第44話 私に何か隠してることあるでしょ?

 トントン


 期末試験もだいたい終えてそろそろ夏休みというある日の夜、ベッドでラノベを読んでいると部屋のドアがノックされた。


 誰だろう、っていうか妹なんだろうけど。


「誰?」

「私」


 ベッドから起きてドアを開けるとやっぱり妹だった。

 黒髪ロングストレートの妹が手足の露出の多い部屋着姿で立ってる。恵梨香だ。


「えーっと、入って。何の用?」


 恵梨香は部屋に入ってくると、ベッドのふちにちょこんと腰掛けて僕の顔を見つめてきた。

 なんだか真剣な顔をしている。でもかわいい。


「ねぇおにーちゃん、私に何か隠してることあるでしょ」

「え?」


 こういう場合、どうしたらいいんだろう。というか、隠していることが多すぎて正直どの案件だかわからない。ついそれが顔に出てしまう。


「図星みたいね」

「えーーー、だってさ、家族にだって話さないこともあるだろ」

「おにーちゃんにとって、私ってただの家族だったんだ」

「え?、いや、もちろん大事な……」

「大事な、なに?」


 なんか妙に詰めてくるな恵梨香。


「っていうか、何の話だよ」

「えーっと、そう、絵里萌のことよ、おにーちゃん絵里萌とコソコソなにやってるの?」

「え?なにって、別になにもしてないけど」

「じゃあなんでいつも部屋に絵里萌が来てるの?」


 まあ、確かに絵里萌はちょくちょく僕の部屋に入ってくる。


「別に兄妹だからよくない?」

「怪しいなー。私と同じ顔だから浮気してるんじゃない?」

「そんな理由で浮気する奴いないでしょ」

「そんなのわかんないじゃない」


 わからないから有罪とかひどくない?美紀ちゃんじゃないんだから。


「だったら絵里萌に聞いてみたら?」

「あの子がうんって言うわけないでしょ」

「僕は言うんだ」


 恵梨香はベッドから立ち上がって近寄ってくると、手を伸ばして僕の左胸に手のひらを当てた。


「おにーちゃんドキドキしてる」

「それは何て言うか、恵梨香がかわいいからじゃないかな」


 手足の露出の多い美少女が、目の前から僕の身体に触れている。


「本当に浮気してない?」

「してないしてない」

「ドキドキが強くなったけど」


 ていうかこれ、冤罪工場みたいなものでは。


「ほら、それは僕が恵梨香のことを好きだから」

「証拠を見せてよ」

「証拠ったって……」


 なんか面倒臭くなってきたので、目の前に立っている妹をいきなり抱きしめた。


 そのまま顔を近づける。妹に目をつぶる間も与えず口を合わせ、唇で妹の唇をまさぐる。すると妹は僕の口に舌を入れてきた。僕も舌で妹の舌を受け入れる。しばらく二人の舌が絡まり合う。


 妹とのキスは甘いプリンの味がした。


「これでいいか?絵里萌」

「何で判った?お兄ちゃん」


 涎の糸を引きながら妹が尋ねてくる。ちょっとニヤリとしてしまう。


「最初っから怪しいとは思ってたんだけど、決定的だったのは」

「なに?」

「キスの舌遣いかな」

「そっか。それは私はわかんないや」


 恵梨香の姿をした絵里萌がフフッと笑う。その指が長い髪を梳く。


「でもお兄ちゃんもいい練習になったでしょ」

「そうかも」


 トントン


 部屋のドアがノックされた。僕と絵里萌は顔を見合わせる。

 これはひょっとしてやばいやつなのでは。




 絵里萌はすでに部屋の中を見回しているけれど、この部屋に隠れるところなんてあまりない。

 僕がベッドの下を指し、絵里萌は床に横になってベッドの下に転がり込んだ。


「誰?」

「私だけど」


 僕が部屋のドアを開けると、妹が立っていた。黒髪ロングストレートの恵梨香が手足の露出の多い部屋着姿で立ってる。


 こっちは本物の方だな。


「どうした?恵梨香」

「いま誰かと話してなかった?」

「あー、いや、ちょっと電話してたんだ。美紀ちゃんと」

「そうなんだ、ところで絵里萌見なかった?」

「いやー見てないけど、どうかした?」

「まあいいや、おにいちゃん、ちょっと入れて」


 恵梨香も部屋に入ってきた。


「なんか用?」

「用がないとおにいちゃんに会っちゃだめなの?」

「いやそんなことないけど、ほら家の中だし……」


 さっきの絵里萌とそっくりな妹はつかつかと部屋に入ってきて、僕の前に立った。微妙に怒ったような表情で、それがまたちょっとかわいい。


「おにいちゃん、私に何か隠してることあるでしょ?」


 まさかの本日二回目だよ。




「ないない、なーんにもない」


 今回はパターンを変えてみた。


「そんなわけないでしょ。おにいちゃんも家族にだって話せないことぐらいあるでしょ」

「ほらだって、恵梨香はただの家族じゃないから」


 どうやら僕の答えが想定と違ったみたいで、恵梨香は微妙にいらだってはいるもののそれ以上詰めてこない。よし、何とかなったか。


「まあいいや、おにいちゃん」

「なんだ」

「どうして私が怒ってるかわかる?」


 回答が思ってたのと違うので、詰めるまでのストーリーをすっ飛ばしてきたみたいだ。いくらなんでもショートカットしすぎじゃないかと思うけど。


 面倒なのでこっちも回答をショートカットする。


「えーっと、恵梨香を怒らせてごめん」


 一応この質問に対する回答は用意してあったんだよね。ネットで見たことあるから。


「やっぱりおにいちゃん、ふーん、そうだったんだ」

「ところで何が?」


 一応、冤罪かもしれないので質問してみた。


「何だと思ったの?おにいちゃん」


 しまった、藪蛇だった。


「えーっと、いやーそのー」

「言ってよ、おにいちゃん」


 やばい、思い当たることが多すぎる。


「昨日も美紀ちゃんの家に行ったこと?」

「行ったんだ。へー」


 あ、まずかった。これは知らなかったのか。


「おにいちゃん、美紀さんのことまだ好きなんじゃないの?」

「いや、それはそういうもんじゃなくて」

「さっきも電話してたよね」

「学校の連絡だよ」

「怪しいなあ」


 恵梨香は疑いの目で僕を見ている。


「おにいちゃん、こないだ首にキスマーク付けてたよね」

「あれはキスマークじゃなくて、えっと、」

「いっつも図書室でベタベタしすぎじゃない?」

「あれは仕事だから」

「どうだか」

「で、恵梨香はなんで怒ってたの?」

「そうだ、おにいちゃん私のプリン食べたでしょ」


 なんとか流れで聞き出しに成功した。


「いやー僕は食べてないけど」

「私の大好きな成城石井のプリン、取っといたのに無くなってるの」

「恵梨香が好きってことは絵里萌も好きなんだろ」

「絵里萌は昨日食べてた」

「なるほど」


 謎は全て解けたけど言うわけにもいかないし……


「わかったよ。明日買ってきてやるから」

「二個だよ」

「はいはい」

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