第4話 異世界と言ったら魔法だよな

 「なんとか戻っては来れたが、いつになったら帰って来るんだろう」


 村長エーデルワイスの許しは得たが、村民の蔑む目線は帰路も変わらなかった。


 「まだ信じられないな、ここが異世界だなんて。ラノベの主人公はすぐ理解できるのは全部作者の経験談なのかな.........」台所と思しき場所で椅子に座り、非現実的な物思いにふける。普通に考えれば作り話フィクションと結論が出るが、非現実的世界異世界にいるためいらぬ妄想が頭の中で膨らむ。


 「そういえば.........昨日から何も食べてないな.........」思考に余計なエネルギーを使ったせいで、忘れかけていた空腹が腹の中ら蘇る。


 「飯.........異世界飯か。ドラゴンの尻尾の肉とか出てくるのかな? いやもしかしたら先に転生した人が食文化を変えてなじみのあるものが出てきたりして。かぁ~俺も主人公みたいな事して! 魔法とか使えんのかなぁ。それとも俺にしか見えない出せて、全部のスキル使えるチート系主人公みたいな事できたりして!」


 「虚言癖すげぇなお前、話し相手いなかったのか?」


 「え? うおっ?!」健人の気づかない間に、両腕に荷物を抱えたコロッサスが帰っていた。「び、びっくりした~」


 「なに驚いてんだ、飯にするぞ」


 「飯?! 待ってました!」


 コロッサスは両脇のバケットと20Lのミルク缶を石製の健人のテーブルに置き、棚から皿とコップを2セット取り出し並べる。


 「何が出て来るんだろうな~」


 バケットを開けた途端、立ち昇る湯気の中に手を入れ見慣れた形のパンを皿にのせた。「あれ.........?」


 「クロアさん家の特性パリクロワッサンだ。まだ朝日が昇らない内からせせこまと焼き上げた、この村で一番美味しいパンだ! おともはヤギのミルク」


 自分のも皿に並べる終わると、その剛腕でミルク缶を軽々持ち上げ、注ぎ過ぎないよう慎重にコップに注ぎ入れる。「冷めちまったらパリパリしなくなるぞ」


 「いや.........想像してたより普通だな~って。とにかく、いただきます!」健人は皿のクロワッサンを手に取り、1口で半分食べた。


 「言い食べっぷりだな。どうだ、うまいだろ」


 「うん! もう何でもうまい!」噛むたびにパリパリの生地が食欲をそそり、丸一日ぶりの食事にようやくありつけたあまり、感動で涙を流しながら2個目も頬張る。


 「ハハハ、涙が出るほどうまいか。もっとあるぞ、遠慮なく食え食え」バケットの蓋を開け、健人の近くによせた。


 健人は8つあったパンの内4つを平らげ、この世界に来て初めての食事を終えた。「飯を食ったことだし、俺は仕事にでも取り掛かるかな」椅子から立ち上がりる。


 「仕事?! どこか行くの?」


 「何処もいかねぇよ。地下に俺の工房があるんだ」


 「その間俺は何を?」


 「好きにすればいいさ。俺がとやかく決める事じゃない。やる事が無いなら代わりに洗い物してくれ」そう言い、背中を向けて地下に続く階段を降りて行った。


 「好きにしろって言われてもなぁ.........」健人はまた一人取り残されこれからの事を少し考えた。洗い物でもしようと台所に立ってみた。


 「どうやるんだこれ?」立ってみたはいいものの、健人の知っている流し台と呼ばれるものはなく、飲み水の入った大きな壺と釜戸が置かれていた。


 「見た感じこの水は違うもんな.........パンくずしかのってないし、掃っただけでもバレんやろ」見えない四隅に皿に残ったパンくずを地面に落とした。


 「洗い物は出来なくなったから、外にでも出てみようかな」家の扉に移動し、少し開けて隙間から覗いた途端、たまたまこちらを見ていたエルフと目が合い慌てて逃げて行った。


 「ダメだ、完全に避けられてる.........」そこから先の勇気が出ず、扉をそっと閉じる。「仕事の邪魔するのは気が引けるけど、今頼れるのあの人だけだからな」やむおえずコロッサスのいる地下室へと向かう。


 地下室に続く階段の先には光の通らない暗黒が広がっていた。「想像の100倍怖いな.........」電球などは勿論存在せず、1歩でも踏み外せば立て続けに滑り落ちてしまう程だった。


