ペットの話
その日。ダンジョンクリア後の雑談で、とあるコメントがあった。
[幻龍斎]:”お嬢って犬派? 猫派?”
犬、猫。その2つはペットとして人気の高い二大巨塔。
それは簡単に戦争を巻き起こす、魔法の言葉であった。
「もちろん、お嬢様は猫派ですよね」
「犬の方が有用でしょう。従順ですし、人間のパートナーです」
パチッ、とセバスとコクヨウの間に火花が散った。
「セバス様? 何を言ってますか」
「コクヨウこそ、自分が猫耳だからと言って猫が優先されるとでも?」
”おっとぉ、セバスは犬派だったのか。元傭兵だしな……軍用犬とかいるもんな”
”コクヨウちゃん猫耳だしここは分かる”
「あ、あの。私はどちらも好きでしてよ?」
「でも猫の方が好きですよね?」
「いえいえ。犬でしょう。お嬢様といえば大きな犬、お約束ですぞ?」
にこやかなコクヨウとセバス。しかし圧を感じる。二人に挟まれるカロナ。
「コホン。よろしいですかお嬢様。犬は、お嬢様と切っても切り離せない存在なのです。想像してみてください、大きなお屋敷、庭を駆けまわるゴールデンレトリバー。戯れる幼いお嬢様……! おお、懐かしいですな。あの頃も嬢様は愛らしくて」
「いえいえいえ! 猫です、猫こそお金持ちの象徴なのです! ワインを片手に、バスローブを羽織り、膝の上に猫を撫でる……! というかセバス様、記憶を捏造しないでください!」
「捏造? フッ、この写真を見ても同じことが言えますかな?」
と、セバスは懐からポラロイド写真を取り出した。そこには、幼いカロナがゴールデンレトリバーと戯れ、セバスがそれを笑顔で眺めている写真があった。
他にもゴールデンレトリバーに跨っていたり、リードを引いて庭園を散歩している幼いカロナがいた。
庭の警備をしているドーベルマンと並んでびしっとカッコつけていたりも。
「な、なんですかこの写真っ!? 小さい頃のお嬢様可愛らしすぎる……ッ」
「ほっほっほ。この通り、お嬢様は元々犬派なのですよ、コクヨウ。あのころのお嬢様は純真無垢でしたねぇ」
「あらセバス。私は今だって純真無垢な可愛らしいお嬢様でしょう?」
「おっと、そうでしたねお嬢様。申し訳ない」
”おおっ! カロナ嬢の子供のころの写真かー”
”へぇー。可愛いじゃんこのころのお嬢”
”いやまて。この写真捏造だろ。当時まだAI執事はいないはずだ”
「あ! そういえばそうですわね!? ふぅ、うっかり騙されるところでしたわ。あの秋の日に、虹の橋を渡りお別れしてしまったトーマスはいなかったんですわね……!」
”犬に名前までついてた!”
”お嬢ww なんでお嬢が騙されてんの?ww”
”AIフェイク写真だったか。いい出来だなぁ”
”っていうかよく考えたらBCDのアバターだもんなカロナ嬢……忘れてたぜ”
「あまりの出来に私もこれが現実だったらいいなぁって」
「お嬢様! それなら私だって、ちょ、ちょっと待ってくださいね。……こうです!」
『ねぇお父様。この猫、飼っても良い?』
『ん? うーん、どうしようかな……面倒見れるのかい?』
そこには、父親に黒い子猫を飼いたいとおねだりする幼いカロナがいた。
『うん! あたし、頑張ってお世話する! そう、名前はコクヨウ、かな?』
『はっはっは、もう名前を付けてるのか。じゃあ仕方ないな。大事にするんだよ』
『うん!!』
「……そう、そしてその黒い子猫がいまのわたしなのです!」
「あ、あのときの黒猫がメイドさんに!? そうだったんですのね!! あの雪の降る日に姿が見えなくなって、ずっと心配していましたのよ……!」
「お嬢様! わたし、大きくなりました……にゃんっ」
「コクヨウ!」
ひしっと抱きしめ合うコクヨウとカロナ。
”イイハナシダナー……って、ホームビデオ風捏造映像じゃねーかwww”
”だから記憶を捏造するんじゃありません!!www”
”お嬢ー、戻ってきてー? フェイクムービーだぞー?”
「はっ!? だ、騙しましたわねコクヨウ!?」
「にゃ、いいえ! わたしは生まれてからずっとお嬢様の猫です!」
”お嬢はお嬢でなんで騙されるのwww”
”自分の記憶をあっさり
”そして確かに生まれてからずっとお嬢様の猫だけどもw 生まれたの最近だww”
「なんかこう、素敵な記憶だったのでつい」
「ほっほっほ。お嬢様はノリが良くていらっしゃる」
「それで結局お嬢様はどっち派なんですか?」
ふぅむ、と顎に人差し指を当てて考えるカロナ。
「猫をマダムっぽく抱えてるのも捨てがたいですが、やはりお嬢様的には犬かしら? セバスの言う通り、ゴールデンレトリバーやドーベルマンのいるお屋敷ってお嬢様っぽいですもの。ボルゾイとか人の入ってそうなサイズの犬もお嬢様じゃないと飼えないですわね!」
「!? じゃあなんで私は猫耳なんですかっ!?」
「え、可愛いからですわよ?」
あと視聴者コメントから採用したのである。
「可愛いっていうなら、撫でてくださいよっ!!」
「……よしよし」
「えへへー」
なんやかんや、丸く収まった。というかコクヨウがカロナの足に抱き着いて丸くなった。
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(ちなみに皆様は犬派ですの? 猫派ですの?)
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