『赤の洞窟』ボス戦


「あとは……頼んだ……ッ!」

「えっ。あ、はい」


 そう言い残して、他プレイヤーの戦士は光の粒になって消えていく。

 HP0、リタイアのエフェクトだ。



 カロナは追いついた、最前線に。

 そして取り残された。最前線に。



「えーっと、つまりあの空を飛んでるドラゴン様を一人でぶちコロコロしなければいけませんのね。ええ……満身創痍とはいえ、ボスを……」


 折角マルチでパーティープレイができるかと思いきや、結局はソロ。

 これは配信的な見せ場がなさすぎるな、とカロナはため息をついた。


”お嬢、囲まれるぞ!”


「おっと。スライム相手とはいえ、油断はいけませんわね。さてさて」


 とりあえずスライムに囲まれないように適度に潰しつつ、ドラゴンを堕とさねばならない。戦略を組み立てる。

 どうやらこれは遠距離攻撃が必要だ、と。


「……ふむ。これはお嬢様的遠距離攻撃をキメるしかありませんわね!」


”え、お嬢大丈夫? 遠距離攻撃だよ? お金かかるよ?”

”カロナ嬢そもそも遠距離攻撃スキルとか持ってたっけ?”


「フッ、舐めないでくださいまし。これでも私、本物のセレブを目指すものとして、それくらい、嗜んでおりますわ!!」


 自信があるのか、カロナはニヤリと笑う。視聴者のコメントは懐疑的だ。


 と、カロナはおもむろにメリーちゃんを閉じた。くるりとまとめパチンと留めて――傘の先端を握り、持ち手を下に構える。


「これが! お嬢様の! セレブリティ遠距離攻撃ですわ!」


 狙うは、ちょうど足元に来ていたスライム、その中心の丸い核!! やや下目!!



「どっせーーーーーーい☆」


 ぱっかーーーーーーん☆

 フルスイングされた傘によってスライムは高く高く打ち上げられ、上空のドラゴンに激突した。



「ナイスショットですわーー! おほほほ、ゴルフはセレブの嗜みでしてよーーー!!」


”か、傘ゴルフーーー!?www 今日びやってるサラリーマン見たことねぇぞwww”

”あ。さっきアーカイブで見たやつだコレ”

”切り抜きニキ? ここ見所だよ”


「スライムの核の位置って、丁度いい高さなんですわよねー。そーれそれそれ、打ちっぱなしゴルフの打ち放題コースいきますわよー! 狙うはホームラン賞ですわ!!」


”お嬢、それバッティングセンターや”

”あ、でもすげぇ。ドラゴンに的確なダメージが入ってる”


 大量に居るスライム。群がってくるそれは、カロナにとってはまさに球出し機ボールディスペンサー。ドラゴンは防球ネット。

 ドラゴンはカロナめがけてブレスを吹こうとしたが、スライムが口に向かって飛んできて詰まりボフッと自爆した。


「ホールインワンですわね、今日は調子がいいですわぁー!!」


”ちょw ドラゴン涙目www”

”これはひどい蹂躙www”


 当て続けると徐々にドラゴンの高度が下がってきて、ますます勢いの乗った球を当てやすくなる。

 そうしてそろそろジャンプすれば手が届くんじゃないかといったところで、ついにドラゴンは力尽き地に堕ちた。


 ボス部屋の床からダンジョンコアが観念したように現れたので、デイリー流れ作業のように最後の1スライムをコアにぶつけて破壊する。

 Congratulation!! とダンジョンクリアのエフェクトが浮かび上がった。


「ふー。……あれ? もしかしてこれで終わりですの?」


 額の汗を拭うカロナ。電子アバターなのでサラサラおでこであった。




「結局ソロでお散歩してゴルフゲーしただけの配信になってしまいましたわねぇ。ん? そう考えるとお優雅な配信だったかしら」


”すげー、スライム打ち上げてドラゴン倒すとか……w”

”これはひどい遠距離攻撃を見たw スライムゴルフはセレブの嗜みww”

”先ほど退場した戦士ヤマトだ。おかげで損害が多少回収できた、ありがとう。チャンネル登録して高評価3回押しといた”


「え!? あ、はい! ヤマト様が削ってくれてたおかげで倒せましたわー!! チャンネル登録高評価ありがとうございますわー!!」


 コメント欄に向かって、カロナはブンブンと手を振った。ちょっとはマルチダンジョンらしい交流ができて、カロナはほんのり満足した。

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