終章
第53話 恵梨香
そして夜中。
黒髪ロングヘアーの妹が隣に寝そべって僕と顔を見合わせている。ネグリジェの間から覗く白い胸にはホクロはない。本物の恵梨香だ。
「おにいちゃんは本当は絵里萌の方が好きなんだよね」
長い髪の妹はちょっとすねた顔をして聞いてくる。この顔もかわいい。
「何言ってるんだよ。僕が好きなのは恵梨香だよ」
「じゃあ絵里萌のことは好きじゃないの?」
僕はにっこりと微笑んだ。
「もちろん絵里萌のことも好きだよ。だって僕たちは兄妹だし」
「お兄ちゃん、ずるくない?」
「言っただろ、二人でずるくなろうって」
僕は天使のような妹の顔にゆっくりと顔を近づけた。
恵梨香が目をつぶる。妹に唇を合わせ、そっと舌を挿し入れた。
そのまま舌を舐め合いながら、いつもと違って今度は長いキスをする。
「そうだ、恵梨香。今度デートしようよ」
「うん、それじゃ明日の放課後がいいな」
二人で顔を寄せ合いながらデートの相談をする。
普段の家の中だと、恵梨香だと思って話しかけると実は絵里萌だったりすることも時々あって、こういう時でないと秘密の話をするのはなかなか危険なのだ。
「どこか行きたいところある?千葉動物園とか?レッサーパンダもいるし」
「うーん、外はいいかな。二人だけで静かなところに行かない?」
「わかった。考えとく」
まあいいや、これは後で考えよう。
「ところで恵梨香」
「なに?おにいちゃん」
「受けからのリバ攻めってなに?」
「そんなの知らないし言ってないし気のせいじゃない?」
◇
「恵梨香ちゃんとは仲直りした?」
「うん。ありがとう美紀ちゃん」
翌日の学校で美紀ちゃんに声を掛けられた。眼鏡っ子の幼馴染は微かに寂しそうな微笑みで僕を見ている。
「絵里萌ちゃんの事も気を付けてあげないとだめよ」
「そうだね、気を付ける」
やっぱり美紀ちゃんは頼りになる。ていうか今回頼りっぱなしだったよな。
「そうだ、美紀ちゃん。プールだけど、今週末でいい?」
「うん!」
僕の幼馴染は思いっきり嬉しそうな笑顔になった。
◇
「ここ懐かしいね!おにいちゃん」
「そうだな」
というわけで早速放課後、駅前のネットカフェのペアフラットシートに恵梨香とまた来てしまった。
制服デートは新鮮でいい気がするけれど、三回デートして三回ともネカフェって、恋人同士としてどうなんだろうという気もしないでもない。
でも、恵梨香は二人きりでいられるここが割とお気に入りらしい。というかそもそも引きこもり体質なのかもしれない。
制服姿のまま、マンガを抱えてフラットシートに妹と並んで寝ころび、時々目が合うたびに唇を合わせる。
最初は軽いキスだったのにだんだんと唇の接触時間が長くなってきた。
恵梨香はとろんとした目で僕を見つめてくる。
「おにいちゃん、もっとキスしようよ」
「え?」
いや、いままで僕たちそれしてなかった?
妹は僕の疑問をよそにフラットシートに僕を押し倒してきた。
「おにいちゃん♡」
上気した顔が僕の顔に近付いてくる。半開きになった口を覆い被せるようにして、恵梨香は唇を合わせてきた。
ゆっくりしたキスがだんだんと唇をむさぼり合うようなキスに変わる。
妹が僕の口の中に舌を入れてくる。妹の薄い舌が僕の口の中を這う。
僕の口の中で、妹の舌と唾液を味わっている。
すると恵梨香が僕を抱えるように身体を横に転がしてきた。
唇を貪るように合わせたまま、妹と身体が入れ替わりそのまま僕が上になる。
今度は僕から舌を入れる。妹の舌が僕の舌を迎えてくる。唾液を流し込むように妹の口内で舌を絡め合う。
二人で涎の交換のような長い長いキスをする。
「はぁ」
「ん」
ちょっと息をするのを忘れてたよ。あ、でも。
「なんか分かった気がする」
「なにが?おにいちゃん」
「受けからのリバ攻めってやつ?」
「んーまあ近いかもね。本当は口じゃなくてやおい穴に入れるんだけど」
「なにその穴?」
「え?なんのこと?」
制服姿の恵梨香は無邪気なあどけない顔をして、純真そうな目で僕を見ている。
「私なにも言ってないよ。変なおにいちゃん」
「そっか、気のせいかな」
その顔に清らかな表情を浮かべた妹は、まるで天使のようだった。
どうやら何かを聞き間違えたみたいだな。
「そういえばさあ、絵里萌って結構オタクだけど、恵梨香ってそうでもないよね」
「ん、まあね」
「実は腐女子とか」
「全然、全然そんなんじゃないって!」
恵梨香は食い気味に否定してきた。そこまで否定しなくてもいいのに。
マンガを放り出して、二人で抱き合いながらお互いの話をする。そしてお互いの家族の話になった。
「私ね、小さい頃よくイタズラで絵里萌と入れ替わって遊んでたの」
「そりゃ親も困ったでしょ」
「誰も分からないからイタズラにならなかった」
「なるほど」
完全犯罪みたいなものか。
「それでね、何日か入れ替わってたら自分がどっちだかわからなくなってきた事があったの」
「へー」
「絵里萌も小さいころ、自分が恵梨香だって言い張ってたことがあるんだ」
「ふーん」
「絵里萌が私のものを欲しがるのってそのせいなんじゃないかと、ちょっと思って」
「なるほどね」
幼少期の体験が人格を形成するってやつだな。
「まあ、本当は私が絵里萌なのかもしれないんだけどね、おにーちゃん」
イタズラっぽく微笑む妹の顔は、やっぱり無邪気な天使のようだった。
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