双子の義妹のどちらかがベッドにもぐりこんでくる

やまもりやもり🦎甘酸っぱエロ系ラブコメ🌷

第一章 義理の妹が双子なんだけど

第1話 隣に眠っている美少女


 僕は初めて妹たちを見た時のことを、まだ時々思い出す。

 ろうそくの光が、テーブルの上のグラスに反射して輝く、レストランの個室。

 長い黒髪の華奢な二人の少女が、鏡に映った静かな天使のように僕を見ていた。


 二人の表情には、少しの不安と少しの期待が混ざっているようだった。

 僕はといえば、家族という単語が出るたびに落ち着かない感覚を覚えていた。


 その後、新しく母親となる人になんて挨拶したかは、覚えていない。 



 ―――――



「おはよう、たっくん。今日も眠そうだね」

「え、そうかな?」

「そういえば、妹さんたちとの暮らしはどう? ラブコメみたいなハプニングとかないの?」


 授業が始まる前の、慌ただしくもにぎやかな時間の教室。

 僕に話しかけてきたのは、国後美紀くなしり・みきというおかっぱ頭の眼鏡っ子だ。


 彼女は、僕が父親の再婚で新しい家に引っ越すまでの間、隣に小さいころからずっと住んでいた女の子で、つまり幼馴染だったりする。今は同じ高校の二年生。

 ついでに言うと、僕の名前は大泊卓也おおどまり・たくやだ。美紀ちゃん以外の友達からは卓也と呼ばれることが多い。


「それ前も聞かれたけど、全然そんなのないよ。平和そのもの」


 微妙に早口で答えながらも、僕はつい先日も、着替え中だった下着姿の妹と脱衣所でばったり出くわしたことを思い出していた。

 あの時は恵梨香だったと思うけど、絵里萌だったかも。慌てて部屋まで駆け込んだあとで、妹たちとは『脱衣所の鍵は必ず閉める』という約束を取り交わしたばかりだ。


「なんか怪しい」


 眼鏡の奥から訝るような幼馴染の視線から、つい目を逸らせてしまう。


「ぜんぜん怪しい」

「全然ってそういう言い方しないって。ほら授業始まるよ美紀ちゃん。席に戻って」


 机の中に手を入れた僕は、ゆっくり時間をかけて教科書を取り出した。



 ・・・



 昼休み始まってすぐ、教室の席で弁当を広げようとしたところで、美紀ちゃんが声をかけてきた。


「たっくん、一緒にお弁当食べようよ」


 おかっぱ頭ボブカットの眼鏡っ子は返事も聞かず、いそいそと机をつなげてくる。いつものことだ。二人で向き合ってお弁当箱を広げる。


「たっくん最近は妹にかかりっきりで全然遊んでくれないよね」

「いや、そんなことなくない?」


 エビフライを箸に挟んで振り回しながら、幼馴染が僕に理不尽なクレームをつけてきた。


 ていうか、僕と美紀ちゃんとは幼馴染としては十分仲が良いと思う。実際クラスの中には僕と美紀ちゃんが付き合ってると思ってる人もいそうな気がする。


 それに僕は、妹にかかりっきりでもなんでもない。


「なんかさ、妹さんたちがかわいいのは判るけど、たまにはほら」

「いやだから妹は……」


 彼女たちも高校生だし自分の生活があるわけで、むしろ僕が接している時間は今だと美紀ちゃんの方が長いぐらいだ。


 でもまあ、昔に比べたらそうでもない。中学二年のころまでは美紀ちゃんとはいつも一緒で、一緒に遊んだりちょくちょく勉強を教えたりもした。とはいえ美紀ちゃんの成績はそんなに良くなかった。


