ダンジョン『赤の洞窟』


 ●ダンジョン情報『赤の洞窟』 マルチタイプ(クリア先着1名終了)

 タイプ  :洞窟型

 属性   :火

 賞金   :総額25万円(貢献度山分け)

 レート  :1HP=100円

 突入条件 :HP100以上・DEF50以上

 追加ルール:対人攻撃NG




 カロナの初マルチダンジョン、そこはマグマ吹き荒れる灼熱の洞窟だった。

 触っているだけで継続スリップダメージがありそうな赤黒い壁と床。常に燃えており、石の輪郭が炎のように光っている。……マグマブロックという表現が近いだろうか? 実際、マグマが洞窟内で小川をつくってもいた。

 また、温度が非常に高い。肌がチリチリと軽い痛みを覚えるほどだ。DEF50以上の防御力が無ければ立ってるだけでダメージを受けていただろう。


「あっつ!! なにここメチャ熱いですわ! 暑い通り越して熱いですわ!?」


”開示情報にあったけど赤の洞窟だっけ。マグマ落ちたら高ダメージだから気を付けて”

”今更だけどVRで熱いとか凄い技術だよな。科学の進歩ってすげー”


「ひー! いたるところがダメージ床ってコト!?……わひゃっ!!」


 歩いていると、突然目の前の床から火柱が噴き上がった。あと1歩進んでいたら丸焼けにされていただろう。


「お、おお、恐ろしいですわっ! これ食らったら一体いくらお金が吹っ飛びますの!? 推定ダメージニキいらっしゃいますか!?」


”おっすおっす。推定ダメージ10。一発千円ってとこだね”


「コメントありがとうございます!……一撃千円ッ! 絶対回避ですわー!」


 そう言って、カロナは恐る恐るダンジョンを進み始めた。

 それにしても、マルチタイプのダンジョンだというのに他にプレイヤーが見当たらない。


「はて、これはどういうことでしょう? 私、ソロダンジョン選んでましたか?」


”多分、他の人は前線攻略中。早く追いつかないと賞金貰えないんじゃね”

”マルチダンジョンあるあるだな。お嬢ガンバ”


 そう。カロナがこの依頼を見つけた時点で既にダンジョンは開いていた。つまり既に攻略が進んでいるのだ、このダンジョンは。

 貢献度により賞金が分配されるため、出遅れるとそれだけで収入的には不利である。


「! なるほど、そういう感じの! わかりました、急ぎますわー!」


 と、炎の粒子が降り注ぐ。見れば火精霊が居た。姿は炎そのもので、物質的な体を持たないモンスターである。本体も粒子も当たると熱い。


「おザコ様ですわね。今は急ぐので無視しますわ」


 カロナは傘を差して粒子を避ける。タダのフリル付き傘であれば布に穴が開くところだが、これは一応『武器』であるためこの程度であれば問題ない。


”お嬢の傘がこんな風に役に立つとは”

”ただのフレーバー鈍器だと思ってた”


「おほほほ、メリーちゃんは私の自慢の日傘ですから! 傘ならぬ傘ですわ!」


”……”

”……”


「ちょっと! 急に静かにならないでくださいまし!?……っと、あれは何かしら?」


 カロナはなにやら壊れた水車みたいなものを見つけた。

 水車と違うのは火で燃えなさそうなつるんとした石素材でできていることだ。


”本来なら、ここでその水車ならぬ火車が転がってくるトラップだった模様”

”なにそれパンジャンドラムじゃん”


「なんにせよ、前の方が攻略してくださったから素通りですわね。……これ、本当に急がなきゃ何もできずに終了ありえますわ?」


”だからそう言ってんじゃん。急げお嬢”


 コメントにも促され、カロナは足を速める。しかし道中は本当に何もなく、宝箱も空いているものしか見当たらず、配信的にも見所一切なし。


 これはお散歩配信になりそうだな、と若干諦めかけたその時。金属同士がぶつかるような戦闘音が聞こえてきた。

 マグマブロックの通路の奥、開け放たれた大きな黒い扉のその先が『現場』のようだ。


「来ましたわコレ! 最前線に追いついたかしら!?」


”ってかボス部屋っぽくね”

”おっ、そんなら最前線かな。というかクライマックス?”


 そのコメントにカロナはウキウキと部屋に突入する。入った先はまさにボス部屋。

 そしてお嬢様の目に飛び込んできたのは、体育館より広いドーム状の部屋と、


「ぐわあああああああああああーーーーーーーーーー!!」

「えっ」


 赤スライムに群がられて死ぬ他プレイヤー。それを天井付近を飛びながら眺める満身創痍のドラゴンであった。

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