第28話 絵里萌と行く。秋葉原デート

絵「お兄ちゃん、二人で遊びに行く話だけど」


 絵里萌からラインが送られてきた。


僕「うん覚えてるよ。絵里萌はどっか行きたいところある?」

絵「秋葉原に行きたいな」


 なんで女子高生が秋葉原?って感じだけど、絵里萌らしい気もするかな。といっても僕もそんな詳しいわけじゃない。


僕「いいけど、秋葉原で行きたいところ教えといて。調べとくから」

絵「うんわかった」


 という流れで絵里萌から秋葉原の行きたいところ、というか、どのアニメのどのシーン、みたいなリストが送られてきた。

 まあネットで調べておけばなんとかなるか。


僕「土曜日でいい?」

絵「大丈夫だよ。お兄ちゃん」


 そうだ、ついでというかなんというか、恵梨香の方も聞いておくか。とりあえずラインを送っておく。


僕「こないだの件だけど、どっか行きたいところある?」

恵「おにいちゃんと二人でのんびりできるところがいいな」


 恵梨香はすぐに返信してきた。のんびりか……のんびりってどんなだろう。


僕「まあ考えとく」

恵「土曜は用があるから日曜日がいいな」

僕「おけ」


 要望が具体的でないのに、締め切りだけ設定されてしまった。なんか考えないと。



 ◇



「うわー、人がいっぱい!」

「土曜の秋葉原ってこうなんだな」


 絵里萌とやって来た秋葉原の街はとにかくガチャガチャしていて、しかも人で溢れていた。駅から既に萌え絵のポスターがいっぱい貼られている。


「じゃあまずはラジカン行くか」

「うん!」


 僕の前を歩く絵里萌は黒いロングのTシャツをダボっと着て、脚は縞のカラータイツに髪は上位置のツインテールという女子中学生みたいなパンクスタイルだ。なぜだかアキバの街に合っている。


「わーい、ラジカンだ!」

「絵里萌、秋葉原初めて?」


 ちなみに今あるラジオ会館は2014年に建て替えられたので、あのアニメに出てくるものではないんだけどね。


「うん。中学生の女の子ひとりじゃちょっと来にくいじゃない。お姉ちゃんは人が多いところあんまり好きじゃないしね」

「へー、そういうのあるんだ」


 やっぱり双子でも性格は結構違うんだな、改めてそう思った。


 続いて僕らはオタクと外国人とメイドさんでごった返す中央通りを歩く。


「なんかすごい。この辺街の作りがアニメっぽい」

「あーそうだね、妹のやつね」

「うん。それ」


 道をわたって反対側の路地に入ると、道端にメイドさんがいっぱい立っている。メイドさん以外のコスプレもいるけど。


「わー、メイドさんだ!」

「絵里萌はコスプレ興味あるの?」

「なくはないけど、私、そんな深いオタクじゃないから」

「……そうなんだ。じゃあ絵里萌って何が好きなの?」

「うーんと、何っていうか……」


 絵里萌は僕の一歩前に立ち、振り返ってニッコリ微笑む。


「お兄ちゃん、次はそろそろメイドカフェに行きたいにょ」

「その語尾、古くない?」




 初心者なのでとりあえず老舗のメイドカフェに予約を取り、60分待ちということでその辺をぶらついてアニメグッズ屋を回ることにした。


「秋葉原って物欲を刺激される街だよね、お兄ちゃん」

「そうだけど欲しいもの買ってたら一瞬で破産だな」

「だよねー」

「絵里萌って何か欲しいものあるの?」

「あるはあるけど」

「けど?」

「そろそろ予約の時間だよ。お兄ちゃん」




「もえもえきゅん!」「きゅん!」


 メイドさんと妹が一緒になって魔法をかけたオムライスを妹と向かい合って食べる。


 メイドカフェって来たの初めてだけどテンション上がるな。秋葉原の街がそうさせてるんだろう。

 地元だったらなんか恥ずかしい気がする。


「お兄ちゃんはメイドさん好きなの?」

「えー、普通かな」

「こんどお姉ちゃんとメイドさんの格好してあげようか」


 メイド服の妹二人にに挟まれた自分の姿をちょっと想像してみた。


 ……ご奉仕します……ご主人様……


 どう考えてもやばそうな匂いがする。戻れなくなりそう。


「いやーそれはいいよ。それよりさっきの話で、絵里萌の欲しいものってどういうの?」

「私の欲しいもの?そうねー、私ってほら、雑食だから決められない人なんだよね」

「ふーん、そうなんだ」

「だからお姉ちゃんに決めてもらってるの」


 絵里萌はにっこり微笑んで言う。どうも姉妹の中でも役目があるっぽい。


「どうやって?」

「ほら、お姉ちゃんに似合うものは私にも合ってるでしょ」

「あー、こないだの水族館行った時の服とか?」

「そんな感じ。それでね、お姉ちゃんに一緒に私の分も買ってもらうの」

「合理的な気もするけど、じゃあ、それが一個しかなかったらどうするの?」


 妹は僕の顔を見て、首を傾げて微笑みを浮かべた。ツインテールの黒い髪が肩をさらっと流れる。


「その時によるかな。譲ってくれることもあるけど、お姉ちゃんがどうしてもってこともあるし」

「そういう時はどうするの?」

「お兄ちゃん、口にケチャップついてるよ」

「え、そう?」


 ナプキンで口を拭いながら考えてみる。つまり二人に何かプレゼントするなら恵梨香が気に入ったものでいいんだな。


「じゃあさ、絵里萌は恵梨香の好みって詳しい?」

「うん。お姉ちゃんがどういうものが好きとか完璧に理解してるよ」

「へーすごいね」

「だから、いつもお姉ちゃんが好きそうな物を見つけると教えてあげるんだ。それでお姉ちゃんが気に入ったら……」

「二個買ってもらうんだ」

「合理的でしょ」


 そういえば前にカラオケの時、恵梨香も似たようなことを言ってたっけ。


「姉妹で仲良くていいな」

「うん」


 そこで僕はまだ明日のデートの行き先を決めてないことを思い出した。


「もしさあ、恵梨香と二人でどこか行くとしたらどういうところがいいかな?」

「お姉ちゃんとお兄ちゃんで?デート?」

「いや、もし、の話だよ。もし」


 絵里萌は目だけをちょっと上に向けて考えている。


「そうだねー、お姉ちゃん人が多いところは苦手だし、ネットカフェとかいいんじゃない?」

「なるほど。アニメの原作に忠実だな」

「でしょ」


 明日はネットカフェにしておくか。絵里萌の提案なら外れてはないだろうしな。


「お姉ちゃん、喜ぶよ」

「もしって言ってるじゃん」

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