第52話 王都 a.m.10:28
シンドロームダウンに入ったコロッサスとオトギリは、ライオット捜査官同行の元健人の捜索を始めた。
「ここにはいない.........」
「ハズレね.........」中心部を避け、片っ端から家の隙間や路地裏など人気のない場所を重点的に探す。
「そんなんじゃいつまでも経っても出て来ないぜ。迷子探しってのは.........」後ろで同行しているライオット捜査官は大きく息を吸い「ケントー! 出ておいでー! おじいちゃんが心配してるよー!」大声で名前を叫ぶ。
「おいお前! 何しやがる!」
「大声で名前呼んで、探しに来たぞーって伝えなきゃ。そうすりゃ声聞いて出てくるぜ」
「悪いけどそのやり方は無しで。アンタはただ後ろで見てるだけでいいから」
「んん.........こっちはこれでご飯食べてるんだけどなぁ」オトギリはライオット捜査官を注意し、2人は薄暗い路地裏の中へと進む。
「たく.........本職の人間がいるとやりずれぇなぁ。今のでツバキにバレたかも知れねぇ」
「火事で時間食ったからね、もしかしたらもうここにはいないのかも。とりあえずこの先に死体がよく捨てられてる場所がある、確認して早く切り上げよう」ライオット捜査官に聞かれないよう小声で密談を交わす2人。
「確かこの先は.........死体捨て場だっけ? そんな陰湿なとこにはいないと思うけどなぁ」
「チィ、気づかれたか」
「見てみなきゃわからないでしょ、あの子この辺の地理には詳しくないから、腰抜かして倒れてる可能性もあるし」オトギリは振り返り、ライオット捜査官と話す。
「おっと、気にするな。よく相棒に話すんだ、ついいつもの癖で」オトギリに平謝りし、ジェスチャーで口にチャックをする。
歩くこと数分。徐々に異臭が辺りに漂う。「ひでぇ臭いだ」
「もう目の前よ」
路地裏に突如現れた更地の土地。シンドロームダウンでは有名な死体処理場。地面には数多の死体が投げ捨てられ、地中にはそれを超える数が埋められている。
「ここだ」
「よし、探すぞ」着くや否や、コロッサスは我先に死体に山に向かおうとする。
「ちょい待ちおじいちゃん」
「何だい! 止めるな!」ライオット捜査官がコロッサスの肩を捕まえる。
「見たところまあ新しい死体がチラホラある。ここは本職の人間が代わりに探すよ」ライオット捜査官はズボンのポケットから白い手袋取り出し、両手にはめて空き地の中へと入る。
「ここは奴に任せましょう」
「そうだな.........10代後半の男の子! 黒髪で痩せてる!」コロッサスはライオット捜査官に聞こえるよう健人の特徴を伝える。
「10代後半の男の子ね.........」ライオット捜査官は表情一つ変えることなく、真剣に死体を吟味する。腐敗の進捗が新しいものを空いた場所に淡々と横に並べていく。
「かなりの数だな.........」コロッサスが固唾を呑んで見守る中、選別を終えたライオット捜査官が戻って来た。
「一通り調べて見たが、どれも20から30代の成人ばかり、子供の死体は無い」
「そうか.........」
「けど死体を動かした形跡が見つかった。それもごく最近。10分くれ、暇人集めて地中の中を探してみる」コロッサスにそう告げた後、急足でその場から走り去って行った。
「地中の中だと.........」
「コロッサスもう行こう。奴はあぁ言ってるけど、この数の死体山に埋めたとは考えられない」目視で確認出来る範囲で20体はあり、地面の土がほぼ見えない。「よほど名の知れた人間以外、この量をかき分けて埋める理由がない.........」
オトギリが話し終えた瞬間、前から10人の警察隊を引き連れたライオット捜査官が走って来た。「待たせたな」
「.........早すぎない?」
「野郎どもわかってんな! 黒髪の10代後半のガキンチョだ! 地面ひっくり返して探し出すぞ!」一斉に雄叫びを上げ、シャベルを持って空き地に入って行く。
4人は死体を路地裏に運び出し、残った人はシャベルで地面を掘り起こす。