 健人は足元に全神経を集中させ、壁伝いに1歩づつ慎重に降りていく。


 「大丈夫だ.........そのうち目が暗闇に慣れる.........」数秒で降りれる階段を数十秒かけて降りて行くと、微かな灯りが現れ足元が見えるようになった。


 壁から手を放し、足元を凝視しながら進んで行くと灯りがともったコロッサスの工房へと着いた。


 部屋の中ら漂ってくる土と鉄と匂い、壁にはそこら中に古紙のような物が貼られており地上とはまるで違う雰囲気だった。「あの.........お仕事中すいません」


 コロッサスは健人の問いには答えず、作業台に黙々と石のような物を並べる。あの巨体からは想像も付かない繊細な手さばきで並べた石の位置や角度を微調整していた。納得がいったのか並べた石に右手を添えた。


 健人が終始無言で眺めていると、添えた右手が蒼色に光り出し並べられた石も線で囲んだように光り出す。


 「マジかよ.........?!」


 並べられた石が徐々に形が崩れ一つの塊なった後、縦長に成形されていき剣の形へと姿を変えた。


 刃先も石から鏡のように反射する鉄に変わり、持ちてが白色に着色し終えると徐々に蒼色の光が消えていった。


 「ジロジロ見てんじゃねぇよ変態、それとも俺に惚れたか?」


 「す、すげぇ! 何今の?! もしかして魔法?!」作業を止めたコロッサスが話しかけると、健人は興奮してすぐに近寄った。


 「あぁ、俺の十八番の武具形成だ」


 「武具形成?!」


 「魔力を使って素材の形を整え武器や防具を作る魔法だ」


 「じゃあこの剣はさっき並べた石っころから作ったの?!」


 「石っころじゃなくて鉄鉱石って言うんだけどな。本来火で溶かしたり、ハンマーで打ってを繰り返して何日もかかるものを魔力で一瞬で作ったんだ」


 「すげぇ! すげぇ! すげぇ!」


 「ハハハ! その反応、まるで初めて魔法を見たみたいだな」


 「だって俺の世界じゃ魔法なんて存在しないもん! そりゃあテンション上がるもん!」


 「ほう、魔法が存在しないか.........変な世界だな」コロッサスは椅子から立ち上がり、壁に置かれた本棚から本を1冊づつ取り出す。


 「いやわかんないよ! もしかしたら異世界に来たことによって魔力が宿ったかもしんない。簡単な魔法言ってみてよ!」


 「簡単な魔法ねぇ、フレムとか?」


 「よし.........」健人は深呼吸をして息を整え「フレム!」手のひらを突き出し教わった魔法の言葉を唱えた。


 「まぁ簡単と言っても。まず手の上で炎を出した後、消えないよう魔力を注ぎながら遠くに飛ばして目標に命中させる。魔法学校で一番最初に習う魔法だ」


 「なんでこうも現実的なんだよ! 異世界ものみたいに夢見てもいいじゃん!」魔力が無い事を実感させられ、ショックと怒りのあまり這いつくばって地面を叩く。


 「お前、そんなんに魔法が使えたいのか?」


 「そりゃあ、使えるなら使いたいけど.........」


 「なら使ってみるか?」コロッサスは本を取り終えると、隠れていた壁の穴の中から木箱を手に取る。「この中にはな、俺の半分の魔力が収められてる。人に譲渡する時の為にな」箱を開けて中身の水晶を健人に見せた。


 「譲渡って、そんなことできるの?」立ち上がり、赤みを帯びた黒い水晶を凝視する。


 「出来るからこうして言ってるんだ」


 健人は見つめた後「やってみたいです」コロッサスを見上げ右手を水晶に添える。


 「おおお!」何の変化を見せなかった水晶が突然に光り出し、段々と透明な色へと変わっていった。


 「よし、手話していいぞ」


 「え? 終わり?!」


 「おう、終わりだよ。こん中の魔力はお前の体ん中に入ったよ」コロッサスは健人の手をどかし、水晶を木箱に入れ元あった場所に戻した。


 「なんかもっとこう.........アニメみたいに派手なエフェクトとか衝撃とか、わかりやすく視覚的にって来な感じなのかと」


 「ものによっては使う時に魔法陣とかは出ては来るが、基本はこんなもんだ」丁寧に本を戻しながら「お前魔力と魔法を一緒にしてねぇか。魔法は魔力を糧に行う。魔力は魔法を使う為のだ」魔法と魔力について説明する。


 「人間に見立てれば簡単だ。人を動かすのに血が必要、魔法を使うのに魔力が必要。簡単」


 「まぁなんとなく.........」おもむりに振り返ると、先ほどまでと様子が違いふらついていた。


 「おい大丈夫か?!」健人の異変に気付き、急いで駆け寄る。「口から血吐いてんぞ!」


 「え? なにゆって.........」言われるまま手で口を拭くと、手の甲いっぱいに赤い血がどっぷり付着していた。


 「.........へ?」血を見た健人はそのまま倒れ気を失ってしまう。


 「おいしっかりしろ! こいつよく気絶するな」

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