第六章 僕も大人にならないと

第27話 幼馴染と過ごす時間

「で、デートはどうだったの?」

「だから三人の場合はデートって言わないんだって……」


 月曜日、朝から待ち構えていた美紀ちゃんに廊下の隅に連れていかれてなぜか尋問が始まった。

 一応反論してみたけどどうも説得力に欠ける。


「デートじゃなくてもいいから、どうだったの?」

「聞いてどうするの?」

「ほら探偵だし。事情聴取しとかないとね。で、どっちが怪しかった?」

「どっちって、妹たちが二人で同じ格好してて見分けがつかなかったんだよ」

「なんで?」

「さあ、被ったんじゃない?」


 深海魚の前の出来事は省略して話をする。


「……で、結局、普通に兄妹で水族館行った後、三人で観覧車乗ってきた」

「アニメみたいね」

「そうそうラノベが原作のやつね。今回は絵里萌のプロデュースだったから」


 絵里萌の行動って突飛なことがままあるんだけど、よく考えてみるとラノベを読んで参考にしたみたいなのが多いんだよな。

 コンテキストが分かりやすいっていうか、原作に忠実というか。


「なんかいいなー。たっくん、私も行きたいな、水族館」

「いいんじゃない。魚好きなら楽しいと思うよ。マグロもいるし。行ってきたら」

「そこは誘ってくれないの?」

「二回連続で行けと?」

「そうね、じゃあどこにする?」


 完全にどこかに行くことが前提になっている。これは美紀ちゃんに乗せられたな。

 

「ららぽーととか?」

「ちょっとローカルすぎじゃない?」

「でも原作だとそうなんだよ」


 ちなみに、僕らの高校からは頑張ればららぽーとまで歩いて行ける距離だ。


「私は別にアニメの原作にこだわらないよ」

「まあ、ちょっと考えてみる」

「楽しみ!」


 美紀ちゃんは廊下をスキップしながら歩いている。あー、なんか無駄にハードルを上げてしまった。



 ◇



「千葉 デート」で検索すると出てくる鴨川シーワールドとかマザー牧場とかは高校生には行きにくいんだよな。車ないし。近めのアンデルセン公園は家族連れ向きだし。


「何やってんだ、卓也」


 昼休みに一生懸命スマホで検索していたら幸雄に声を掛けられた。


「いやさー、女の子と遊びに行くところで、高校生向きなのないかなって」

「デートか?」

「えーっと……」


 デートなのかな。


「定義としてはそうかな」

「国後さんとだろ?」

「何でわかった?」

「国後さん、朝からなんか楽しそうだったから」


 やばい、本当にハードルを上げてしまったみたいだ。


「やっぱりお前ら付き合ってるんじゃん」

「いや、そういうんじゃなくて、えーっと、そう、妹も」

「妹?あの超かわいい双子の?」

「そう、妹も一緒にって思って」

「国後さんといい、羨ましいやつだな」

「だって妹だよ」


 条件反射で言い訳をしてしまうけれど、みんなそんなに妹と一緒がうらやましいのだろうか。


「まー人数いるならカラオケかボウリングでよくね?」

「カラオケは行ったから、ボウリングか……」


 目の前で幸雄がいかにも一緒に誘って欲しそうな顔をしているんだけど、実際は美紀ちゃんだけだしな。いや、でも二人でボウリングって結構ハードじゃね?体力的に。


「ちなみに二人で行くんだったらなにがいいかな」

「普通は映画かな」

「あーそれか」


 僕が映画をあまり観ない人なのでぜんぜん選択肢になかったけど、よく考えたらラノベもデートって映画多いよな。特に序盤。


「やっぱり国後さんとデートだろ」

「ほらでも幼馴染だし別にデートとかじゃ」

「ふーん、まあ頑張れよ」


 

 ◇



「美紀ちゃん、映画とかどう?」

「いいかも、デートっぽい」


 美紀ちゃんに声を掛けると普通に喜んでくれた。まあ高校生だし。ただ問題はここからだなんだよな。


「で、何を見よう」

「そうね」


 近場の映画館の上映リストをスマホで検索して二人で眺める。ちなみに場所はやっぱりららぽーとだ。


「なんかいまいちね」

「夏休み前だし、端境期って感じだよね」


 こういう時、国民的アニメとかやっててくれれば楽なのに。


「たっくん、今日の放課後、うちのテレビでネトフリのなんか見ようよ」

「そうしようか。お金もかからないし」


 まあ、僕たち昔からこんな感じだしな。妹たちには今日はちょっと遅くなると言っておこう。



 ◇



 せっかくなので途中のコンビニでポップコーンを買い、幼馴染の家のリビングでソファーに制服のまま二人並んで座る。


 目の前に置かれたテレビは60型なので二人で見るなら映画館みたいだ。


 昔はもっとテレビが小さかったけど、美紀ちゃんとはこのソファーで一緒によくテレビを見ていたな。


『この感じ、ちょっと懐かしいかも』


 カーテンを閉めて薄暗くなったリビングで邦画のコメディ作品を眺めながら、僕はいつのまにか幼馴染と手を繋いでいた。


『そういえば昔はこんな感じだった』


 眼鏡っ子の幼馴染が僕の方にもたれ掛かってくる。身体の触れ合う部分がちょっと熱い。


 僕の幼馴染は時折クスクス笑いながら恋人繋ぎで僕の手を握りしめてくる。僕もその手を握り返す。


 そして映画は終わってしまった。


「おもしろかったね!」

「うん」


 ネトフリのお薦めに出てきた映画の中から二時間超えないのを適当に選んで観たんだけど、実は意外と面白かった。


「埼玉愛にあふれた映画だったね?」

「ちょっと千葉がディスられてたけど」

「でも群馬よりましだったよ」


 なんとなく手は繋いだままで映画の後も感想を言い合う。高校の制服を着ている幼馴染と中学生の時みたいに会話が弾む。


 その時メッセージの着信音が鳴った。僕は手を離してスマホの画面を見る。


「妹からだ。ご飯はカレーだよって」

「恵梨香ちゃん?」

「そう。何でわかった?」

「なんとなく。勘かな」


 幼馴染は少しだけ寂しそうな顔をした。


「じゃあそろそろ帰ろうかな。楽しかったね」

「うん、楽しかった。また学校でね。今度はたっくんの好きなもの作っていくから、いっぱい食べてね」

「うん。ありがとう」


 美紀ちゃんとのこういう時間、なんか久しぶりだったな。なんとなくまだ名残惜しい。


 僕は幼馴染の家を出てしばらくしてから、恵梨香に「帰るよ」とメッセージを入れた。

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