本編最終回・プール回ってやっぱり神
夏休みの前だから梅雨時のはずだけど晴れ間の週末。というかもう梅雨明けなのかもしれないけど、僕たちは千葉のプールにやって来た。
ここは屋内施設もあるけど七月からは屋外プールも解放される。
「たっくん、おまたせー!」
着替えの後、待ち合わせ場所でぼーっと立っていた僕に後ろから美紀ちゃんが抱きついてきた。
背中にグニュっと柔らかいものが当たる。
「あ、ほら、美紀ちゃん、当たってるから」
「当ててるもん」
「いや、それは、ちょっと……」
必死で生理的反応を抑えながら美紀ちゃんの腕を剥がして振り返った。
「どうかな?たっくん」
「えーっと、うん、まー、えーっと、」
美紀ちゃんはちょっと大人っぽい紐成分の多いビキニを着ていた。やっぱり胸が大きい。というか思ってたよりもっと大きかった。
「どう?」
「えっと、いいんじゃない、かな、うん、すごいっていうか」
そして今日は眼鏡をしていない。
美少女というよりグラビアっぽい雰囲気。
「もっと褒めてくれてもいいのよ」
「どんな風に?」
「交換日記みたいなのがいいな」
「やめて」
ああいうのは中学生しか書けないのだ。
「おにいちゃん、また美紀さんとイチャイチャしている」
「お兄ちゃん、浮気は駄目だよ」
「いやだってほら、美紀ちゃんは幼馴染だから浮気じゃないし……」
後ろから妹の声がして、言い訳しながら振り返った。そこには二人の水着の天使がいた。
黒髪のロングヘアーとツインテール、白い肌、おそろいのトロピカルな模様のビキニトップとかわいらしいパレオの付いたボトム。
細く華奢な身体、それにしてはちょっと膨らみのある胸。
「なんで幼馴染は浮気じゃないの?おにーちゃん」
ツインテールの妹が尋ねてくる。
「あー、いや、いつもかわいいね、絵里萌。似合ってるよ!」
「私は?」
ツインテールの隣で、同じ格好をしたロングヘアーの妹が少し頭を傾けて聞いてきた。
「もちろん、きれいだよ、恵梨香」
「きゃ♡」
恵梨香の顔が赤みを帯びる。
「なんで私はかわいくてお姉ちゃんはきれいなの?」
「まあいいじゃん、ほら、プール行くよ!美紀ちゃんも」
「たっくん、私は?」
「え?、あ、いや、いいんじゃないかな」
「おにーちゃん、行こうよ」
◇
「今日のためにこれ買ってもらったんだ!」
恵梨香が防水ポーチから新しいスマホを取り出した。
「それって最新の15じゃん」
「うん、pro MAXだよ」
「ってことは絵里萌も?」
絵里萌も頷いて防水ポーチの中のスマホを見せてくる。うちの親、結構大変だな。ちなみに僕のスマホは父親のおさがりだ。
「おにいちゃん、写真撮るよ!」
後ろからの妹の声に振り返ろうとして、
「待って!」
いきなり言われて慌てて止まった。
「いいそれ。おにいちゃんその振り返るところ推せる! そう、そこで一周回って」
「こう?」
「最後にポーズとって口閉じて、はい、視線ください!」
「むぐっ」
その後も恵梨香はカシャカシャと僕の写真を撮り続ける。
「何枚撮った?」
「300枚ぐらい?かな。画素数も最大で撮ってるよ。大きくして見たいし」
「そんなに撮ったの!?」
「大丈夫だよ1TBモデルだし」
それって25万円だよね確か。うちの親、じつは娘にものすごく甘いのでは
「そうだ、恵梨香の写真も撮ってあげようか」
「うん、お願い。おにいちゃん」
というわけで僕は写真を撮るという名目で合法的に恵梨香の水着姿をガン見しながら、シャッター、というのかな、撮影ボタンを押す。
「お兄ちゃん、私も一緒に撮って」
「うん、もちろん。絵里萌」
恵梨香と絵里萌という絶世の美少女二人が水着姿で並んだり肌を合わせて抱き合ったりしてポーズを取っている。
有機ELの画面に映る二人の姿は天使か人形かという光景だ。やばい、超かわいい。
ひょっとして今回って神回?
