お嬢様の由来(後)
お嬢様に助けられた幼き日の沙耶。
「で。その後一緒に避難しようとしたのですが……」
『……あー死ぬかと思った……とと、お嬢ちゃん、大丈夫?』
『う、うん……』
『まさかダンジョンに呑まれるだなんて、貴重な体験だわ。……絶対生き延びますわよ! よろしくて? 小さな
『え? あ、う』
『よろしくってよ! と返すのですわ。心に優雅さを。余裕をなくしては、生き残るモノも生き残れませんからね。さぁ、よろしくて?』
『……うん! よろしくってよ!』
『フフ、及第点としておきますわ』
『きゅーだいてん?』
『ばっちりということです! さ、行きましょう。多分こっちですわ!』
と、お嬢様は幼いカロナの手を引いて、ダンジョンと化したショッピングモールを進む。
お嬢様の手には壊れた棚の柱をベースに、イノシシの牙を括り付けて作られた即席のハルバードが握られていた。
……さりげなくお嬢様は剥ぎ取りをしていたのだ。抜け目なく。
具体的にはこう、『あー死ぬかと思った』と言ってるあたりでべきべきとイノシシを解体していたのである。ショッピングモールのお店にあったカッターとかのこぎりとかトンカチとかで、ぐいぐいべきべきと。
とても手慣れた動きで工作していたように思える。
”モンスター素材の即席武器か。ってかハルバードってすげぇな”
”初期の対処法。だが的確だ。マジで何者だそのお嬢様?”
「……今思えばなんでのこぎりとかでそのまま武装しなかったのか不思議ですわね? 当時はまだダンジョン武装の有用性が証明されていませんでしたのに」
”実体化したダンジョンでは、同じくダンジョンの武器が有効ってやつだな”
”今ではデブリ素材同士の作用だって判明してるけど、当時は銃……ってか、通常弾が効果薄かったもんで、自衛隊とか軍隊とかも押され気味だったんだよな”
今はダンジョンから作られたデブリ弾等の対ダンジョン兵器も開発されているので無力ではない。が、現実にはダンジョンが出ないことが一番だ。
やはりBCDで実体化前に早期対処するのが最善である。
「っていうか、なんか普通にスライムとかウルフとか倒してましたねあのお姉様。そのたびに剥ぎ取りと加工で武器がどんどん強化されていって……そんでモンスターを倒した方向へと前進していって……うん。お姉様、マジ何者だったんですの?」
”それは俺らが聞きたいよ!?”
”すげぇなそれ。ゲームでそんな感じに工作で武器強化するやつあったな……”
”私だったらリアルでモンスターと対峙したら、動けなくなるわ。クソ度胸あるな”
本当に何者なのか、と首をかしげざるを得ない。
「まぁそんなこんなで、お嬢様は最強! お嬢様は優雅! お嬢様は無敵! と突き進み、なんやかんや気付いた時にはダンジョンコアがそこにあったのですわ」
”ん???”
”あれ??? 避難してたはずでは???”
”どうして奥に突き進んでるんですかね”
「なんかこう、倒せそうなヤツを倒した道の方が安全じゃないですか? って……」
”確かに?”
”常に前進してるお人だな……”
”お嬢のお嬢様感はここからきてる……?”
「で、ダンジョンコアぶっ壊しましたの」
”お、おう”
”……いやまぁ、そうなんだろうけど”
”巻き込まれただけの一般人が単機でダンジョンコアまで行ったのか……”
”お嬢様ってすげぇ……改めてそう思った”
『とりあえずコレ、壊してみましょうか?』
『え、このぴかぴか、壊しちゃっていいものなの?』
『なーんか見てるとムカつくんですわ、この光る石。――どっせぇええええい!!!!』
と、イノシシの牙を叩きつけてダンジョンコアを割るお嬢様。
そうして、ダンジョン化の異変が止まり、モンスター達が姿を消していく。
かくして、このダンジョン災害は一人のお嬢様の大活躍により異例の早期解決へと相成った――
「……と、いう事件があったのですわ。あのお嬢様は私の憧れですの」
”うん、その、思ってた以上に濃かったわ”
”お嬢のお嬢様好きってそんな衝撃的なことがあったんだね”
”うん。何者だよそのお嬢様……”
”というか、そんな凄い事件だったんなら、そのお嬢様が誰かとか分かるんじゃない?”
「それがですね、この事件自体は記録が残っていたのですが、そこにそれらしいお嬢様が居たという記録がどこにもなかったんですの。私だって探してみたのですわよ?」
”ええ? そうなの?”
”まさかお嬢様もモンスターか何かだった……?”
”いやでも、そんな事件解決の立役者の名前が残ってないっておかしくない? お嬢、フェイク情報いれた?”
「当時はダンジョン災害の犠牲者も多く出ていて、誰が巻き込まれていて誰が生き残ったのかもよくわからないところありましたしね……ま、私はお嬢様のおかげで元気ハツラツ、こうしてBCDでダンジョン配信を出来ているというわけですのよ!」
まぁ、あの嬢様はきっと人知れずダンジョンを攻略し、脱出後に名前も告げずにクールに去ったのだと。カロナはそういう結論に達していた。
「いつか、改めてお礼を伝えたいですわね……はふぅ」
”言えるといいね”
”そうだねぇ”
”そのためにも、竜胆寺カロナの名前をもっと広めないとだな!”
”いつかそのお嬢様がお嬢のこと見てくれたらいいねぇ”
「ええ。あのお姉様が見てくださると、嬉しいですわね。……というわけで、これからもダンジョン配信のB-Casterお嬢様として、がんばりますわよっ!!」
カロナはぐっとこぶしを突き上げた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
(第一部、完! ですわーーーーー!!!
よければ★評価とかしてってくださいな!
…………あ、まだ続きますわよ!)
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