「発見しました! 10代後半の子供らしき死体! ですが死後一月は立っていると見られます!」
「そいつは違う! 行方不明になったのは今朝だ!」
「了解であります! 引き続き捜索いたします!」やかましいほどの熱気が飛び交い、次々と掘り起こされて行く。
ライオット捜査官の言った10分が過ぎた。掘り起こされた死体は13、うち4体が子供の死体。どれも死後時間がかなり経過している。「結構見つかったが、おじいちゃんの言うケント君らしき死体は見つから無かった」手袋外し、結果をコロッサスに伝える。
「でしょうね。わざわざ埋める必要がないもの」
「へぇ.........随分貫禄のある言葉じゃねぇか。廃業したらうちで捜査官やらねぇか?」
「断る」
「つれないねぇ.........で、どうするよ。まだ迷子探しを続けるかい?」
「そうしてぇが.........正直見つかるかどうかわかんなくなって来た.........」
「それもそうだ。孫を思う気持ちはわかるが、プロに任した方が確実だ」
「.........だな。無理な頼みを聞いてすまんかった、すぐにここを出てくよ」
コロッサスはオトギリと共にシンドロームダウンの外に向けて歩き出そうとした時「待ちな」ライオット捜査官が2人を呼び止めた。「引き継ぎのためにも、本部で詳しく話を聞かせて貰うぜ」
「なっ?!」
「厄介だな.........これ以上話す訳にもいかないってのに」
「なぁ、後でもいいか?」
「あ? 急ぎじゃねぇのか? 早いに越したことはねぇんだがな.........」
「いや.........そうなんだが.........」ライオット捜査官に矛盾を突かれ、戸惑うコロッサス。
「はぁ.........めんどくさ」一刻もシンドロームダウンから立ち去りたい2人。このまま警察隊本部に同行すれば、またツバキと入れ違いになってしまう。
オトギリは不服に策に出る。「.........うっ! キモチワルイ.........」
「お、オトギリ?!」コロッサスの横で胸を抑え苦しみ出すオトギリ。そのまま膝を突いて、地面にうつ伏せに倒れる。「お、おい何してんだ?!」
コロッサスはしゃがみ込む、地面に倒れたオトギリの顔を元に近づく。「演技よ。苦しいから病院へ行くと伝えろ」
「お.........おう! おいにいちゃん! コイツ具合が悪りぃみたい! すぐに病院へ連れてかねぇと!」オトギリの演技に便乗し、体を揺さぶってライオット捜査官に訴える。
「具合が悪い.........? さっきまで何とも無かった様だが?」ライオット捜査官は不思議そうに倒れたオトギリを凝視する。
「原因はわかんねぇがとりあえず病院へ向かう! その後で本部に寄る!」
「まぁ.........本人がそう言うのなら、そうなんだろうな。早く医者に見せて来な、俺から本部に伝えとくぜ」
「す、すまねぇな! 後で必ず向かうからよ!」コロッサスはオトギリを抱き上げ、急足で来た道を引き返す。
シンドロームダウンを抜け、野次馬を掻い潜った後「もういい、降ろして」細目で周囲を確認し、コロッサスに降ろすよう指示する。
「ちょっとばかし無理があったんじゃねぇか?」
「こうでもしなきゃ抜け出せなかったでしょ」地面に降りるや否や、リトルシガーを咥え火を付ける。「でもこれでツバキの元へ向かえる」
「何か心当たりがあるのか?!」
「恐らく火事の原因はツバキ。警察隊が向かった中心部には奴隷商の建物があったはず。燃やしたのか燃えたのか知らないけど、用が済んでシンドロームダウンから出たんでしょう」
「となると.........奴は1つ復讐を終えた」
「そして次の場所へ向かった.........因縁のヘイルストロームへと」
「健人をあんな場所に.........!」
「急げば間に合う」行き先を推測したオトギリは馬車を捕まえ、ヘイルストロームへと走らせる。
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