第48話 真夜中のツインテール
いやーもう、大変な一日だったよな……
こんなこと毎日やってたら身体も精神も持たない。妹たちに振り回され過ぎている。
そして恵梨香と付き合っていることが絵里萌にバレているということが恵梨香にバレてしまった。なんかややっこしい。
僕的には隠さなきゃいけないことが一個減ったので気が楽になったのだけど、さっきの恵梨香の表情が気になっていた。
◇
「おにーちゃん」
夜中に妹の声がした。薄明りの中、天使のようなよく見た顔がすぐ近くから僕を見つめている。
黒髪を左右のツインテールに分けた妹が、先ほど脱衣所の時と同じ胸の開いた薄いネグリジェを着て、僕の左右に両手をついて四つん這いで覆い被さっていた。
「絵里萌?」
眠い頭がゆっくりと覚めてくる。
絵里萌が夜中にやってくる時はいつもツインテールではなく恵梨香と同じロングヘアーにしていたんだけど、今日は髪型が違うんだな、そんなことを考える。
「うん、おにーちゃん……」
僕の上でささやく妹は、ネグリジェの襟ぐりが大きく下がって奥が見えそうだ。
胸の谷間も深く覗いていて、白い膨らみに黒くポツンとホクロが見える。
やっぱり絵里萌だ。
「んーどうした、絵里萌」
「ねえ、おにーちゃんは私のことが好き?」
妹は人形のような顔で僕を見ている。何か少し不安そうな顔。
「うん、もちろん好きだよ」
「でもお姉ちゃんのことも好きって言ってたよね?」
「えーっとまあ、それは言ったけどさぁ」
妹の顔が僕の顔のすぐ近くに迫ってきた。真剣な目で僕を見る。
「お姉ちゃんと私、どっちが好き?」
「え、またそれ?」
これさっきも聞かれたよな。今日の絵里萌はそういう気分なのか。
「またって?」
「さっきも聞いてきたよね」
「そうだった。もう一回ちゃんと聞きたいな」
確かにさっきはなんとなく誤魔化したよな。どうしよう。
「絵里萌、」
「ん?」
絵里萌がちょっと首を傾げたところで、僕はその頭の後ろに手を回した。ツインテールの頭に手を置くとゆっくりと引き寄せる。
恵梨香と同じ妹の匂い。
絵里萌の顔が僕の顔へと近づいて、その唇に僕の唇が触れた。そのまま手に力を込める。
さっきと同じように唇の隙間に舌を差し込むと、今度は僕から絵里萌の舌を舐めてみた。
絵里萌もおずおずという感じで舌を絡めてくる。そのまま二人で舌を舐め合い、舌を絡めていく。
なぜかちょっと新鮮な感じがする。
「はぁ」
「ふぅ」
長いキスを終えて二人で息を継いだ。
「これがおにいちゃんの答えなんだ」
「まあね」
ねっとりとした濃厚なキスの後、妹が聞いてきた。
「ねえ、おにいちゃん」
絵里萌は人形のような顔で僕を見つめている。
「さっき恵梨香と台所でキスしてたよね」
「えーっとさっきも言ったけど、あれはいつもの絵里萌にしてるキスとは違うから」
「どう違うの?」
「もっと軽いっていうか、いまみたいなのは絵里萌だけだよ」
「やっぱりそうなんだ。ねえ、おにいちゃん……」
「なに?」
僕の上で妹が身体を起こすと、ネグリジェの間から柔らかな胸を指で擦った。
胸にポツンと見えていた付けボクロが取れる。
そして妹は左右に髪を束ねたゴム輪を一つずつ外す。
長い黒髪が真っすぐに垂れ、よく見たもう一人の妹の姿へと変わる。
「おにいちゃんと絵里萌って、いつから付き合ってたの?」
僕の上から
えーっと、どうしよう。なにがなんだかわからない。ズルく立ち回ろうとして罰が当たったのか。
こうなったらもう謝るしかない。
「ごめん、恵梨香」
「いいよおにいちゃん謝らないでも。それよりいつから絵里萌と付き合ってたか教えて」
恵梨香が感情の籠らない声で問い質してくる。
「なんていうか、正確に言うと、絵里萌とは付き合っていない」
「でも絵里萌とキスしてたんでしょ、さっきみたいなデロデロしたやつ」
「えーっとそれは、はずみというか、なんか雰囲気で……」
恵梨香の表情が変わった。人形のような顔に動揺が走る。
「またいつものやつだ」
「いつものやつ?」
「絵里萌よ」
暗い部屋の中、恵梨香は激しく動転した顔をしている。
「言ったでしょ、あの子は私が好きなものしか好きにならないんだって」
「そういえば聞いた気も」
「だから自分が好きになりそうなものをまず私に見せてくるの。それで私が好きになったら……」
「二個買うんだっけ。お揃いが好きってこと?」
「ていうより価値観が私に依存してるの」
その話は絵里萌にも聞いたんだけど、その時も疑問に思ったんだよな。
「でもさ、もしそれが世の中に一個しかないものだったらどうするの?」
「そうね、そういうこともあるから……」
恵梨香は暗い表情を浮かべた。
「私は取られたくないものはいつも隠してきたの。妹に取られないように」
「きょうだいって、まあまあそういうのあるんじゃない?」
「あの子はそれがちょっと異常なのよ。私が持ってるものだけを欲しがるの。だから私はおにいちゃんと付き合ってることも隠してたのに……」
いやでも、そういわれても……
「隠すも何も、そもそも僕と恵梨香を付き合うようにさせたのも絵里萌なんだけど」
「え?」
恵梨香は唖然とした様子で僕の顔を見た。
「なるほど、ふーん、そうんなんだー」
妹は何かを考えている。
「つまり、絵里萌はお兄ちゃんを焚きつけて私と付き合わせたわけだ」
「まあそういう言い方もあるかもだけど」
「となると私が付き合ったから、おにいちゃんを取るつもりなんだ」
「なんだよそれ」
二股かけてるみたいになった僕も悪いけど、この二人の関係性も正直意味がわからなくない?
「言ったでしょ。あの子はそうなのよ。それにおにいちゃんだって絵里萌とまんざらでもなかったんでしょ」
「それはーなんというか、僕のせいってことなんでしょうか?」
「おにいちゃんは悪くないってこと?」
「いや、悪かった、ごめんなさい」
いやまあ、考えるまでもなく僕も悪いよな。そして恵梨香も暗い沈んだ顔をしている。
「でも、私もいけなかったんだよね」
「そんなことはないと思うけど。恵梨香は何も悪くないだろ」
「私が隠れておにいちゃんと付き合おうとしたのがいけないんだよね、絵里萌に隠して独り占めしようとして……」
僕の前で妹の目から涙がこぼれだした。人形のようなきれいな顔を涙が流れていく。
「恵梨香泣くなよ……」
「だって、私がおにいちゃんを好きにならなければこんなことにならなかったんだよね」
「いやだって、それはしょうがないっていうか」
恵梨香は涙を流しながら、上目遣いに僕の目を見てくる。
「私もう、おにいちゃんと会わない
「えっ?」
「おにいちゃんは絵里萌にあげる」
「ちょっと!」
「私もう誰とも会わない。引きこもりになる!」
「ちょっと待って」
「おにいちゃん、さようなら!」
恵梨香は泣いたままベッドから立ち上がると、部屋を出て行ってしまった。
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