 そのころの成績を考えると、同じ高校に合格していたのに気付いた時はちょっとびっくりした。僕の教え方がよっぽど悪かったんだろう。


「そういえば、たっくんこれ好きだったよね」


 幼馴染がタコさんウィンナーを直箸で僕の弁当箱に放り込んできた。



 ◇ ◇ ◇



 再婚してすぐにもかかわらず両親は帰りが遅い。夕食は妹たちが作ることが多いのだけれど、どちらも僕が好きな料理を作ってくれている。二人には足を向けて眠れない。


「ごちそうさま」


 肉のみそ焼きに麻婆ナスに温野菜アンチョビソースバーニャカウダという、ちょっと凝った夕食を食べ終わった後で、僕は向かいに座る自分の妹たちを何気なく眺めていた。


 しかしこの二人、双子なだけにそっくりなんだよな。一緒に住んでで三か月経っているのに、いまだ髪型以外では区別ができない。


「おにいちゃんどうしたの?」


 ロングヘアーの妹の恵梨香が不思議そうな顔で尋ねてきた。まずい、じろじろ見過ぎたかも。


「あ、いや、今日のご飯も美味しかったなって思って」

「ありがとう!おにいちゃん!」


 とっさの言い訳に、恵梨香が満面の笑みを浮かべる。そういえば今日の料理は恵梨香が作ったんだよな。妹の顔を見て、なんとかいま食べた料理の味を思い出す。


「肉も甘辛で僕の好みだし、野菜のソースも塩味がちょうどよかったよ」


 僕がどうにか恵梨香の料理を褒めると、今度はツインテールのほうの妹の絵里萌が尋ねてきた。


「それじゃ、お兄ちゃんはお姉ちゃんと私のどっちの料理が好き?」

「え?んーっと」


 微かにニヤついている。実はこれ、センシティブな質問だったりする?


「いやほんと、すごいよ。二人とも料理上手だし美味しいよ。男子向きの料理っていうか、僕の好きな味付けだな」

「えへ」


 なんとか二人とも褒めてみた。気を使った答えみたいだけれど、実際どっちの妹が作った料理も美味しいんだよな。最近は特に味つけが僕の好みで、ついいっぱい食べてしまうのだ。


「いつもお姉ちゃんがお兄ちゃんの反応を見ながら、好みに合わせて味付けしてるんだよ」

「へー、そうだったんだ。確かに美味しくなった気がしてたんだ」

「でしょでしょ。私はそのレシピで作ってるだけなんだけどね」


 双子の妹の絵里萌が自慢げに説明すると、姉の恵梨香の方はちょっと恥ずかしそうな顔をした。でも口元がごにょごにょっと嬉しそうに動いている。


「ありがとうね、恵梨香」


 恵梨香の顔がぽっと赤くなった。なぜだかこっちまで恥ずかしくなってしまう。妹なのに。



 ・・・



 静かな夜更け、なぜだか眠りから覚めてしまった僕の目に映ったのは、女の子の寝顔だった。


 青いカーテン越しの街灯の光に薄く照らされ、深夜のモノトーンを帯びた六畳ほどの部屋。電源の入ってない液晶モニターが机に置かれ、カラフルなはずのラノベの背表紙が本棚に暗灰色に並んでいる。


『ここは僕の部屋だよな……』


 ベッドの隣に少女が眠っていた。長く黒い髪がベッドシーツの上を流れ、袖のない黒い寝具から白く細い腕が伸びている。僕の眠い頭はまだ働かない。


 ほのかな青い光の中で少女は凛として美しかった。幻想的な、というかアニメで見るような光景。僕より少し幼く見える。深海のような世界の中で現実感が薄い。原作はきっとラノベだろう。


『となると、異世界からの干渉?』


 もちろんそんなわけはない。


 普通に考えてこれは夢だ。再びちゃんと眠ろうと目を閉じる。聞こえてくるのは、自分の息の音と、少女のかすかな寝息だけ。


『いや、ちょっと待てよ、、』


 寝息の元は何事もなくそこにいた。今度はもう少し冷静に、すぐ隣で眠っている十代半ばの少女をじっと眺める。


 眠っていた僕の意識が、現実に追いついてきた。



~~~

美紀ちゃんのイラストはこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330667690132357

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