1章

第5話 現実は甘くはない

 「どうだ気分は?」


 「ぎもちわるい~吐きそう」寝床に座り、吐しゃ物の入った木のバケツを必死に抱えて問いに答える健人。


 地下室で倒れた後。コロッサスは健人を地上の寝床に寝かせ、急いでエーデルワイスを呼んだ。


 「コロッサス。もう一度聞くが、魔力を譲渡した後に吐血と嘔吐の症状が出たんだな」エーデルワイスは健人の目や口の中や吐しゃ物を調べ問診にあたる。


 村の村長でありながら医学の知識に精通している事から、医師の役割も担っている。


 「俺もその現場にいた、それにさっき見た時何とも以上なかっただろ」


 「魔力譲渡が原因.........普通は他人の魔力が馴染むまで軽いめまいや倦怠感などの症状が出るのだが、吐血と嘔吐といった症状は今まで聞いた事も見た事も無い」


 家の周りでは騒ぎを聞きつけたエルフたちが野次馬の如く窓から家の中を覗いていた。


 「とりあえず尿を見てみよう。血尿が出れば感染症の説も出て来る。バケツ持って来い、コロッサス」


 「洗いもんが増えて困っちまうな」


 「いつも洗ってないくせに文句言うな」


 エーデルワイスの言われるまま、部屋から適当なバケツを見つけて渡した。


 「じゃあここに出せ」渡されたバケツを健人の足元に置く。


 「いや、ここで?!」


 「うん?」健人の反応に疑問を持つが、窓の外のエルフたちがそわそわとかを期待するような顔を見た瞬間「これは問診です! あっち向いてなさい!」と外に向けて怒鳴った後、健人の顔を1発ひっぱたいた。


 「そんなつもりじゃないのに.........」涙目の健人はぶかぶかのズボンの裾をまくり、飛び散らないようバケツを持って隙間から用を足した。


 「特に異状はないのか」出された尿の色は無色透明。エーデルワイスの仮説は外れた。


 「で、何かわかったか?」


 「私の診断では魔力譲渡による身体的異常、としか診断できない。2,3日様子見て続くようなら王都の医者に診せたほうがいい」


 「王都の医者か.........」わかりやすく眉をひそめ頭をかきむしる。


 「一体何本剣を売れば診察できるんだろうな」遠回しに王都の診察料は高額であると伝える。


 「ごめん.........なんか、迷惑かけて」


 「君は何も悪くない。謝らなくていい」憔悴しきった健人の隣に座り、背中を優しくさする。


 「俺から頼んだんです。魔法が使えるのが羨ましくって.........」


 「この世界には魔法が使えない人間は星の数ほど存在する。それに君をそそのかされたんだ、あいつはねぇ」


 「見つけたぞ方法が!」それまで頭を抱えていたコロッサスは突然を大声を上げ「ライヴ・ドアー!」左腕につけた七色の宝石が装飾されたブレスレットを取り出し、空間斬り裂くかのように天から地に向けて振り下ろした。


 突風と共に宙に魔法陣が現れ。やがて大きな姿鑑の形へと変わり、こことは違う光景が映し出される。


 「なんの真似だコロッサス!」


 「思い付いたのさ、無料タダで治る方法をなぁ!」エーデルワイスに説明した後「オトギリ! オトギリ聞こえるかオトギリ!」薄暗い石で出来た部屋に呼びかける。


 「.........誰よ? 仕事中にこのオトギリ様を呼び出した奴は」少しした後、映し出された部屋の一人の少女が問いかけに答える。


 「おう丁度良かった、ちょっと診てほしい奴がいるんだ」映し出された少女の名はオトギリ。身長152cmやせ型で黒色のローブを着た紫色のツインテールに眠そうな顔で現れた。


 「今すぐ消せコロッサス! この場所が部外者にバレるだろ!」エーデルワイスが慌てて窓を閉めて手で自分の顔を隠す。


 「何慌ててんだあのおばさん」


 「安心しろばあさん。コイツは口が堅いし都会育ちだから田舎の場所なんて特定できやしない」


 「そういう問題じゃないし気安く私に話しかけるな!」なんとかオトギリに見られないよう、顔を隠したまま手探りで見切れる位置まで移動した。


 「ケツ見切れてんぞばあさん」


 「黙れ!!!」顔を真っ赤にしながら今度こそ見えない位置までジャンプした。


 「で、こんな年寄りなエルフを見せるために連絡してきたわけじゃないよね」


 「な訳ないだろ。見えてると思うが、この少年に俺の半分の魔力を譲渡したんだ」


 「ほう」


 「すると少ししたら口から血を吐いて気絶しちゃって、それから嘔吐もしてごらんの通りゲッソリしてるんだ。魔力がらみで症状が出ちまったから、お前ならわかるかと思って」


 「なるほどね~吐血と嘔吐は今も付いてるの?」と問診みたく健人に問いかける。


 「血は止まったけど.........まだ吐き気が」


 「じゃあ吐けるだけ吐いて沢山水飲んで休めば1日ぐらいで治るよ。何事かと思えば、ただ魔力が体に馴染んでないだけじゃん」呆れた顔で椅子に深く腰掛け、ポケットから煙草をくわえて火をつけた。


 「じゃあそんなに深刻じゃないのか?」


 「何年か前研究で、魔力譲渡後に上手く馴染まず体が拒否反応を起こすって論文が発表されたの。その中の症状に一時的な吐血と嘔吐があったから、多分そうじゃないかと? あのおばさんが治療魔法は?」


 「部外者には答えん!」


 「これだからエルフと老人は嫌いなんだよ。血液の生成を促す魔法をかけるようコロッサスから言っておいて」


 「わかった、すまんな急に」オトギリが見切れるとコロッサスはライヴ・ドアの魔法を解いた。「てなわけだ。良かったな小僧、心配知らないってさ!」


 「う、うん.........なんか、ホッとして少し気が軽くなったかも」


 「ハハハ、病は気からともいうしな! だとさばあさん、新しい知識が入ってよかったな」


 コロッサスの笑い声が部屋中に響き渡り健人の症状も落ち着き始め、事が円満に終わるさなか。


 「うぐっ.........!」突然エーデルワイスがものすごい勢いでコロッサスの太い首を右手で絞めた。


 「次その魔法を使えば、お前を殺す.........」左手には刃の飛び出た緑の魔法陣が発現していた。これは殺害予告を兼ねたエーデルワイスの忠告。


 村の長であるエーデルワイスは如何なる脅威から村と民を守る責務がある事を忘れてはならない。


 たとえそれが身内による元だとしても、彼女は躊躇なく聖剣を突きつける。

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