しばらく妹たちの写真を撮り続けて、気がついたら周りに人垣が出来ていた。
◇
「いやーちょっと目立っちゃったな」
「よくあるけどね」
「美少女も大変だな……あれ、美紀ちゃんは?」
お昼にしようと座席を確保したところで、気がついたら美紀ちゃんがいなくなっていた。
「ちょっと探してくる……って、うーんと」
ここに妹たちだけを置いておくとナンパとかされそうだ。
とりあえずラッシュガードを脱いで椅子の背に掛け、飲みかけの飲み物も置いておく。
これなら誰か男がいるように見えるだろう。
「美紀ちゃーん、あ、いた!、みきちゃーん!!」
テンプレの通りに美紀ちゃんが男に絡まれていた。
確かに紐の多いビキニのボブカット美人巨乳女子高生が一人で歩いてたら色々あれだよな。
「たっくん!!」
美紀ちゃんはまた僕に抱きついてきた。今度は前から。僕の身体に何かのぐにゃっとした感触が当たる。
「美紀ちゃん、一人でどっかいっちゃだめだろ。心配したじゃないか」
「ごめーん、たっくん。寂しかったのー」
僕と美紀ちゃんがバカップルムーブを演じていると、さっきの男はチェっという顔をしてどこかに行ってしまった。
「ほら美紀ちゃん、カップルの演技はもういいから」
「えーもうちょっとー」
幼馴染はくっついたまま離れない。思ったより大きかったそれをぐりぐりと押し付けてくる。
「ほらでも、当たってるんだけど……」
僕の生理的現象がやばい。
「だから当ててるもん」
「ねえ、美紀ちゃん、食べ物買ってこようよ、ね」
ハンバーガーや焼きそばとコーラをトレイに乗せて、美紀ちゃんと一緒に妹たちのところへと歩く。隣で揺れているのをなるべく見ないようにする。
「そういえば、こないだは美紀ちゃんありがとうね」
「いいの。負けは負けだから」
勝ち負けの定義がよくわからないけど、やっぱり戦いがあったようだ。
「私も甘いわね……」
「そのセリフ、負けヒロインのテンプレっぽいよね」
「えー、なんでー」
負けヒロインと言ったら美紀ちゃんは不満そうな顔で僕を見た。
「でもあの時、美紀ちゃんはわざと負けたんだよね」
「まあね。でもいいの、本当の戦いはこれからだから」
紐成分の多いビキニの幼馴染がクスリと笑う。
「でさー、美紀ちゃん」
「なに?たっくん」
「例の同人誌はもうやめてくれない?」
「えー、うーん、まあいいけど。たっくんが言うならBLはやめる」
「よかった」
もっと渋るかと思ってたけど美紀ちゃんはあっさり諦めてくれた。
「たっくんがNLだっていうならそういう本にする。今度は幼馴染が男の子の義理の妹と戦うの」
「やっぱり生ものなんだね」
僕の幼馴染は楽しそうに早口で話し始める。
「やっぱりリアリティが大事だからね。まずはWEB小説からかなって。タイトルは、双子の義理の妹がベッドにもぐりこんでくるけど僕はやっぱり幼馴染が好き、とかどう思う?」
「長くない?」
「いまは長い方がいいんだよ、たっくん」
まあ、実名じゃなきゃいいか。美紀ちゃんも楽しそうだしな。
「おにーちゃん!遅かったね」
水着姿の妹たちが手を振って僕を呼んでいる。やっぱり目に入った瞬間ドキっとしてしまうほどにかわいい。
白い肌に長い濡れた黒髪、そしてトロピカルなビキニ、細い身体に大き目の胸。それが二人並んでいるのを見るとちょっと眩暈がしてしまう。
「ごめん、お昼買ってきた」
「私ハンバーガーがいいな、おにいちゃん」
「じゃあ私もお姉ちゃんと同じのにする」
妹たちは無邪気に僕の買ってきたハンバーガーに手を伸ばしてくる。なんか微笑ましい光景だ。
家族っていいな、僕は改めてそう思った。
そして、妹たちと過ごす初めての夏がやってくる。
◇
「おにいちゃん♡」
新しく印刷してもらった兄の写真を見て恵梨香は満足したようにうなずいた。
ハイエンドのスマホで撮った最大画質の兄の水着写真を特注で等身大にプリントしてもらったものだ。
とはいえ、もう壁には貼る場所がない。恵梨香の部屋の壁は兄の写真で埋め尽くされていた。
「やっぱりここかな」
ベッドの上に椅子を置いて背伸びをしながら天井に兄の水着の写真を貼りつけた。
「これでよし」
妹はベッドに転がって等身大の写真を眺める。
高解像度で印刷された兄の笑顔が自分に微笑みかけてくる。
「大好きだよ。おにーちゃん♡」
~ END ~
といいつつ、次回第0話。
恵梨香の水着のイラストはこちら
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16818023212314872530
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