第52話 お兄ちゃん総受け
「どう?どれだけたっくんが私のこと好きだったか分かった?」
双子の姉妹を見下すように、僕の幼馴染は勝ち誇った声を上げた。
「前も言ったでしょ、ぽっと出の妹が幼馴染に対抗しようだなんて十五年早いんだって」
「つっ強い……」
「確かに……」
押入れの外が重苦しい静寂に包まれた。だが、
「……でも、それって過去の話ですよね」
ぽつりと妹の声がした。流れが変わった雰囲気。
「そうそう、しょせんは中学生同士の恋愛のまねごとだよねお姉ちゃん」
「だよね、絵里萌」
「そんなことないから! だいたいあなた達だってちょっと前は中学生でしょ」
突然の妹たちの反撃に美紀ちゃんも慌てて言い返す。
「でも私たちはもう女子高生だから。違いますよ、美紀さん」
「それに一緒に住んでるしね」
「そんなの単に家族なだけでしょ!」
妹たちは二対一で攻撃する。
「家族でも義理の妹は結婚できるんだよ!」
「私なんか毎日おにいちゃんにご飯作ってあげてるんですよ」
「でも私だってたっくんとお昼一緒に食べてるし……」
言い返してはいるものの、幼馴染が劣勢になってきた。
「だいたい、幼馴染なんていまどき流行らないんですよ美紀さん」
「そうそう、ラノベでも幼馴染と妹なら妹の勝ちJK」
「幼馴染なんてザマーです」
恵梨香と絵里萌の猛攻が続く。必死に美紀ちゃんが反論を試みる。
「私なんか、たっくんと一緒にお風呂入ったことあるもん!」
「それって子供のころですよね。私たちなんてこないだお兄ちゃんがお風呂場にいるときにシャワーしましたよ」
「待って絵里萌、それっていつ?」
ていうか気が付いてたの?
「あとね、私よくたっくんとお昼寝してたんだよ」
「私なんか夜中にお兄ちゃんと一緒に寝てますけどー」
「だから絵里萌、それってズルいって」
「お姉ちゃんだってネカフェでイチャイチャしてたじゃない」
なぜか妹同士でも戦いが始まっている。
「でもね、私が最初にたっくんとキスしたんだからね」
「それって何回ですか?」
「んーっと、十回ぐらいかな」
「私なんてもう百回はしてますけどね、えへ」
「お姉ちゃんズルい!」
「絵里萌だってグチョグチョのしてたんでしょ!」
「えへへ」
三つ巴の戦いが戦火を拡大している。これはそろそろ止めないとまずいのでは。
「みんな、もう争いを止めようよ!」
僕は押し入れの扉を開けて叫んだ。
「おにいちゃん!」
「お兄ちゃん!」
「たっくん、出てきちゃだめ!」
押し入れから部屋に一歩進み出ようとした時、僕は足元にあった薄い本の山を蹴飛ばしてしまった。
部屋の中に薄い本が散らばる。
「なにこれ?」
押し入れに積んであった薄い本を、うっかり蹴つまずいて部屋に散らかしてしまった。
目の前で繰り広げられていた幼馴染と妹たちの戦いが一瞬止まっている。
「これは……」
絵里萌が足元に散らばった薄い本を一冊手に取った。
「お兄ちゃん総受け本、実在したのか……」
「なにそれ?絵里萌」
「国後さん解説お願いします」
「それじゃあ、説明するけど……」
僕の幼馴染が手元に同人誌を持って解説を始める。
「たっくんが全然私のことに興味をもってくれないのはなんでだろうって考えてたら閃いたのよ。たっくん、実はBLなんじゃないかって」
「だからなにそれ」
「そこからヒントを得て私はたっくんの同人誌を作り始めたの」
幼馴染はちょっと恥ずかしそうだけど得意げに語っている。
「これなんて全ページ特色フルカラーマットコート24Pで、表紙は箔押しの特殊コート紙だよ」
「たしかに、手触りが違う」
「そうでしょ絵里萌ちゃん」
そして美紀ちゃんは恵梨香の方を向いた。ニッコリとほほ笑む。
「絵里萌ちゃんは判ってくれたわ。あとは恵梨香ちゃん、あなただけね」
「待って、美紀さん……」
「なにかな、恵梨香ちゃん」
美紀ちゃんの作った兄の生もの同人誌を食い入るように見ていた妹は、ふと顔を上げた。
「私、美紀さんと解釈が違う」
「え?」
「おにいちゃんは完受けじゃない」
恵梨香は息を吸い込む。そして、
「私の中では、おにいちゃんは受けからのリバ攻めなの!」
力強く言い放った。
「うーん、ちょっとそこのリバは受け入れられないかな」
「じゃあ、おにいちゃんに決めてもらいましょう」
「それがいいね」
三人が僕の顔を見た。
「おにいちゃん」「お兄ちゃん」「たっくん」
妹たちと幼馴染が僕に迫ってくる。
「いやー、ちょっと申し訳ないんだけど、僕、BLじゃなくてNLなんだけど……」
「それなら、おにいちゃんは誰が好きなの?」
「僕は……」
僕は絵里萌と恵梨香と美紀ちゃんの顔を交互に見た。
「やっぱり妹が好きかな」
「おにいちゃん!」「お兄ちゃん!」
二人の妹が抱きついてきた。美紀ちゃんが僕にうなずく。
「ごめんね、恵梨香、それに絵里萌も。僕がずるかった」
「おにーちゃーん」
「よしよし」
「たっくん、ちゃんと妹さんを大事にするのよ」
「うん、美紀ちゃん、ありがとう」
涙を流している妹たちを抱きしめる。
「恵梨香も、絵里萌も、一緒に家に帰るよ」
「うん、おにいちゃん」
「そうだね帰ろう、お兄ちゃん」
僕は二人の妹たちの手を両手で握った。
「それじゃ、美紀ちゃん、バイバイ」
妹と手を繋いで振り返った時、僕の幼馴染は、ちょっとだけ寂しそうだった。
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