第6話 私はただの幼馴染じゃなくてね

 プリクラ機を出たところには、僕の妹たちが制服姿で立っていた。こうやって二人で並んでいるとアイドルユニットみたいなオーラがあるんだよな。


 悪いことしたわけじゃないのに、ちょっと気後れしながら妹たちに話しかける。


「何でここにいるってわかったの?」

「偶然通りかかったらちょっと見えたから。それよりお兄ちゃん、私たちともプリクラ撮ろうよ」


 絵里萌が軽く微笑みながらそう返してきた。恵梨香もその横でじっと僕の顔を見ている。妹にこう言われたら断れない。


「えーあー、まあ、いいけど、なんでまた?」

「兄妹なんだからプリクラぐらい撮ってもいいでしょ。それじゃ国後さん、お兄ちゃんをちょっとお借りしますね」

「お借りしますね、美紀さん」

「えー、私が先だったのに……」


 納得いかなそうな幼馴染の声に、今度はツインテールの妹の口元が緩んでいた。




 今度は左右から妹たちに腕を掴まれて、機械から流れる音声の中、なされるがままにカメラの前に立つ。


「お兄ちゃん、ちょっとしゃがんで」

「こう?」


 僕が少し頭を下げたところに、左右から妹たちが顔をくっつけてくる。やたらに距離が近い。


「3、2、1、(カシャ)」

「次は、お姉ちゃんと抱き合って」

「え?」

「ほら急いで」


 絵里萌に言われてロングヘアーの恵梨香と至近距離で向き合う。妹は二人とも僕より15cmほど背が低い。その小柄なほっそりした身体に軽く手を回す。


「お姉ちゃんも早く」


 妹に急かされ、恵梨香がぎゅっと僕にしがみついてきた。妹の身体が触れてくる。


『あ、この感じ、確か夜中に、、、』

「おにいちゃん……」


 恵梨香が顔を上げて見つめてきた。ちょっと顔を赤らめている。間近に見える微かに開いた唇を見て思いっきり緊張してしまう。

 校内一二の美少女とこんなことしていいのか僕。というか妹なんだけど。


「3、2、1、(カシャ)」

「次は私」


 恵梨香の身体から腕を離すと、今度は絵里萌が抱きついてきた。双子の妹のほうの背中にも手を回す。顔だけでなく身体の感触もやっぱり姉とそっくりだ。

 しかも絵里萌は躊躇なく身体を押し付けてくる。僕はどうしたらいいのか戸惑いを隠せない。


 ツインテールの妹が至近距離から上目遣いに僕の顔を見上げてくる。目が合う。やばい、かわいすぎる。


「お兄ちゃん、顔を近づけて、そう、もっと、、、」

「え、あ、こう?」


 僕がぎこちなく顔を寄せると、絵里萌も背伸びをして顔を近づけてきた。姉と同じ顔が迫る。女の子のいい匂いがする。


 そして唇が……


「お兄ちゃん……」

「3、2、」

「そこ、兄妹でなに雰囲気出してるのよ」

「えっ」

「(カシャッ)」



 ◇



「私の時より楽しそうじゃない?、たっくん」

「え?いや、そんな、っていうか」


 プリクラコーナーの機械に囲まれて、美紀ちゃんは眼鏡の奥から若干冷ややかに僕を見ていた。すっかり問い詰め口調になっている。僕はなにかやらかしたっぽい。


 そして幼馴染は妹たちにも向き直る。


「あなたたちも、妹なのにたっくんにちょっとベタベタしすぎじゃない?」

「でも兄妹なんだから、仲良くしててもよくないですか?」


 いつもは静かな姉の恵梨香がちょっと感情的に言い返した。


「国後さんだってただの・・・幼馴染の割に随分とベタベタしてますよね」


 妹の絵里萌も若干攻撃的な声色で反論に加わる。


「いやさ、私はただの幼馴染じゃなくてね、なんていうか、」

「何だっていうんですか、美紀さん」

「えっとほら、同じクラスだし、同じ図書委員として、ほらいろいろとね、」


 美紀ちゃんの目が僕に同意を求めてくるんだけど、僕にどうしろと。


「結局、国後さんはお兄ちゃんの隣に住んでただけですよね。しかも今は違うし」

「住んでただけじゃなくて、私とたっくんは子供のころから一緒にお風呂に入っ……」

「ちょっと美紀ちゃんストップ!」


 やばい流れになってきたので慌てて止めた。なんだこの空気。


「ほらみんな冷静にさあ」

「もういい、私帰るねたっくん」


 僕の幼馴染はすっかり不機嫌になってしまい、後ろを向いてゲーセンから出て行ってしまった。行きがかり上、誘った立場の僕は慌ててその後を追いかける。


「ねえ、ちょっと待ってよ美紀ちゃん」




「美紀ちゃん、そんな怒らないでよ」

「怒ってないけど、別に」


 僕の幼馴染は無表情に答える。これはやばそうな雰囲気。


「たっくんは昔の幼馴染とか置いといて、新しい妹と仲良くやってればいいんじゃないの?」

「えー???」

「私は別にいいから。ほら、どうぜただの幼馴染だから」


 いやもうどう見ても怒ってるんだけど、いやまあ、怒ってる怒ってないは個人の主観だしな。ここに突っ込んでもしょうがない。

 だけど美紀ちゃん、こういう感じの不機嫌は長くなるんだよな、過去の経験上、怒ってないという時ほど怒ってるのだ。どこに怒ってるのかは知らないけど。


 どうにか今のうちになんとか……


「そうだ美紀ちゃん、こんど一緒にカラオケ行かない?」

「それって二人だけ?妹抜き?」

「え、あ、うん」

「つまりカラオケデート?」


 美紀ちゃんは僕の意図を確認するように尋ねてくる。


 昔みたいに遊びに行くだけのつもりだったけど、どうなんだろう。幼馴染で今更デートっていうのは僕的には違和感があるんだよな。


 まあでも、約束して会うんなら定義上デートかも。


「そうかな」


 美紀ちゃんは一転して嬉しそうな顔になった。満足そうな口元をしている。不機嫌は消えたみたいだし、後回し感はあるけれど今はこれでいいか。


「デート久しぶり!楽しみにしてるね、たっくん」

「あ、うん……」

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