第7話 どうってただの幼馴染だよ

「お兄ちゃん、あの人と何の約束したの?」


 笑顔で手を振る美紀ちゃんを見送ったところで、僕は後ろから声を掛けられた。妹の声だ。そりゃまあお兄ちゃん言ってるしな。


「え、なんで?」

「だってすごく嬉しそうだったよ」


 店の前まで出てきたツインテールの美形な妹が詰めるように聞いてくる。


「なんだろう、嬉しいことでもあったんじゃない?」

「それならそういうことにしておきましょうか」


 目を細めて微笑みながら妹が言う。僕の妹ってこんな感じだったっけな。絵里萌はもうちょっと幼いイメージだったんだけど。


「ねぇ、おにいちゃん、ぬいぐるみ取ってくれる?」


 店内に戻ると、いつもは落ち着いた感じの恵梨香がちょっと甘えた声を上げてきた。


「はいはい、恵梨香、どれ?」

「そのおっきいやつ」


 もっと大人っぽいと思っていた妹が子供みたいにねだってくる。


「おっけー、任せて」

「いいなー。お兄ちゃん、私のも取って」

「うん、絵里萌もどれがいいか選んどいて」

「じゃあ、お姉ちゃんとおんなじの」

「わかった」


 シンプルな電子音が流れるゲーセンのプライズコーナーで、黒髪の妹たちが真剣にぬいぐるみの入った機械を覗き込んでいる。

 こうやって妹たちと遊んでいるとプリクラの時の緊張感もほぐれてきた。やっぱり兄妹という実感が湧いてくる。美紀ちゃんとの寄り道とは違ってこれはこれで楽しい。何度も両替してしまう。


『そうか、妹がいるってこういう感じだったのか……』


 そんなことを思いつつ、しばらくゲーセンで一緒に時間を過ごす。


 そしてどうやら判ってきたのだけど、この二人の妹、結構性格に差があるようだ。ツインテールの妹、絵里萌の方は一見幼いけれど積極的、というか攻撃的で、ロングヘアーの姉、恵梨香の方はどちらかというと控えめで大人しい、けど芯は強そうな気がする。

 つまりどっちも怒ったら怖そう。でも甘えてくるとどっちもかわいい。


 考えてみると、僕はいままで妹たちとのコミュニケーションが少なすぎたのかもしれない。なまじっか一緒に住んでいるだけ変に距離を置いていたみたいだ。


 やっぱりたまにはこんな感じで兄妹で一緒に過ごすのも必要だよな。


「そうだ、こんど三人で一緒にカラオケ行かない?」

「やったー。お兄ちゃんとカラオケデートだ!」

「うん、楽しみ」


 試しに誘ってみたところ絵里萌も恵梨香も喜んでいる。どうやらよかったみたいだ。兄妹で三人はデートじゃないと思うけど、家族でそういうのも大事だろう。


 ちょっと時間が遅くなったけど、兄妹三人で一緒に家に帰る。二人の学校での話を聞いていたら、帰りの道のりはあっという間に過ぎてしまった。



 ◇



「おいしい?おにいちゃん」

「え、あ、うん、おいしいよ」


 夕食の時間、唐揚げを一口食べたところで恵梨香が尋ねてきた。小首をかしげたところで長い黒髪がさらっと肩を流れる。そして発せられる追加の質問。


「昨日のご飯と比べて、どっちがおいしい?」

「えー」


 ついに我が家の夕食にも比較試験が導入されてしまった。


「どっちもおいしかったし、人の好みじゃないかな」

「うん。だからおにいちゃんの好みが知りたいんだけど」

「あーそうだよね」


 どうもつい気を使っちゃうんだよな。玉子焼きの件から。


「それに昨日のも今日のも作ったのは私だから、気にしないで。おにいちゃん」

「そうか、それなら」


 昨日の夕食を思いだすと、和風で皮のパリっとした鳥の素揚げだったな。そして今日のはニンニクが効いた唐揚げだ。


「男子高校生的にはこういう味の濃い唐揚げは大好物だけど、ご飯のおかずとしては昨日のパリっとした素揚げも捨てがたいところかな」

「おにいちゃんってちょっと優柔不断じゃないかな?」

「慎重なんだよ」




 夕食を食べ終わり、妹たちとほうじ茶を飲みながら、なんとなく話題は今日の話になった。


「ねえお兄ちゃん、なんであの人、あんなにお兄ちゃんに馴れ馴れしいの?」

「あの人って、美紀ちゃんのこと?」

「そう、国後さん」


 ツインテールの頭を微かに傾けて絵里萌がストレートに質問してくる。


 それにしてもこの二人、自分の妹だということが信じられないぐらい美少女なんだよな。そして見れば見るほどそっくり。いまだに髪型以外、全然違いが見つからない。


 それはともかく、美紀ちゃんの話だったな。


「なんでって、美紀ちゃんはずーっと隣に住んでたし」

「幼馴染って中学校ぐらいで疎遠になるってラノベに出てたよ」

「うちは僕が小学校に入る前に母さんが死んじゃったから、その時から美紀ちゃんは『私はたっくんのお母さんの代わりだから』って言ってて」

「だから上から目線なんだ」


 絵里萌の直接的な物言いについ苦笑してしまう。


「まあ、なんというか、同い年だけどお姉ちゃん的な感じではあるかな。ちょっと過保護だけど」

「で、おにいちゃんはどうなんですか?」


 横で静かにお茶を飲んでいた恵梨香が突然話に加わってきた。


「どうって、何が?」

「美紀さんのこと、どう思ってるんですか?」

「え?」


 テーブルを挟んだ向こうから双子の美少女がこっちをじっと見つめている。そしてよく見ると表情に微妙な違いがある。恵梨香の方が真剣な顔をしていて、絵里萌の方はどっちかというと面白がっているような表情だ。


 ところで僕は美紀ちゃんをどう思ってるんだろう。考える前に口が動いてしまう。


「どうって、ただの幼馴染、だよ」


 恵梨香の口元がちょっと緩む。


「お茶もう一杯飲む?おにいちゃん」

「うん、ありがとう」


 ちょうど口の中が渇いていたんだよな。



~~~~~~

ゲームセンターの子供っぽい恵梨香の挿絵はこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330668060554240

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