第46話 水着を買いに行く強制イベントが勃発

 期末試験も終わって夏休み前のだらっとした期間。


 僕はこの期間がわりと好きで、むしろ夏休み中より好きと言ってもいいぐらいだ。このモラトリアム感がたまらないんだよな。


「暑いねー、たっくん」

「だよねー」

「そうだたっくん、今度プールに行こうよ。昔よく行ったじゃない」


 午前中だけの授業が終わったところで美紀ちゃんが提案してきた。まあ確かにプールいいよな。夏って感じがする。


 うーん、でも付き合ってる彼女を置いて他の女の子と二人だけでプールに行くとか、やっぱり駄目だよね。


「妹も一緒でいい?」

「まあ、しょうがないかな」


 ということで、夕食の時にでも妹たちにも聞いてみることにした。




「夏休み前の週末にプール行かない?」

「うん」

「いく」

「……って美紀ちゃんが言ってるんだけど」


 そこまで言ったら二人とも微妙な顔になった。


「んー、まあいいか」

「いいんだ」

「美紀さん、おにいちゃんの保護者みたいなもんだし」

「それよりお姉ちゃん、水着買わないと」

「だねー」


 とりあえず大丈夫そうなので、ちょっと一安心だな。


「おにいちゃん、明日一緒に水着買いに行きますよ」

「水着ぐらい持ってるんじゃないの?」

「何言ってるのおにいちゃん」

「中学の時のじゃダメに決まってるでしょ」

「それって僕も行かないと駄目なやつ?」


 妹たちが何言ってるんだ当然だろという目で見てきた。



 ◇



 この期間は学校が午前しかないので、放課後はそのまま妹たちのショッピングに付き合わされる。それも水着売り場だ。

 つまり制服の女子高生に同行して女性用の水着売り場に行くというという強制イベントが勃発した。


「これどうかなー」

「ちょっと大胆じゃない?」

「やだー」


 という声が売り場から聞こえてくる。

 売り場には妹たち以外にも女の子がいるわけで、その全員が下着のような服を手に取ってあれこれキャピキャピやっている。


 更衣室の前の椅子に座って待つ。大変居心地が悪い。


「お兄ちゃん!ちょっと見てー」


 更衣室のカーテンを開いて、手櫛で長い髪を梳きながらストレートヘアの恵梨香が現れた。


 わりとシンプルな競泳用水着を着ていて、これならスクール水着の親戚みたいなもんだし、露出も控えめでまだぜんぜん大丈夫。ちょっとハイレグだけど。


「いいんじゃない?」

「おにいちゃん、これは?」


 続いて絵里萌が着て出てきたのは、上下がつながってはいるけれどサイドがざっくり空いているタイプ。


 暗色の水着のカットから白い肌が見えるのが、最初から全部見えるビキニより逆に刺激的な感じもある。なんか絵里萌っぽい。ツインテの幼い感じとは若干ギャップがあるけど。


「あー、まあーいいんじゃない」

「じゃあ次ね」


 二人はカーテンの向こうに消え、まずは深呼吸。これあとどのぐらい続くんだろう。正直どんな基準でコメントすればいいのかわからない。

 兄目線なのか、それとも彼氏目線か。エロくていいのかいけないのか。


 というかこれ、僕は単に「いいんじゃない」って言ってればよくて、実際は自分たちで見て選ぶんだよね?


「おにいちゃん、これは?」


 今度はツインテールの絵里萌が先に出てきた。上下セパレートの水着を着ている。


 上はビキニタイプだけど下はパレオみたいなヒラヒラしたやつが付いていてかわいげでもある。それにしても締め付けの強い競泳用と比べてこういう水着だと胸が大きく見えるんだな。


 ていうかやっぱりうちの妹たち、細いのに結構胸が大きいみたいな気がしてきた。美紀ちゃんほどじゃないけれど顔が幼いのでより目立っているような。

 つい目がそこに行ってしまうんだけど、見てもいいのかいけないのか、どっちなんだ。つい目が泳いでしまう。


「えーっと、あー、いいんじゃない?」

「これはどう、お兄ちゃん?」


 そして続けて更衣室から、黒髪ロングの恵梨香が白いストラップレスのビキニというこれまたチャレンジングな水着姿で現れた。


 グラビアによくある肩紐のない、どうやって止まってるのか不思議なやつだ。これ胸が小さいとずり落ちるんじゃないかな。その点では大丈夫かもだけど、どうなんだろう。気になる。


「いい……けど、露出が多くない?」

「そうかな、かわいいと思うけど」

「プールで遊ぶんならもうちょっとちゃんとした奴の方が……」


 ウォータースライダーとか危険な気がするんだけど、大丈夫なのかな。


 その時ふと、恵梨香の胸の谷間近くにポツンと黒いホクロがあるのに気が付いた。思わず二度見してしまう。


 そして今度は絵里萌の胸をもう一度見る。ホクロがない。一瞬息が詰まる。


「えっ、ところでなんだけど?」

「なに?お兄ちゃん?」


 水着姿で立つ二人の妹たちをもう一度じっくりと見て、


「二人、実は入れ替わってない?」

「すごい、おにいちゃん、よくわかったね」


 黒髪ストレートの絵里萌が驚いた表情を顔に浮かべ、ツインテールの恵梨香はちょっと嬉しそうな顔をした。なんなのこれ?



 ◇



 妹たちの買い物を済ませてから、三人で一休み。クレープを食べながらさっきの種明かしをされた。


「ほら、服を買う時って自分の恰好が見たいじゃない」

「だから、二人で行くときは相手の髪型にしとけば鏡が要らないでしょ」

「なんだよそれ、っていうか合理的かもしれないけど……」


 頼むからそういうことするときは先に言っておいてほしい。あやうく妹の名前を間違えて呼ぶところだった。


「まあいつもみたいに二人で同じの買っちゃうって手もあるんだけど、今回はお兄ちゃんも一緒に行くから見てもらいながら選んでもいいかなって」

「でも、おにいちゃんが気が付くと思わなかったな」

「だよねー、ちょっとびっくりしちゃった」

「まあ、な」

「でも、うれしかった」


 恵梨香がほわんとした目で僕を見て嬉しそうに言う。


 いや、こっちが恵梨香だよね、たぶん。



~~~~~


水着を選ぶ妹のイラストはこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16818023211870116713

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