第36話 秘境探検ツアー

 「きゃあ?!」健人に背後から飛びつかれたツバキは地面に倒れた。


 「ご、ごめん! そんなつもりは.........うん?」


 「ひっ! 早くどいて! 早く!」


 「ぐほっ!」ツバキの手痛い蹴りを腹に喰らい、すぐさま離れる。「いって!」


 「.........下衆が」立ち上がり、服に着いた汚れを手で払う。


 「言うこと聞かないからだろ.........」


 「.........いつか殺してやる」ツバキはそう言い捨て、神殿の中へと歩いて行く。


 「あぁちょっと! .........マジかよ」健人もツバキの後を追って、歩き出す。


 「待ってよ! 先生から入れるなって言われてんだよ!」ツバキに追いついて説得を試みるも、聞く耳持たず。「聞いてよ.........もう!」一方的に無視される。


 「んだよ、なんか騒がしいな」


 異変に気づいたコロッサスが入り口の方を向くと「うわぁ.........綺麗」ツバキが神殿の内部を見て感動していた。


 「げっ?! やべ!」コロッサスは慌てて聖剣を見られないよう背中に隠した。


 「あれ? ウォルターさん?」コロッサスに気づいたツバキは、内部に足を踏み入れ駆け寄る。


 「な、なんで中にいるんだよ.........」


 「何でここにいるんですか? さっき外にいるってジェシー君が」


 「ごめん先生。止めたんだけど、強引に.........」遅れてやって来た健人が、コロッサスに事情を話す。


 「えっと.........それはだな.........ぐ、偶然外に繋がる隠し通路を見つけてだな.........そっから戻って来たんだ」


 「へ〜そうなんですか。見た感じなさそうなんですけど」


 「なんせ隠し通路だからな、それよりここは関係者以外立ち入り禁止だ。早く出てってくれ」なんとか言い訳を考え、ツバキに出て行くよう話す。


 「もう〜ウォルターさんまで。せっかく来たんだから少し見学させてください! 邪魔しないんで」


 「マジかよ.........」一向に喰い下がらないツバキ。コロッサスの元へ駆け寄り、密談を交わす。


 「なんて女だ、全然引き下がらねぇぞ」


 「どうする?」


 「仕方ねぇ、一旦中断だ」密談を終えたコロッサスは「少しだけだぞ。作業の邪魔はするなよ」と、ツバキに許可を出す。


 「やったー! 皆んなに自慢しよ〜」許可を得たツバキは、上機嫌で神殿の中を散策し始める。


 「わがまますぎる.........」


 「.........俺は怪しまれないよう、調査するフリをする。お前横に付いて見張っててくれ」


 「えぇ.........あの人苦手なんだけど」


 「頼む、何しでかすかわからん」


 「.........はぁ、嫌われのって心に痛い」健人は重い足取りで、ツバキの元へ歩き出す。


 「.........ムっ」健人に気づいたツバキは嫌そうな顔で健人を睨む。


 「見張りだよ。先生に言われて来たの」


 「.........あっそう、不愉快なんだけど」健人の心を抉るかのような言葉を言い、見学を続ける。


 「はぁ.........心が痛い」


 「.........ねぇなんか説明してよ。私何にもわかんない」


 「俺はガイドさんじゃねぇよ。気が済んだら出てってくれ」


 「.........なるほどね、だから外されたんだ。ポンコツ」


 「言いたい放題言いやがって.........これ見てよ」健人は鉱石の詰まった岩石に案内する。


 「なにこれ」


 「この中に鉱石が詰まってるんだ。20個ぐらいこの神殿の中にあるんだ」


 「.........石しか入ってないけど」


 「ガチャみたいに当たりとハズレもある」


 「がちゃ.........?」


 「あっ.........」この世界に存在しない言葉言ってしまった健人は「ガチャってのは俺が名付けた、開けるまで当たりなのかハズレなのかがかわかんないってこと」それらしい意味を説明して誤魔化した。


 「ふーん」


 「こっちに当たりがあるよ」健人はダイヤの原石が入った岩石に案内した。「これダイヤモンドだよ。全部で国1つ買えるほどの価値らしい」


 「.........ジェシー君。私をからかってるの?」


 「えっ?」


 「どう見ても水晶じゃん。ダイヤってのはねぇ、もっとカクカクしててキラキラしてる物なんだよ。まぁ君の年齢じゃ、見たこともないか」


 「.........そ」健人は喉から出ようとする言葉をグッと堪え「そうだね、アハハハ。いや〜勉強不足勉強不足」ツバキに合わせた。


 「はぁ〜君本当に調査しに来たの? 鉱物の基礎もわかってないじゃん」


 「そ、そうだね.........」健人の方が鉱物を専門に扱っているが、目の前の大金に目が眩んでヤケを起こさないために、仕方なく口裏を合わせた結果、少しだけだが関係が良くなったと感じる。


 「他は?」


 「えっ? 他かぁ.........」


 「もっと珍しいのあるでしょ。案内してよ」


 「お、おう」健人は近くにあったリーフストーンの原石にツバキを案内した。「これ、なんだかわかる?」


 「う〜ん.........サファイア!」ツバキは思いついた名前を口に出す。


 「ちょっと違うかな、リーフストーンだよ。風の魔力が宿っている魔法石」


 「リーフストーン.........これが?!」


 「珍しい鉱石なんだけど、そこらじゅうにあるんだよ」


 「売れば一軒家が買える高級品。前にこれを使った魔剣が欲しかったのに、ローンの審査中に一括で買われたのを思い出しちゃった.........」


 「それは、残念だったね.........」もう少し素行が良かったら1本造ってあげようと密かに思う健人。


 「ちょっとだけ.........」


 「ダメ」


 「一欠片、親指の第1関節程度!」


 「.........先生!」大声で離れて作業するフリをするコロッサスに許可を求める健人。


 「ダメだ!」離れた場所から大声で健人に伝える。


 「ダメだって」


 「ケチ!」許可を貰えなかったツバキは、不貞腐れリーフストーンを蹴った。


 「やめろよ! 罰当たるぞ!」


 「だから何よ」不機嫌な顔でリーフストーンから離れていく。


 「まったく.........」その後を追う健人。


 「次は何見せてくれるの?」ツバキはそばに生えている樹木を触り「この木ってどうやって光合成してるの? だって太陽ないよここ」ウキウキで疑問を健人に問いかける。


 「それは.........今調査中」回答が思いつかず、適当に誤魔化す。


 「そう、じゃあ次は.........」


 「あの、俺からも1ついいかな? 気になることがあって」


 「あっ? なに? ちな彼氏いるし、タイプじゃない」


 「いや聞いてないし、こっちからお断りします.........」


 「あっそう.........恋人がいるとは思えないんだけど」


 「.........いいかな、聞いても」


 「聞けば、なに?」


 「.........そのって、どうしたの?」

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