第七章 妹との秘密
第32話 幼馴染が眼鏡をコンタクトにしてきた
「おはよう、たっくん!」
「おはよう、美紀ちゃ、んえ?!」
翌朝の学校で後ろから美紀ちゃんに声をかけられた。振り返ってびっくりする。
「美紀ちゃん!眼鏡は?」
「たっくんがコンタクトもいいって言うから」
「早すぎじゃない?」
コンタクトってそんなに早く作れるのだろうか。
「作ってあったんだけど、たっくんが何ていうかなって思って黙ってたの」
「いや、いいんじゃない、かわいいよ」
「えへ。眼鏡とどっちがいいかな」
「どっちもかわいい」
「えへへ」
ていうか、美紀ちゃん眼鏡外すと結構美人なんだよな。よく見るとスタイルもいいし、実はかなりの美少女だったのかもしれない。
幼馴染だからあんまり気にしてなかったけど、いやなんというか、ちょっとびっくりしてしまった。
「そうだな、かわいいっていうより、きれいかも」
「ほぇ?」
「おはよう!」
そこに幸雄が登校してきた。
「卓也おはよう。あと国後さんも、、、えっ」
美紀ちゃんを見て一瞬固まっている。
「どしたの幸雄」
「ちょっとベタじゃない?」
「何が?」
「いや、国後さん」
そして周りをよく見ると、クラスの男子たちが美紀ちゃんを見てザワザワしている。
「美紀ちゃん、ちょっと!」
美紀ちゃんの手を引っ張っていつもの廊下の端まで来た。
「美紀ちゃんさ、思うんだけど、学校では眼鏡の方がいいかも」
「やっぱり似合わないかな、コンタクト」
「いや、そんなことないよ、ないんだけど」
「けど?」
「ほら、何というか人にはパーソナルイメージってのがあるじゃん。そこに影響を与えるんじゃないかな?」
美紀ちゃんはボブカットの頭を傾けて不思議そうな顔をして僕を見ている。うん、やっぱり美人かも。ていうか美人だ。
「でも私もイメチェンしようと思ったんだからそれは別にいいんだけど」
「でもこれは美紀ちゃんのアイデンティティに関わる問題だと思うんだよ」
「私のアイデンティティって眼鏡なのかな」
「クラスのみんなの精神衛生上、あんまりイメージを変えない方がいいんじゃないかな?」
「たっくんはどうなの?」
眼鏡をしていない美紀ちゃんが目を見開いて僕をじっと見ている。美紀ちゃん意外と目が大きいんだな。それにまつげも長い。
「僕?、僕は、えっと、さっき言ったみたいにどっちもありだと思うけど、その、何というか、、」
美紀ちゃんが僕の胸に手を当ててきた。
「たっくん、またドキドキしてるね」
「あー、あの、できたら学校では眼鏡で居てくれると嬉しいなと」
「何で?」
「ほら、みんな見てたし、美紀ちゃんのこと」
「そっか」
見慣れない姿の幼馴染は、にっこりと微笑んだ。
「それなら私、学校ではコンタクトにする」
「えー」
◇
授業中、つい美紀ちゃんの方をちらちら見てしまう。
よく見ると眼鏡を掛けてないだけじゃない。
いつものモサっとしたおかっぱ頭もすっきりしたボブカットに整えられているし、まつげも長くなってる気がする。おまけに唇には軽く色付きリップも引いてあるんじゃないかな。
眺めていたら美紀ちゃんにウィンクされてしまい、慌てて目を逸らす。
「国後さんって付き合ってる相手いないの?」
「さあどうかな。個人情報だから」
昼休み、三人目の男子の質問を適当にあしらったところで、いい加減教室から出ることにした。僕は美紀ちゃん担当じゃないんだよ。
「あー、卓也」
「なんだ、幸雄」
「お前と国後さんって付き合ってないんだよな。だったら」
「さあどうかな」
◇
「たっくん、今日は図書委員だよ」
「そうだね……」
「どうしたのたっくん、疲れてるけど」
「あー、いや、なんでもない」
いや、この展開、テンプレ過ぎるだろ。
「美紀ちゃんはさー、今までずっと隠してたの?」
「隠してたって何を?」
「何って、えっと……」
えーと、なんだろう。
「美人なこと?」
「ほぇ?」
図書室へと向かう廊下を歩きながら変な雰囲気になってきた。
「ごめん、変なこと言った」
「たっくん、あの」
「何?」
「もう一回、聞きたいな……」
完全に変なことを言ってしまったようだ。
「えー、あー、そのー」
「ほら、たっくん、もう一回」
「あーあーあー」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
ふと見ると廊下で目の前にツインテールの妹が立っていた。
「あー、絵里萌、助かった」
「それに国後さんもどうしたんですか。急に色気づいちゃって、眼鏡落としたんですか?」
不思議そうな顔をした絵里萌がさらっと棘のある言い方をする。
「うふ、ちょっとイメチェンかな」
美紀ちゃんがにっこりと口元だけで微笑んだ。すると妹も口元に微笑みを浮かべる。
「なるほど、これは私たちも負けてられないみたいですね」
「どうしたの二人とも。争いは何も生みださないよ!」
「そんなことないよお兄ちゃん。競争なきところに勝者なしだよ」
そんなことわざあったっけ?
「これはお姉ちゃんにも気合を入れてもらわないと」
「ちょっと、えりも、あのさー」
絵里萌はツインテールを翻して去って行った。
「たっくん、で、さっきの」
「えっと、ほら、もうすぐ図書室だよ!仕事しようよ美紀ちゃん」
◇
結局その日は帰るまで挙動不審が続いたけれど、美紀ちゃんを説得してなんとか学校では眼鏡を掛けることにしてもらう。
その代わり、かどうかは良く分からないけど、週に一回は美紀ちゃんの家に行って一緒に遊ぶことになった。
「バイバイたっくん、また明日ね」
「バイバイ、美紀ちゃん」
駅で眼鏡を掛けていない美紀ちゃんに手を振って別れたところで、どっと疲労感が噴き出してくる。
なぜか今日は美紀ちゃん相手にやたらに緊張してしまった。どういうことなんだこれは。
「あー疲れた」
「おにーちゃん」
目を上げるとすぐ近くに妹が立っていた。ツインテールの方の美少女。
「絵里萌もいま帰り?」
「うん、お兄ちゃん、一緒に帰ろうよ」
妹と並んで二人でホームで電車を待つ。しかし身近にいたから気が付かなかったけど、美紀ちゃんも本当はあんなにモテるんだな。
そこで僕はふと思った。
「ところで絵里萌、お前たちも学校でモテるだろ」
「まあね、聞きたい?」
あ、しまった。聞かなきゃよかったと思ったがもう遅い。
絵里萌は嬉々として自分たちのモテ話を始めた。
~~~
本作のスピンオフ短編のこちらもどうぞ。一話完結です。
― 歯舞君は眼鏡っ子が好き ―
https://kakuyomu.jp/works/16817330668908990908/episodes/16817330668909055961
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます