マルチダンジョン『赤の洞窟』(他プレイヤー視点)
俺はヤマト。B-Castとは別に本業もある、いわゆる兼業タイプのB-Casterだ。
B-Castチャンネル『ダンジョンブレイバー』の登録者は3430人。これはチームメイトであるユウタとサクラも併せての人数である。
……一応俺がリーダーということになっているが、登録者は主にサクラが稼いでる気もする。美少女アバターはそこに居るだけで華があるからな。
「リーダー、今日の獲物はどこにする?」
「あ、私少し課金したいから配信しながらやりたい。配信OKのとこで」
「そうだな……よし、ここがいいんじゃないか? 条件もいいし、賞金も手頃だ」
チャンネルの共有ホーム(応接室型)で、目を付けたダンジョンを表示して見せる。
『赤の洞窟』。クリア先着1名、貢献度山分けのよくある形式。対人攻撃NG。
賞金も25万円と山分け型なら手頃な金額のダンジョンだった。
特に異論はなく、本日の『ダンジョンブレイバー』の仕事場はここに決まった。
スタート時間と同時にエントリー。転送カウントダウンの後、炎吹き荒れる洞窟ダンジョンのスタート地点には俺達を含めて5人のプレイヤーが居た。
コック姿の男と、ボンデージ姿の女……ギリギリR-15ってとこか?
「初めまして。『食べタイム料理道』のシェフたけしだ」
「『クイーンあやめのプレイ日記』、あやめよ。よろしくね」
「俺達は3人で『ダンジョンブレイバー』です。こちらこそよろしくお願いします」
「おー、コッテコテのファンタジー感。いいね! 戦士と盗賊と女僧侶!」
野良パーティーとなる二人と、チャンネル名を含めた自己紹介を済ませる。
「チャーハンの材料持ってきたんだよね。途中、火力のよさそうなところで料理するからよろしく。
「ダンジョンで料理……そういう配信もあるのねぇ。今度アーカイブ見させてもらうわ」
「あやめさんはどうしてこのダンジョンに?」
「ほら、暑いと脱いでても合法な気がするじゃない?」
うーん、暑いというよりここは肌が焼けるほど熱いんだが。
ともあれ、攻略は順調だった。
ちなみにチャンネル登録者数でリーダーが決まることもあるが、今回は相手2人がそれぞれ個人チャンネルということもあり俺がそのままリーダーに決まった。
「あー、あやめさん。そこのスイッチを押しといてくれ。……よし、渡ったから降りて大丈夫だ」
「はいはい。やっぱりこういう身体使う謎解き系は人数居ると楽でいいわね」
「ソロだと行ったり来たりしないといけないからな」
道中のギミックも、パーティー通話しながらの協力プレイで解いていく。
「お! ファイアバット! 蝙蝠ってどんな味かなぁ」
「……チャーハンには入れないでくれよ?」
「あはは、ちゃんと料理スキルあるし食えないもんは作らないよ」
「入れないと断言して欲しいんだが……?」
「作り甲斐がある人だねぇ! 今度ちゃんとコラボしようよヤマトさん。あ、これ俺のフレンドコードね」
尚、シェフたけしさんが作ったチャーハンは普通に美味しかった。ATK+5%のバフがつくのもありがたい。……ファイアバット入ってたけど。
と、そんなこんなで順調にボス部屋までやってきた。
道中ダメージを食らったりもしたが、まだ十分余裕のある黒字の範囲だ。
「女僧侶だから回復魔法が使えるのかと思ったけど、そうそう都合よくはないわよぇ」
「まぁ、回復にはお金がかかる世界ですから……有料なのも仕方ないですよ」
「とはいえ普通にスパチャHPポーションよりは安いから頼むわ。契約申請」
「受理しました。回復しますね」
HPもMPも回復するにはお金がかかるこのゲームにおいて、回復魔法は金を配る行為に他ならないし、MPを使うスキルはお金をばらまく攻撃である。
切り札ではあるのだが、やはり少し使うのに躊躇するのは事実だ。
――そして、この『金がかかる』という部分が、俺達の敗因だった。
「くそっ! 卑怯だぞ、降りてこい!!」
この『赤の洞窟』のボス、フレイムドラゴンに、俺たちはいいようにやられていった。
途中までは順調だったのだ。むしろ余裕をもって勝てるとすら思った。
だが、それもドラゴンのHPが半分を切り、いわゆる発狂モードと呼ばれる特殊行動にでてからがらりと変わった。
「ちょっとこれどうにかしてよ! 攻撃が届かない! 一方的にやられるだけじゃん!」
「ぐおおお、取り巻きの赤スライムに……俺がっ、俺が食べられるだとぉー!!」
そう。ドラゴンはこの天井がやたら高いボス部屋の、上の方でホバリングしてきたのだ。
そして、赤スライムが大量に湧いた。ボスの取り巻きだ。
こちらの攻撃は、基本的に皆近距離。長くてもクイーンあやめさんの鞭が届く程度。
ありがちなことに、臨時で組んだ二人は遠距離攻撃手段を持っていなかった。
……遠距離攻撃はお金がかかるのだ。MPにせよ、弓矢にせよ。
なので俺達もさほど用意していなかった。
しかも対遠距離の切り札として俺が覚えていた攻撃魔法スキルは『ファイアボール』だ。相性が悪すぎる。一応ユウタが弓矢を持っていたのだが、遠距離攻撃を持っているユウタをドラゴンやスライムは真っ先に狙って落としてきた。
かくして、俺たちはジリジリと追い込まれ、HPが高かった戦士職の俺だけが最後に生き残っていた。
残りHPはあと少し、風前の灯火である。
もうせめて派手に散って、配信映えして投げ銭で稼ぐしかない。……だがドラゴンは上空。俺達を削るのはスライムだ。
男アバターが大量のスライムに群がられて、需要なんてあるんだろうか?
まぁ仕方がない、残りHPはひと桁。断末魔を上げるならここだろう。
「ぐわあああああああああああーーーーーーーーーー!!」
「えっ」
――と、小さな驚く声が聞こえた。
ちらりとそちらを見れば、ドレスを着た縦ロールのお嬢様が一人で、傘をさしてボス部屋に入ってきたところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます