第51話 王都 a.m.10:14
「えぇいい! もういいだろ、火も消えたし中入るぞ!」
「ちょっと待ちなさい! これから火事の調査を行うので、住民と関係者以外立ち入り禁止です!」
コロッサスとオトギリが到着して10分。馬に乗って駆けつけた消火隊によって火災は鎮火した。
「このお爺さんここに住んでるの! 家が無事かどうかだけ確かめるだけなので!」
火災が終わってすぐ、2人はシンドロームダウンに入ろうとしたところを騎士に止められた。
「そ、そうだ! ここ真っ直ぐ行った角の所に住んでっから!」オトギリの咄嗟の考えで住民を装い、どうにか入ろうとする。
「ここを真っ直ぐ行った角の所?」
「そう、そこだ! すぐの所だろ?!」
「なら住所を教えてください。まもなく警察隊が到着しますので、照合して確認が取れたら許可を出します。それまでは待っててください」騎士は丁寧にコロッサスに説明した後、腰に携えた革のポーチから紙と万年筆を取り出す。
「な、住所だと.........」
「かぁ〜内勤志望の堅物かよ。この石頭話通じねぇ.........」
「これも規則ですので。速く書いてくださいよ、他の住民の方が迷惑しますので」コロッサスに手渡した後、本物の住民らしき人に事情を話し始めた。
「どうするよ.........」紙と万年筆を渡され、困った顔でオトギリを見つめる。
「.........適当に書いて渡しちゃえ。警察隊が来たら掛け合ってみる」
「警察隊かぁ」オトギリが言った後、コロッサスは適当にでっち上げた住所を紙に記し堅物の騎士に渡した。「後どれぐらいで来るよ、にいちゃん」
「遅ければ10分。速ければもうすぐ.........」紙を受け取ってすぐ、騎士はコロッサスの後ろに視線を移す。「あ、今来ました」
「ちょいと通してくれや、王都警察隊の者だ。道開けてくれ!」コロッサスの後ろから人混みの中を掻き分け、1組の男女がやってきた。
「お疲れ様です。現場には誰も入れておりません」騎士は、背筋を伸ばし右手を胸にあて、やって来た男女に向けて敬意を示した。
「おう、ご苦労。捜査官ライオット」
王都アンクル騎士団警察隊所属、ライオット捜査官。身長184cm、左右を刈り上げた紅色の厳つい髪型。黒の正装に紺色のズボン、鍛え上げられた褐色の体が内側から強調している。
「並びに捜査官マルタ現着、これより現場の捜査を行います!」隣に立つ相棒のマルタ捜査官が続けて捜査の開始を述べる。
「おい、にいちゃん達!」
「ちょっといい?」捜査官達がシンドロームダウンに入ろうとした時、コロッサスとオトギリが2人を引き止める。
「後の者が照会しますのでどうかそののまま.........」
「まぁいいじゃんか」ライオット捜査官は騎士を抑え「で、なんだい? おじいちゃん」コロッサス達に耳を傾ける。
「中に入れさせてくれ! 人を探してるんだ!」
「捜査の邪魔しない、用が済んだらすぐに立ち去る」2人はライオット捜査官にシンドロームダウンに入る許可を求める。
「お気持ちはわかるのですが、関係者以外は立ち入り禁止です。特徴などを伝えて頂ければ、こちらで捜査させていただきます」マルタ捜査官も堅物の様だった。騎士と同じことをコロッサス達に伝える。
「今すぐ探してるんだ! オメェ達に頼ったらいつ掛かるかわかったもんじゃねぇ!」
「そこを何とか通してくれませんか? この人の言う通り一刻も探し出したいんです」
「お気持ちはわかるんですが.........現場を混乱させる訳には行かないので」
「チッ、ダメか.........!」
「なんか訳アリって感じだな.........コイツの言う通り、警察隊に任した方がいいと思うぜ。時間はかかるが、ナルハヤで探すぜ.........コイツが」
「先輩.........私のことコイツって言わないでください.........それに今は火事の調査を」
「悪いなおじいちゃん。コイツ迷子より火事の方が優先順位高いみたいだ」
「ちょっと! その言い方はないでしょ! まるで私が冷たい人かの様に.........」
「仕方ねぇ、コイツが言うんだ。おじいちゃんには申し訳ないが、少し時間を貰うよ」
「なら1人で迷子探しすれば。火事は私が捜査しますから」
「だとさおじいちゃん。仲間ハズレにされちまったから、一緒に迷子探し許可するぜ」
「ちょっと! 勝手に.........」
「本当かにいちゃん! 話がわかって助かるぜ!」ライオット捜査官から許可を貰って喜ぶコロッサス。
「もう.........時間押すので先行きますよ」マルタ捜査官は不満に思いながらも、ひと足先にシンドロームダウンの中へと歩いて行った。
「そんじゃ俺たちも.........」
「おっとおじいちゃん、ちょっと待った」続けて入ろうとしたコロッサスを止め「許可は出すが、条件を呑んでもらうぜ」
「だと思った」
「何だよその条件って」
「まず迷子の名前と詳細、見つからなかった場合こっちで捜査を引き継ぐ。次に俺も同行する、部外者を勝手にプラプラさせる訳にもいかないんでね」
「チッ、健人の情報か.........」
「最低限必要な情報だけでいい。私が話す」
「で、最後は.........1本葉巻をくれないか?」
「.........は?」
「人探しと葉巻がどう関係あるってんだ?」
「メガネかけた相棒に没収しちまってなぁ、火災現場だから不謹慎だろって理由で」
「何だい、オメェさんの個人的な理由じゃねぇかよ」
「まぁこの際タバコでもいいぜ。この条件呑んでくれりゃあ許可出すぜ」
「リトルシガーでいいのなら、すぐに条件呑むわよ」
「おじいちゃんは?」
「.........あぁ、呑もうじゃねぇか」
「ほら、好きなのどうぞ」オトギリはポケットからシガーケースを取り出し、ライオット捜査官に差し出す。
「お嬢ちゃんダメだぞ、おじいちゃんの嗜好品盗んじゃ。タバコは20歳からだぞ」開いたシガーケースの中から1本取り、口に咥える。
「ウォルター通りのオトギリだ! 一昨年火炎剣サラマンダーにエンチャント依頼したでしょ!」
「ハハハ、コイツは失敬。絶賛大活躍中だぜ」手に平に小さな炎を出現させ、リトルシガーに火を付ける。「じゃあ聞こうか、お二人が探してる迷子ってのは?」
オトギリもタバコに火を付け「探してるのはケントって名前の10代後半の男の子。今朝6時ごろに行方がわからなくなった」必要な情報だけをライオット捜査官に伝えた。
「10代の子供ねぇ.........なぜその子がシンドロームダウンにいると?」
「ギルデンハイツでたまたま見た人が教えてくれたの。その子がシンドロームダウンに向かって行ったと」
「ふーん.........それでたまたま来たら火事で入れなかった」
「そんなところ。もう入っていいかな? すぐに見つけなきゃいけないの」
「時間がねぇんだ.........もういいだろ!」
「.........ふー」ライオット捜査官は最後までリトルシガーを吸いきり、地面に落として火を消す。「いいぜ、入んな」
「よし! 待ってろよ健人!」2人はライオット捜査官と共に、シンドロームダウンの中へと足を踏み入れる。
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