第14話 昨日はデートだったんですか?
そして今度は姉の恵梨香とカラオケルームで二人きりになる。外から小さい音で周りの歌が聞こえてくる中、なんとなく二人とも黙ってしまい微妙に話しかけづらい。
というか、絵里萌に変なこと言われたからなんか気まずいんだけど……どうしようかと思っているところに恵梨香が話しかけてきた。
「ねえ、おにいちゃん」
「はい!なんでしょう」
突然呼ばれて、思わずびくっとしてしまった。
恵梨香は何かを問いたげな表情で僕を見ていて、口元がちょっと歪んでいる。そしてちょっと間をおいてからもう一度口を開いた。
「昨日はお楽しみだったみたいですね」
「えええ!」
黒髪ストレートヘアの妹が、僕の前で少しだけ頭を傾けて口元に微笑みを浮かべた。
でも目は笑ってないようにも見えるんだけど。
「昨日、美紀さんとカラオケ行ってたんですよね」
「えーと、まあ、約束してたから、ほら、さあ」
「そういえば、ゲームセンターも一緒だったし、ずいぶんと仲いいんですね」
「でも、あの時も久しぶりだったし、それに美紀ちゃんは幼馴染だから」
つい言い訳を始める僕。すると妹の声が険しくなってくる。
「幼馴染だから二人だけで三時間カラオケに行って、そのあとカフェでパンケーキを仲良く食べさせっこしてたんですか」
「あのー、そのぐらいよくない?っていうか、食べさせっこはしてないんだけど」
なぜかは知らないけど、特に悪いことをしたわけでもないのに妹に詰められている。
「絵里萌が偶然見かけたって教えてくれたんだけど、そんなの隠さないでもよかったのに」
「いやでも、わざわざ家族に言うことでもなくない?」
「言ってくれてもいいじゃないですか」
「そうかな?」
「そうです!」
ちょっとだけ口を尖らせた恵梨香の顔がかわいい。なんか癖になりそう。
「それでなんですけど、昨日はデートだったんですか?」
「そこはまず定義をはっきりさせないとなんとも」
定義の上では男女で待ち合わせてどこかに行けばデートな気もするし、最近では同性でもデートと言うらしい。多様性の時代だよな。
「じゃあ聞きますけど、おにいちゃんは、美紀さんと付き合ってるんですか?」
「いや、それはないです」
「じゃあ、いいです」
「いいんだ」
どうも尋問は終了したみたいだ。静かになった部屋に周囲の部屋のカラオケ音が小さく聞こえてくる。部屋の液晶にはランキング画面が繰り返し表示されている。
恵梨香はじっと何かを考えているみたいだ。
雰囲気に耐えられなくなってきたので、この辺で話題を変えたい。どうしたらいいんだろう、やっぱり趣味の話とかかな。
ちょっと考えて恵梨香と通じそうな話題を思い出してみて、、、あ、そうだ、あれはどうかな。
「そういえばさ、恵梨香ってラノベ読むよね?」
「そういえばって?」
「いやごめん、話は変わるけど、みたいな接続詞だと思って」
「えーっと、うん。ラノベも読んでるかな。絵里萌にも面白そうなの教えてもらってるし」
ちょっと口調が和らいできた。よかった。
「だよねー、最近面白かったのってある?」
「えーっとこないだ読んだのは、義理の妹がおにいちゃんと……」
そこまで喋ったところで恵梨香は口をつぐんだ。心なしか顔が赤くなっている。
「おにいちゃんと、その後は?」
「いや、なんでもないの。まだ読み終わってない」
「そういえば幼馴染が出てくるラノベも借りてたよね?」
「ううん、借りてないよ」
「あれ?」
最初にラノベ借りてたのって恵梨香じゃなかったっけ。なんか記憶が混ざってるな。
「私は面白そうなラノベが図書室にあったって絵里萌に聞いたから、こないだ借りてちょっと読んでみただけ」
「へー、絵里萌もラノベ読むんだ」
アニメだけじゃなくてラノベも読むんだなあの子。恵梨香がうなずいて言う。
「うん、ラノベは絵里萌の方が読むよ。ていうか、あの子オタクだからね。わりと雑食系かな」
「そうなんだ、姉妹で趣味が合っていいね」
「うーん……」
姉妹で仲良いのはいいことだ、と思ったんだけど、どうも微妙に違うっぽい雰囲気。恵梨香はちょっと目が泳いでいる。そして頭を傾けて考えながら話してくる。
「趣味が合うっていうのとは、ちょっと違うっていうか、、、いっつもね、絵里萌は私が好きそうなものを見つけては教えてくれるの」
「なるほど、お姉ちゃん思いなんだ、いい妹じゃん」
姉妹で仲良くていいじゃんと僕は思うんだけど、恵梨香はそういう感じでもない。
「それでね……その中で私が好きになったものを、絵里萌も好きになるの……」
「なにそれ」
恵梨香はちょっと困ったような顔をしている。
「あの子ちょっと変わってるのよ」
「まあ姉妹もいろいろだね」
「そう、かな」
その時、ガチャっと音を立てて扉が開いた。
「ただいまー。ドリンク持ってきたよ」
飲み物と氷の入ったカップを三つ抱えて絵里萌が戻って来た。
「ありがとうね、絵里萌」
「サンキュー!」
「それじゃ続き歌おうよ。私、お兄ちゃんとお姉ちゃんのデュエットが聞きたいな」
抱えてきたカップを置いた妹は楽しそうにデンモクを手に取る。
「うん、まあいいけど」
「その後は私とも歌ってね、お兄ちゃん」
ツインテールのほうの妹は、僕と姉の顔を一瞬見てから満足そうに微笑んだ。
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