第二章 どちらの妹かは観測するまで確定しない
第5話 放課後の寄り道といえば
「たっくん、図書委員行くよ」
「うんいま行く」
今日も美紀ちゃんと一緒に週二回の図書委員で、放課後の図書室のカウンター仕事だ。
「たっくん、今日は眠そうじゃないね」
「まあね。昨日は久々によく眠れたし」
「今日は私が眠いな……」
図書室のカウンターに二人で座っているんだけど、相変わらず暇だ。そして今日は美紀ちゃんからもたれ掛かってきた。
「むにゃむにゃ……」
美紀ちゃんのおかっぱの頭が僕の肩に乗っかってきた。しかし寝るときにむにゃむにゃって言う人って本当にいるんだな。
「ねーねー、美紀ちゃん。ちょっと人に見られたら恥ずかしくない?」
「んー?、私は別に恥ずかしくないけど……」
どうも恥ずかしいのは僕だけなのかな。少ないとはいえ図書室には人がいるんだけど。
「なんかバカップルっぽくない?」
「えー、私たち付き合ってるんだっけ?」
「いや、そんなんじゃないけど」
「じゃあよくない?」
なにがいいのかよくわからない。美紀ちゃんの論理はいつも強引だよな。いや、僕のたとえが良くなかったのかも。
「ほらなんていうか、付き合ってもないのにこんなくっついてたら勘違いされそうじゃない?」
「だったら、やっぱりもう一回付き合っ……」
「おにいちゃん!」
目の前に妹が立っていた。手に文庫本を持っている。髪の毛を縛ってないのでこないだと同じく恵梨香の方だな。
「あ、恵梨香、貸出し?」
「うん、おにいちゃんお願い」
よいしょっと美紀ちゃんを押しのけて、恵梨香から文庫本と図書カードを受け取ってバーコードをスキャナに掛け、ついでにちらっとタイトルを見る。
『妹だけど義妹だから結婚できるよおにいちゃん!』
『学園アイドルの義妹が彼女にしてと迫ってくる』
『クールな義妹が夜中にベッドに忍び込んでくる』
こんなラノベもあるんだな。この学校、ラノベに力入れ過ぎだろう。
「はい三冊。貸し出しは三冊までで二週間だから」
「ありがとう、おにいちゃん。あと、美紀さんも」
図書室から出ていく恵梨香を目で見送りながら、僕はなんとなく違和感を感じていた。なんだろう。
さっきの自分のセリフを思い出してみる……
あれ、ついこないだも三冊貸してたな。貸し出しは三冊まででそれ以上借りようとするとエラーになるはずなんだけど。もう読み終わって返しちゃったのかな。
それに恵梨香の雰囲気もこないだと随分違う。
◇
「たっくん、帰りに寄り道していこうよ」
一緒に学校を出たところで、ちょっと上目遣いに幼馴染が言ってきた。鞄を両手に持っておかっぱの頭を傾け僕を見ている。僕はこの顔に弱い。
「うん、まあいいけど」
「やった、なんか久しぶり!」
隣に住んでいた時は美紀ちゃんとは一緒に時々寄り道していたけど、引っ越してからは初めてかもしれない。
「どこ行こう?」
「ゲーセンがいいな!ひさびさって感じがする」
ということで久しぶりに幼馴染の美紀ちゃんとゲーセンに行くことになった。
「なんかデートって感じじゃない?」
「え、そう?」
美紀ちゃんとはよく遊びに行ったりしてたので、僕にはあんまりそういう感覚がないんだよな。
「ほら、二人でこういうのひさびさだし、ひさびさーって」
「あ、そうだね、ひさびさ」
「ひさびさー」
僕の幼馴染は隣で楽しそうだ。ひさびさひさびさ言いながら歩いている。
それにしても最近のゲーセンはビデオゲームが隅に追いやられて、ぬいぐるみキャッチャーとプリクラだけが目立つようになった感じがするんだよな。まあデートにはいいんだろうけど。僕らのほかにも制服姿の高校生がちらほらいるし。男女とも。
いや、これはデートじゃないんだけどね。あくまで寄り道しただけで。
どうもデートとか言われてつい余計なことを考えてしまう。
「たっくん、超ひさびさにプリクラ撮ろうよ」
「いいけど」
「こっちこっち」
美紀ちゃんが自然に手を繋いできた。手を引かれてプリクラコーナーへと移動する。
チッ!
周囲の電子音の中から舌打ちのような音が聞こえたんだけど、気のせいだよな。
「いまのプリクラってこうなってるんだね」
「そうだね、たっくんとプリクラしたのって小学校の時以来かな」
「そうかも」
「あのときのシールまだ持ってるよ」
僕は持ってるかな。机の引き出しを探すとまだ持ってるかもしれない。
「それじゃたっくん、左手を前に持ち上げて、親指を下に、他の指はまとめて曲げて、そうそう……」
右側に立った美紀ちゃんも右手で同じ形を作ると僕の手とくっつけてハートの形を作った。口元が緩んでいる。なんだか嬉しそうだ。来てよかったかも。
「3、2、1、(カシャっ)」
その後も機械から流れる音声に従っていろいろな格好をさせられる。最近のプリクラってこんなに忙しかったんだ。
「次はたっくん、私に抱きついて」
「え?いやちょっと」
「ほら、早く、時間きちゃうよ!」
「え、あ、うん」
カウントダウンに急かされて、幼馴染と向き合って腰に手を回す。僕の背中にも手が回されて、美紀ちゃんが身体を摺り寄せてきた。
「あ、えっと、こんな感じでいい?」
「うん、口を閉じて」
幼馴染が頭を近づけてくる。
昔と変わらない髪の匂いになぜだか動揺してしまう。ちょっと頭を傾けて上目遣いで僕を見てくる。だからその顔はずるいって。
リップで濡れた唇が僕の唇に近づいてくる。眼鏡の奥で美紀ちゃんが軽く目を閉じた。そのまま唇が……
「3、2、」
「お兄ちゃん、なにしてるの?」
「え?」
「(カシャッ)」
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