お嬢様の由来(前)



”そういやお嬢ってどうしてお嬢様目指してるの?”


 そんな質問コメントがカロナの目に留まった。


「あら、そういえば話したことなかったかしら?」


”俺も知らん”

”古参だけど聞いたことなかったな”

”気になる!”


「ふむ。リクエスト多いですわね。なら大した話ではないですけれど、お話ししましょうか」


”やった!”

”やっぱりミカド嬢の影響なん?”

”wktk”


「……あれは、冬のショッピングモールでの出来事でしたわ」


 と、リクエストに応えてカロナは語り始める。カロナがお嬢様を目指すキッカケになった事件を。



  * * *



 カロナの中の人、沙夜さやはその日、ショッピングモールへと買い物に出かけていた。

 そして、迷子になってしまった。両親とはぐれ、涙目になりながら歩き回り、そしてさらに自分がどこにいるかもわからなくなる悪循環。


「今思えば、その場でじっとしているか、迷子センターにでも行けばいいってだけの話なのですけれどね」


 けれど当時の沙夜は子供も子供。そんな事も分からずウロウロしてしまっていた。

 そして、事件が起きた。


「ショッピングモールにダンジョンが発生したのですわ」


”は?”

”マ?”

”え、お嬢ダンジョン被災者だったのか”

”ショッピングモール……何か所もダンジョンにやられたんだよな”


 当時はまだBCDもなく、そしてダンジョン災害が現れ始めた最初期。

 人は未だ、ダンジョンの正体をつかめきれず、対処法を模索中だった。


「まぁ具体的な年齢とかどこのとか言うと身バレしそうなので言いませんが。建物はぐちゃりと歪み、数多のモンスターが人々を襲い、私もまたその牙の餌食になろうかというその時でした」



『――どぉっこいしょぉおおおああああッ!!!』


 そんな腹の底から湧き上がる大声と共に瓦礫を持ち上げ、沙夜に向かっていたイノシシ型モンスターの足を引っかけて転がした人物がいた。


『お嬢ちゃん、大丈夫でして!?』

『えぅ、あっ……』


 そう。そこにいたのはゴシックドレスに身を包んだ、縦ロールのお嬢様だったのだ。


”んん!?”

”なぜそこでお嬢様ッ!?”

”いやまぁそういう話なんだからそうなんだろうなとは思ってたけど!”

”そのお嬢様もショッピングモールに居てダンジョン災害にまきこまれたのか”

”どこのどなたなんですの、そのお嬢様”


「自己紹介は交わしたはずなんですが、まぁその、なにぶん小さい頃の話なので……」


 ともあれ、ただ突っ立っていただけの沙夜をそのお嬢様は抱きかかえて、物陰へと避難した。

 転ばせたイノシシ型モンスターが再び沙夜達を狙っていたのだ。



『さぁ、掛かってきなさい子豚ちゃん? わたくしのドレスは赤いですわよ~?』


 そう言って、お嬢様は沙夜を隠しながらスカートをひらひらさせ、イノシシ型モンスターを誘う。当然、挑発されたイノシシ型モンスターは勢いよく突っ込んでくる。


 あわや大激突――と、その一瞬。お嬢様はそれを闘牛士のようにサッと躱し、スカートに隠していた、足元から突き出ていた鉄骨を露わにする。

 イノシシは止まれず鉄骨に突っ込み、ぐさりと自ら串刺しになった。


『おーっほっほっほ! 豚さんってばおマヌケですわねぇーー!! 所詮はケダモノ、お肉となって食べられるのがお似合いでしてよーーー!』


「と、このようにしてお嬢様はイノシシを見事退治したのですわ!」


”すご。同じ状況に陥ったとして、お嬢を助けられる気がしないんだけど”

”なんだそのクセの強いお嬢様www 凄いけどwww”

”おマヌケですわね、とかダンジョン災害に巻き込まれて言えるのすげぇわ”


「もしこの通りすがりのお嬢様がこうして颯爽と助けてださらなかったら、私は今頃豚肉がトラウマになって食べられないところでしたわね」


”いやそれ以前に命が”

”そこじゃないw”

”っていうかそれ本当にお嬢様なの!? お嬢様ってそんな好戦的なの!?”


「まぁ! お嬢様は強いものですわよ? 当然ですわ!」


”あ、うん”

”お嬢のお嬢様イメージの大元だったわ”

”ソウダネー”


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