

 本来絡むことのない別の配信者の視聴者同士が仲良くなる――それもまた、コラボ配信の魅力の一つである。


「ではまず、基本の構えですわ。やはり最初はゴルフの構えですの」


 と、カロナはスライムを一匹おびき寄せる。ぐに、と傘で押さえつけ、スライムのど真ん中にある赤いコアをヤマト達に見せる。


「狙うはここ。中心の核ですわ。ただ、この核の位置ですが、スライムのサイズで多少上下が変わるのでそこの見極めが肝心ですわ」

「ふむ。実際、このスライムの核はゴルフボールより大きいな」

「ええ、ですから本物のゴルフよりは当てやすいですわ。芯に当てないと飛ばないですが」


 と、実際にスライムを転がし、ゴルフのスイングですこーん、とスライムを飛ばす。ぽーん、と放物線を描きスライムがそのまま飛んだ。


「中心にしっかり当たれば、軽く当てたときにこのくらい飛びますの。軽いとコアはぶち抜けませんが、練習にはこのくらいの方がよろしくてよ」

「柔らかいスライムなのに、結構飛ぶんだな」

「おそらく、スライムが『防御』してるんですわ。それで硬くなって弾力のあるボールのように飛びますの」


 実際にやってみてくださいまし、とカロナはダンジョンブレイバーの三人に促す。


「どれどれ……うぉっと、ベチャッっといってしまった」

「わわっ、バールに取りつかれたっ」

「あらっ!? コアだけ飛んでったわ。強すぎたかしら?」


 ヤマトはスライムを破裂させ、ユウタは武器に取りつかれ、サクラはすぽんっとコアが抜けて飛んで行った。


「サクラ様は成功ですわね、スジがいいですわ。ええ、思いっきり振り抜くと今みたく飛んでいきますの」

「あ、そっか。飛んでくのでいいのよね!」

「ええ。あとはそれを敵にぶつけるんですわ」


 うふふ、とほほ笑むカロナ。


 《竜胆寺カロナちゃんねる:コメント》

”へぇー、やるじゃんサクラちゃん”

”ヤマトは逆にすごくゴルフっぽいスイングだったのに失敗したな。勢い強すぎたって感じか”


 《ダンジョンブレイバー:コメント》

”まぁこういう器用なのっていつもサクラが得意だよな”

”ユウタ、器用さの高そうな盗賊なのにこういうの失敗しがちなんだよなぁ”

”【150円】がんばれヤマト。これでジュースでも飲んでもろて”


「む、スパチャありがとう。休憩の時に使わせてもらおう」

「……むむ! やりますわね……!」


 配信中に生でスパチャを受け取るところを見て、配信者的にはわりと羨ましいとカロナは思ってしまった。

 ちらっ、ちらっとコメントを、カメラを、カロナイト達を見る。


 《竜胆寺カロナちゃんねる:コメント》

”【100円】……ほら、お嬢!”

”【100円】これが欲しかったんだろう? 欲しがりさんめ!”

”【300円】俺達も負けてられねぇな……!”


「ひょっ!? さ、催促したみたいで申し訳ありませんわねっ! ありがとうございますわ皆様ー!」

「なかなかに愛されてるな。お互い」

「ええ、ありがたいことに」


 本当に催促してのスパチャだったので、カロナは申し訳なく思いつつも頬が緩むのを止められなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

(ぁあああああ!! 全然ペース足りませんわぁ!! ガッツリ書かなきゃですわぁ! 今日中に講座終了まで書きますわよっ!)


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