第17話 前もしたじゃない

「そういえばたっくん、今日学校で眠そうだったね」

「何がそういえばか分かんないけど、いまも眠いよ」

「そうなんだ、そこで寝ていいよ」


 柔らかそうな薄ピンク色のベッドを指さされる。幼馴染の美紀ちゃんの部屋。今日はお家の人もいないみたいで美紀ちゃんと二人きりだ。


「いやー、さすがに女の子の部屋のベッドで寝るとか気まずいでしょ」

「だって昔はよく一緒にお昼寝したじゃない」

「それって子供のころじゃん」

「いまだって子供でしょ、未成年なんだから。二人で一緒に寝よ!」


 ということで強引に手を引っ張られ、なぜか美紀ちゃんのベッドに二人で寝ることになってしまった。もちろんシングルベッドだ。


「もっとくっついて。いまさら恥ずかしがることじゃないでしょ」


 ぎりぎり離れようとしたところで美紀ちゃんにそう言われる。


「えーでもー」

「誰も見てなきゃいいって、こないだ図書室で言ってたじゃない」

「いやそれはちょっとニュアンスが……」


 僕の話を無視して美紀ちゃんのほうから僕にくっついてきた。二人で並んで仰向けになる。


 身体の横に女の子の柔らかい身体が触れて熱を持ってくる。


「こうやってると懐かしいよね、たっくん」

「えー、あー、そうかな」


 流れが唐突過ぎていろいろ理解できない。


「それでたっくん、なんで寝不足なの?」

「あーそれ、なんというかー」


 美紀ちゃんが僕の腕を取って自分の胸に抱えてきた。腕に弾力のある柔らかい感じが布越しに当たっている。


「妹さんに関係あるでしょ」

「え?」


 幼馴染がいきなり詰めてきた。心臓がドキッとする。


「たっくんは妹さんたちとどういう関係なの?」

「どうってただの妹だよ」

「ただの妹にしては私に当たりが強くない?」

「え、あ、いや、そんなことは……」

「ほら、やっぱり怪しい」


 隣で仰向けに寝ていた幼馴染は、身じろぎをするとこっちを向いて横向きになった。そして僕の身体に手を回し心臓の上に手を置いてくる。


「たっくん、妹さんとなんかあるでしょ」

「え?い、いや、そんなのは、」

「あるんだ」

「いや、それは」

「動悸が強くなってきたけど」

「えー」


 美紀ちゃんに詰められるとつい挙動不審になっちゃうんだよな。というか美紀ちゃんは付き合いが長いので僕が嘘を言うとすぐわかるのだ。


「どっちの妹さん?」

「えっとー、わかんない」

「え?」

「え?」


 美紀ちゃんもちょっと動揺しているようだ。


「いやね、そんな大したことじゃないんだよ」

「どんなこと?」

「夜寝ていると、妹がベッドに潜り込んでくるんだ」


 なるべく大したことじゃない風を装ってさらっと言う。


「妹さんって高校生よね」

「そうだね」

「つまり、高校生で血のつながってない妹と一緒にベッド寝てると」

「いやでも気が付くと隣で寝てるだけだし、別に何もしてないし」


 言わなきゃよかったと思ったけどいまさらしょうがない。それにどうせ隠し通せない。


「で、それって恵梨香ちゃんなの?それとも絵里萌ちゃん?」

「だからわかんないんだよ」


 素直に答える。


「なんで?」

「いやだって見分け付かないじゃん」

「兄妹でしょ」

「そういわれても、妹になったのは三か月前だし」


 だってあの二人本当にそっくりなんだよな。


「つまりどっちかわからない妹とベッドでいかがわしいことをしていると」

「妹だし、寝てるだけだし、ちゃんと寝巻き着てるし。いかがわしくはないと思うけど」

「高校生の男女が同じベッドで寝てること自体がいかがわしくない?」

「そうかなー」


 じゃあ今この状況はどうなるんだろう。


「ちょっと妹にじゃれつかれるぐらいコミュニケーションじゃない?」

「子供ならともかく高校生でしょ?」


 さっき僕たちも子供だって言ってた気がするけど。


「そうだけどさー、ほら、美紀ちゃんもいまやってるじゃん」

「私は幼馴染だからいいのよ。子供のころから一緒に寝てるじゃない」

「でもさ、幼馴染も妹も僕にとっては似たようなもので……」


 僕の幼馴染は横向きから姿勢を変え、僕の上にうつぶせに乗り上げてきた。至近距離で僕の顔を見つめてくる。


 大きめの胸が僕の胸にグニュっと押し付けられている。やっぱり美紀ちゃんの方が妹より胸が大きいな。服着てるから比較はしにくいけど。


「つまり妹さんとこういう事をしてるんだよね?」

「えーっとーまぁーそうかもしれないけどーでもさー」


 大体合ってるけど正確に言うと微妙に違うかな。妹は寝巻だけど美紀ちゃんは制服だし。多分ブラジャーもしてるはず。


「似たようなものってことは、妹がいいなら幼馴染もいいってことだよね」

「えー、まあ、そういうことになるのかな」

「じゃあ、いい」

「いいんだ」




 意外と聞き分けが良くてちょっと安心したところで、美紀ちゃんの尋問が再度始まった。


「それじゃ、聞くけどその妹さんとは具体的にどういうことしてるの?」

「どういうって、例えば?」

「ほら、例えば、キスとか?」


 いきなりちょっと焦る。


「えーっと、キスの定義は?」

「したの?妹と??本当に???」

「だから定義を聞いてるんじゃん。それを聞かないと答えられないよ!」


 幼馴染の寝室のベッドの上、二人で重なり合って見つめ合う。僕の目の前20cmで眼鏡を掛けた幼馴染が小首をかしげて考えている。


「んーっと、キスって、二人で互いに唇をくっ付け合うことじゃない?」

「それならしてない。大丈夫。安心して美紀ちゃん!」

「ほっぺには?」

「ない」

「おでこは?」

「ないない。安心して」


 ここで「耳は」と聞かれると困るんだけど、どうも思いつかなかったようだ。セーフ。


「それじゃさあ、しちゃお」

「え、なにを?」


 幼馴染の顔が近づいてきた。眼鏡を掛けた見慣れた顔が20cm上からまっすぐに降りてくる。僕の顔に眼鏡が当たる。


「美紀ちゃん美紀ちゃん!ちょっとまって!冷静に!」

「えー、前もしたじゃない―」


 僕は目の前のおかっぱボブカット頭を両手で掴んで横にずらした。


 幼馴染は横に頭を沈めて抱きついてくる。髪から美紀ちゃんの女の子の匂いが漂ってくる。


「たっくーん」

「よしよし」


 僕は幼馴染の頭をポンポンと撫でた。


~~~

国後美紀の挿絵はこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330668519496202

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