第29話 恵梨香と二人でネットカフェのペアフラットシート
絵里萌と行った秋葉原の帰り、こっそりラインで恵梨香にネットカフェに行くのはどうかと提案してみたところ、すぐに「行ってみたい」という返事が返ってきた。
さすが絵里萌だ、長年恵梨香の妹をやってるだけのことはある。
正直ネカフェというのは一人でマンガを読みに行くところという認識だったので、自分一人だったらネカフェでデートとか考えつかなかっただろう。
ただよく考えてみたら、ラノベだとネカフェデートってわりと定番なんだよな。
ていうかこれやっぱりデートなのかな。どうなんだろう。
そして翌日。
一応、絵里萌には内緒ということになっているので、日曜日は二人バラバラに家を出た。といっても恵梨香は朝からそわそわしていてバレてる気もしないでもない。
待ち合わせ場所の駅前で黒髪ストレートロングヘアーの美少女に迎えてもらい、二人で目的地のネカフェへと歩いて向かう。
今日の恵梨香のゆったりした薄手のワンピースは、一見体形を隠しているように見えるけど、動くたびに貼りついて細くて華奢な身体の線が浮き出ている。
露出はしてないのに妙に刺激的で、前から見ると胸やお腹や太腿が貼りつき、後ろから見ると腰の線が浮き出ている。恵梨香が身体を動かすたびに緊張してしまう。
僕は妹の脇を前後に動きつつ、目的地に到着した。
「へー、ネットカフェってこうなってるんだ、初めて来た。おにいちゃんはよく来てるの?」
「んーまあね。昔は家にいても暇だったし、マンガ読みによく来てた」
「ねえねえ、ところでどの席にする?私、あの個室ペアフラットシートってのがいいな」
「いいよ。じゃあそれにするか」
なんだかアニメやラノベでよく見た展開な気もするけど、妹が望んでるならしょうがない。
まずは読みたいマンガを各自十冊ずつ持ってきて、狭い個室のフラットシートに二人で並んで座る、というか寝転がった。
しかしこうやって妹と並んで横になっていると、なんかちょっと変な気分になってくる。まったく日常感はないのに、ある意味見慣れた光景なんだよな。
特にこの長い黒髪とか。妙に気になってしまう。
狭い個室に転がって、頑張ってマンガに意識を集中しようとしていると、横で寝ている妹が身じろぎをした。
妹の身体が僕の身体に軽く触れる。
一瞬どうしようかと思ったけど、妹はまったく気にしていないようだ。というかむしろ寄り掛かってきた。
柔らかい肌の感触が伝わってきて、夜中の事を思い出してしまう。
「恵梨香?」
「なに?おにいちゃん」
妹が身体をこっちに向けてさらに身体を寄せてきた。二人の接触面積が増大し、体温が伝わってくる。慌ててそこから意識を離す。
「あ、いや、なんでもない」
「そう?、ところでおにいちゃんは何読んでるの?」
「えーっと、鬼退治の国民的漫画」
「あーそれ知ってる。面白い?」
「うん。恵梨香は何読んでるの?」
ちょっと興味がわいたので妹に尋ねてみた。コミュニケーションは大事だよな。
「私は巨人のやつだけど」
「あー、はいはい」
「絵里萌にすすめられたんだ。私が好きそうだって」
「どう?」
「うん、面白いよ。絵里萌は私の好みをよく知ってるから」
「そう言ってたよね」
恵梨香は僕の肩にマンガ本を寄り掛からせるように置いてページをめくっている。
そして恵梨香は一冊読み終わったようで、マンガ本を置くと僕の身体の上に手を掛けた。そしてさらに身を寄せてくる。
「ねえ、おにいちゃん」
「なに、恵梨香」
「こないだの話の続きだけどね」
「なんだっけ」
妹は真面目な顔をして僕の顔を覗き込んできた。二人とも寝転んでいるので距離感が近い。
「おにいちゃんは家族への好きと恋愛の好きは両立しないって考えてるの?」
「いきなりなんだよ」
「だってそういう話してたじゃない」
「あー、なんかしたな」
確かあの時は「付き合ってる二人が後から義理の兄妹になったらどうする?」という例え話を恵梨香がしてきたんだよな。
「あれは、恵梨香の例え話がそういう話だったからで」
「でも親同士の関係が子供の関係に影響を与えるのっておかしくない?」
「でも未成年だしさー」
「じゃあ18歳になったらいいんだね、おにいちゃん」
恵梨香の質問が痛いところを突いてきた。
「えーうーんとー」
「ていうか両立しないなら恋愛を優先すればよくない?」
「いやーでもさー」
「そもそも夫婦だって家族だよね。両立してるじゃない」
「それはそうだけどー」
この話、理詰めで詰められると勝てないんだよな。単なる感情論だから。
それにしても義理の兄妹が二人っきりで身体を寄せ合った状態でこんな話をするのもどうかしてる。
とりあえず話を強引に終わらせることにした。
「でもさ恵梨香、不自然な関係ってのは長続きしないと思うんだよ」
「それはそうだけど」
「理屈より気持ちが大事なこともあるよ」
「……」
理屈から話を逸らしてみたところ妹が黙った。これはなんとかなったかな。
「……私、昨日、美紀さんと会ってきたの」
「へっ、そうなんだ」
やばい匂いしかしてこない。
「昔なにがあったのか聞いてきた」
「えー、あー、そう、なんだ」
「いま気持ちが大切って言ったよね?」
「うーんと、まあ、そうかな」
全くなんともなってなかった模様。
「美紀さん泣いてたよ」
「えっ」
「おにいちゃんが泣かせたんだよね」
「えぇー」
正直なところ感情論で女の子に勝てるわけがない。それでもなんとか反論を試みる。
「でも美紀ちゃん僕の前で泣いたことないよ」
「おにいちゃんはズルいからね」
「えー、どこが?」
「おにいちゃんは、別れるぐらいなら付き合わないほうがいい考えてるの?」
「え?、いや、だって、しんどくない?」
「ほら、やっぱりズルい」
妹がさらに身を寄せてきた。僕の肩に柔らかい胸が当たる。
「私、美紀さんにおにいちゃんと一緒に住んでてズルいって言われた」
「恵梨香はズルくないだろ」
「そうだよね、ズルいのはおにいちゃんだよね」
「いやどうなんだそれ」
恵梨香は鼻でフフッと笑った。
「でもね、おにいちゃんと私は家族だからね。ズルくてもいいんだよ」
「そう、なの?」
「うん、おにいちゃんはもっとズルくていいんだよ。私もズルくなるから」
僕の身体の上に恵梨香の華奢な身体が半分重なる。柔らかな感触。妹の髪の匂いがする。僕の耳元に顔を寄せて囁いてくる。
「絵里萌がね、私とおにいちゃんお似合いだって」
「それって個人の感想だよね」
「絵里萌がいうんなら間違いないよ」
「そうかな」
「おにいちゃん、二人でズルくなろうよ。みんなに内緒で。家族のままで」
恵梨香が頭を上げて顔を寄せてきた。ネットカフェの薄暗い室内で、見慣れてきた妹の顔が目の前に迫る。夜中の記憶が重なってくる。その唇が……
「恵梨香、ちょっと待って!」
「なに?おにいちゃん」
「いや、いきなりなんだよ。ちょっと待ってくれよ」
「わかった。ちょっと待つ」
「え……」
恵梨香が顔を僕の頭の横に下ろした。妹の胸の柔らかい弾力が左胸の上に伝わってくる。耳元から囁き声が聞こえる。
「待ってるよ、おにいちゃん。今度来た時におにいちゃんの気持ちを教えてね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます