第6話 現実は甘くはない その2
その後、エーデルワイスによる魔法治療のお陰で健人の体調は良くなった。次の日には不調を訴える事も無くなったが、コロッサスはどこかに連れて行かれてしまった。
その間家の中にあった僅かな食糧で一晩過ごし、朝には何事も無くコロッサスと朝食を囲んでいた。
「あの後何があったのコロッサス?」昨日と同じヤギのミルクとパリクロワッサンを食べながら問いかけた。
「ばあさんにしこたま説教された後懲罰房入れられ今さっき解放されたとこだ」昨日と比べてややテンションが低かった。
「ふ~ん」平然を装って食べ進めるコロッサスの首元には口の形と思しき痣がある事には触れなかった。
「今の時期、男は狩や漁やらで村を留守にしてる。男に飢えてても仕方がない」
「いや聞いてないし、聞きたくも無い」思春期の健人は内心羨ましいと思いながらも拗ねて会話を終わらせる。
「お前も興味がない訳ではないだろ、頭下げて頼んだら卒業できるかもしれないぞ」
「俺の場合、人生が卒業してしまいそうで手が出せないよ」
「ハハハ、こりゃ1本取られた!」過呼吸になる程1人爆笑中朝食を済ませた。
「なぁコロッサス」
「わかってるよ、使いたくて待ちきれねぇんだろ」健人の目の輝きをすぐに察し、地下へと連れて行く。
工房に着くと壁に貼ってあった古紙を剥がし健人に手渡す。「ここに書かれてあるのが俺の使える魔法の全てだ」
古紙には黒のインクでこの世界の言語であるカイセイ語が書かれてあった。
「.........武具錬成、パスコン、フレア、マグネ。意外と少ないんだ」健人から見ればハングル文字同然で読めるはずはないが、スラスラと口に出して読んだ。
「俺は鍛冶屋兼商人だからな、昨日見たオトギリは魔法を生業にしてるからほぼすべて使えるが、それ以外はこんなもんだ」
「へぇ~じゃあこれからいろんな魔法覚えれば使えるようになるって事?」
「時間はかかるが、不可能ではないな。まずは俺の十八番の武具錬成をマスターするぞ」
コロッサスは木箱を作業台の上に積み上げ中から鉄鉱石を取り出す「昨日も軽く説明したが、まず材料である鉱石を平らな場所に並べる。この時にただ無造作に並べるだけじゃだめだ、作りたい物の形に並べるんだ」
慣れた手つきで鉄鉱石を剣の形に並べた。
「剣の場合は大体7対3の割合で剣身を長く、持ち手を短く配置。持ち手と剣身の境界線には鍔を付ける為横にも配置する。鍔は持ち手が剣身で怪我をしない為にも俺は必ずつけるようにしてる」
「なるほど」
「形が決まったら、後は手をかざして念じるんだ。こんな感じにな」コロッサスが手をかざすと蒼い魔法陣が現れ、徐々に溶けて一つの塊に成形されていく。「こんな具合にさっきまで鉱石だったものが、立派な剣へと変わるんだ」
「おお! すげぇ!」手渡された剣を手に取り、昨日と同じ興奮を見せる健人。「念じるって、具体的にどんな感じでやればいいの?」
「そうだな~作りたい形を頭の中でイメージする感じかな?」
「俺やってみていい?!」
「おうやれやれ」健人に席を譲り背後で見守る。
「えっと.........7対3の割合だったな」慣れない手つきで木箱から慎重に鉱石を1つ取り出す。「意外と重いな」見よう見まねで剣の形に鉱石を隙間なく並べていく。
「鍔が忘れてるぞ」
「は、はい!」
置き忘れた鉱石を慌てて配置し手をかざす。「剣の形.........剣の形.........」並べた鉱物に眼力を飛ばしイメージを口に出して呟くと、手の甲から紅い小さな魔法陣が出現した。
「おお出た! 出た!」初めて自分で出現させた事に興奮した途端、魔法陣が手に平から消えた。「あれ?」
「魔法ってのは集中力が大事なんだ。慣れるまでは目先の事だけに集中しろ」
「うっす! 集中集中」
言われ通り再度集中し手をかざす。魔法陣が現れても驚かず念じると、徐々に鉱石が解けていき一つの塊になっていく。
「できた.........けど」完成したのはとても剣とは言えない何かが出来てしまった。
「まるで怪物が作ったおもちゃみたいだな。原始人ですらもっとましなの作るぞ」剣身部分は横に平らに広がり、持ち手はゴツゴツと鉱石の面影が残ってとてもじゃないが握れないほどだ。
「うぅ、才能ないのかな.........」
「初めは誰だってこんなもんだ。みんな数打って上手くなるんだ」コロッサスは作業台に置いた失敗作を部屋の隅に投げ飛ばした。
「イメージは完ぺきだったのになぁ.........」
「頭ん中と現実は違う、思うようにいかないのは当然だ」
今度はポケットからチョークを取り出し、作業台の上に剣の形を描いた。
「目安として形を枠をかたどってみた。今度はこの枠を意識して並べ、はみ出さないように成形してみろ」
「よっし、次こそは」健人は言われた通り枠の中に鉱石を並べる。「意外と隙間ができるな。上に重ねてもいい?」
「そうすると厚みが均等にならずさっきみたいに不格好になっちまうぞ」
「なら少し隙間を作った方がいいのか」
「それだと成型時に鉱石が足りなくなって虫食いみたいな剣ができるぞ」
「ムズー! 並べるだけでも一苦労じゃん!」ああ言えばこう言われ頭を抱えて悩み込む。
「俺が適当に並べてたと思うか? 何十年もやってれば指先で鉱石の形を把握し、合いそうなものを選んで並べてたんだよ」
「あのスピードで選んでたのかよ、すげぇな」
「初めはスピードなんて関係ない、ゆっくり丁寧に1つづつ取り組むんでいけばいい」
「わかりました、1つづつ丁寧に.........」
健人は合わない鉱石を枠の外に弾き、木箱を覗いて合いそうな鉱石を確認しながら選び、先ほどの倍以上の時間かけて枠の中に並び終えた。
「枠を意識して.........」再び手をかざし魔法陣を出現させて成形していく。
枠を意識したおかげか、今回ははみ出すことなく剣の形に成形することが出来た。
「できた!」
「ほう、今回は剣と呼べるな」コロッサスは剣を手に取り確認する。
「どうどう? 2回目にしていい方でしょ」
「う~ん。多少凸凹しているが、形は悪くないが」
「悪くないが?!」
「剣とは呼べないな」
「えー! なんで?!」
「だって刃がねぇからこれじゃ何も切れねぇよ」
手渡されてみると、剣身の先と両面の刃が丸みを帯びていた。
「あ.........あああ!」
「ハハハ、枠を意識し過ぎて肝心なところが忘れてるぜ!」
「ハハ.........恥ずかしくなってきた.........」初歩的なミスに気づき腹を抱えて爆笑するコロッサスにつられて健人も思わず笑ってしまった。
「まぁ千里の道も一歩よ、2回目にしちゃ形は悪くねぇ。後は細かいところが抜けてしまわねぇよう心掛ける事だ」
「う、うっす! 精進します!」
「その意気だ! 今の事を踏まえて練習するぞ!」
「はい! 次こそは剣と呼べる物を作ってみせる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます