第45話 キスとハグはいくらしても大丈夫
妹たちに詰められる前の日のこと。例の週に一度の約束で、僕は美紀ちゃんの家に行くことになっていた。
試験期間中なので学校は午前で終わりだし、前みたいに一緒に映画でも見ればいいかなと思ってたんだけど……
「ちょっとリビングのエアコンが壊れててね。私の部屋に行こうよたっくん」
「あーそうなんだ」
確かに最近暑いし、エアコンはあった方がいいかな。
「着替えてくるから、そこで寝てて」
「あー(何言ってもしょうがないよな)うん」
いつものように薄ピンク色のベッドに向かおうとしたところで、後ろから声を掛けられた。
「そうだ、たっくんも着替えるよね!」
「いやーそれはちょっと、ほら、僕の着替えないし」
「大丈夫。ここに着替え置いとくからね」
そして僕はシングルベッドの上で、なぜかあったサイズがぴったりのTシャツと短パンに着替えて寝そべり、後ろから幼馴染に抱きつかれている。
「こうやってお昼寝していると、なんか昔を思い出すよね、たっくん」
「僕は先月ぐらいを思い出すけどね」
「私もー。私とたっくん、やっぱり気が合うよねー」
美紀ちゃんは例によってロングTシャツ一枚のラフな格好だ。僕の背中に柔らかいものが当たっているんだけどなるべく気にしないようにしている。
さっきから後ろで身じろぎをするたびに柔らかさと弾力が直接伝わってくる。
『っていうか、柔らかすぎじゃない?』
僕の中に美紀ちゃんTシャツの時はノーブラなのでは疑惑が浮上してきた。
といっても、直接「ブラジャーしてる?」とかは聞きにくい。ここは間接的に聞いてみようかな。
「美紀ちゃん、そのTシャツの下って何着てるの?」
「着てないよ、なんにも」
全然間接的じゃなかった。
「へー、ちょっと寒そうだね」
「だからたっくんにくっつくの。えへへ」
「エアコン弱めたら?」
「そしたら、たっくん暑いでしょ」
そして美紀ちゃんの素足が僕の脚に巻きついてくる。
「たっくん、ちょっと冷えちゃってるね。あっためてあげる」
視線を下に向けると、美紀ちゃんの白い太腿が後ろから僕の素足を挟み込んでいるのが見えた。しっとりした肌から少しずつ体温が伝わってくる。
そしてその太腿が絡みつく様に動くたびに、美紀ちゃんのロングTシャツの裾がめくれてきている。
そういえば、さっき、ちょっと気になったんだけど。
「そのTシャツの下って何も着てないって言ったよね」
「うん、ぜんぜん着てないよ」
「えーっと、下も?つまりパンツも?」
「うん、ぜんぜん。ぜんぜんぜんぜん」
これは思ったよりやばい状況なのではないだろうか。ちょっと美紀ちゃんを甘く見ていた。
「ねえ美紀ちゃん、僕たち十七歳だよね」
「私は十六だけどね。誕生日八月だから」
「そうだったよね。ごめん」
「いいんだよ、たっくん」
過ぎてたらかなり気まずいところだった。それはともかく。
「それで、話を戻すけどR18ってあるじゃん。つまり僕たちはそういうの駄目なんだよ」
「そういうのって?」
「なんていうか、大人なやつだよ」
「じゃあどこまでならいいの?」
「えーっと」
どうなんだ?R15ってどこまで?僕はそんなに詳しくない。
「そうだ、絵里萌ちゃんに聞いてみるね」
幼馴染は背中に抱きついたまま僕の妹とライン通話を始めた。
「もしもしー絵里萌ちゃん、うん、私、あのさーちょっと聞きたいんだけど、ほらラノベとか絵里萌ちゃん詳しいと思って、えーっとね、R18にならないぎりぎりってどこまでかなって。へー、そう、R15っていうんだ。うん、それでいいけど、どこまで?」
美紀ちゃん、絵里萌と仲良すぎなのでは。
「ふーん、おっぱいは押し付けるのはいいけど揉むのは微妙。当たっちゃうのはOKと」
そうなんだ。
「キスはOKで、耳を舐めるのも大丈夫だけど、胸は舐めちゃダメと。へー」
わりと参考になるな。
「へー、なるほど、ふんふん、わかった。いま?うん、たっくんと。うん。じゃーねー」
「いま僕の名前出てなかった?」
「聞いたら、キスとハグはいくらしても大丈夫だって」
「へー」
「だからたっくん、キスしよ」
「いやなにも限界に挑戦しなくても……」
「じゃあ、耳を舐めるね」
「えー」
◇
ということがあったわけだ。
そして話は戻って、プリンを二個買ってあげると言われてご機嫌な恵梨香が部屋から出て行った後、絵里萌がベッドの下から這い出てきた。
「お前がプリンを二個食ったせいで恵梨香に詰められたじゃないか」
「別にさっきのぐらい、詰められたっていうより兄妹の軽いコミュニケーションでしょ」
絵里萌は軽くいなしてくる。いつもならツインテールなんだけど今日はストレートロングヘアーなので恵梨香そっくりなんだよな。
というか今も恵梨香と話している気しかしない。認知のひずみでちょっとクラクラするんだけど。
「でもさ、なんで絵里萌はあんなに美紀ちゃんと仲がいいんだよ?」
「だってあの人お兄ちゃんの事なんでも知ってるんだもん」
「まあそうかもしれないけどさぁ」
黒髪の妹はにっこり微笑んだ。
「それに国後さん、お兄ちゃんの写真をあげると代わりに色々教えてくれるんだ」
「なにそれ?」
「ところでお兄ちゃん、昨日は国後さんと何してたの?」
あ、こっちのほうが藪蛇だったかも。
「えーっと、そう、美紀ちゃんがマンガを描くとか言ってて参考に」
「ふーん。でも国後さんが書いてるのってBLだよね」
「え、そうなんだ。詳しいな」
「お兄ちゃん総受けとか言ってたけど」
「だから生ものはやめて!」
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