第7話 拝啓、元気にやってます
健人が異世界に来て1月が経った。
「3657本目、どうだコロッサス?」
「どれどれ.........」
この1月、朝から晩まで毎日地下の工房に籠り鉄鉱石を使った武具錬成の練習に勤しんだ甲斐あって、魔法の熟練度は飛躍的に向上した。剣身の刃は鋭利に成形でき、表面の凹凸も限りなく少なくなった。
「まぁまぁってとこかな、商品だと1000
「それって売値の値段だよね」
「買値だよ。俺の弟子なら10万は叩き出してもらわねえとな」そう言って健人の作った剣を魔法で鉱石に戻した。
「素の状態で10万なんて叩き出せねえよ。もっと派手な装飾施したり、霊樹の木を持ち手に使ったりしないと作れねえよ。基礎はいいからそういうの教えてよ」
1月前にコロッサスに出されたお代、鉄鉱石で10万Gの剣を作る事。このお代をクリアしない限り新しい技術を教えてもらえない。
「剣の価値は素材や装飾なんかでは決まらん、耐久度と切れ味だ」
「最硬で鋭利な剣だろ。親の名前より聞いたよそのセリフ.........」
「それが俺のモットーだ。さぁ作り直しだ」戻した鉱石を作業台に置き、読書の続きに戻る。
「はいはい」嫌気をさしながら再び鉱石を並べていく。
手をかざし魔法陣を出現させた時「コロッサスー! いるかコロッサス?」地上からコロッサスを呼ぶ女の声が工房に響き渡る。
「誰?」
「ばあさんで無い事は確かだ」コロッサスは本を閉じ工房を出て階段を昇る。健人も気になり後をついて行く。
「はいはいコロッサスならここにいるるよ~」
ドアを開けると鎧を着た褐色のエルフが麻の袋片手に立っていた。
「あぁよかった、実は折り入って頼みたいことがあるんだ」
彼女の名はテカラ。エーデルワイスの屋敷を守護する門番の一人。身長174cmと鍛え抜かれたスレンダーな体型に銀髪のポニーテールと強気な口調が似あうお姉さん。
「俺に頼み込むって事は、自慢のイチモツでも折れちまったんだろう」
「せめて右腕と言えこの変態ジジィ!」
「ハハハ! どれ見してみろ」一方的に談笑を交えながら、テカラを家に上がらせた。
「実は私の愛剣ガーディアンが鍛錬中に折れてしまってな、100年前の物になるが修理できるか?」テカラは袋から剣身が真っ二つに折れた剣をコロッサスに手渡した。
「どれどれ.........大本の素材は精霊山のルエフ鉱石かぁ」
「治りそうか?」
「それだけなら地下に在庫があるんだが、この剣身の中にある緑の鉱石は?」
「すまないがわかない。前の村で作ったものだから」
「製作者はこの村に?」
「移動したとき野獣に襲われて命を落とした」
「そうか。健人、地下からハンマー持って来てくれ」
「え、あるの?」
「探せば出て来る.........はず」
「はずって.........」疑問を抱きながらも健人はハンマーを探しに地下に降りる。
「おそらくだが、この緑色の奴は魔法石と思う。粉々に砕いてみないと断言できない」
「そんな.........」
「ホントにわからない?」
「幼かったし、入隊祝いでプレゼントされたものだから何とも.........」
2人が頭を悩ませ、会話が途切れた頃「あったよー! ハンマーあったよー!」地下から階段駆け昇り、息を切らせながらコロッサスに渡した。
「そんな疲れるか?」
「若いのに運動不足とは」
「うっせーよ! 持って来てやっただろ!」
コロッサスは受け取ると、折れた剣身のを机に置き天高くハンマーを剣身目掛けて振り下ろす。
「ふん!」振り下ろした衝撃が机を伝って床にまで響き渡る。
「うぅ、机壊れそう.........」健人は机が壊れないか心配しながら耳を抑え。
「なんか心が痛む.........」テカラは自分の愛剣が壊れるさまが耐えられず目を瞑った。
数回の格闘の末、粉々になった剣身の中から緑色の鉱石を拾い上げ「コイツは確か.........リーフストーン」
「リーフストーン?」
「自然の魔力が宿してると魔法石だ。コイツが埋め込まれてたのか.........」わかりやすく頭をかきむしった後「まぁ人生出会いあれば別れもある、この際新しい剣に乗り換えてみたらどうだ?」
「え、えぇ?!」いつもと違うコロッサスの困った表情と仕草に驚く健人。
「それはならん! この剣と私は一心同体。共に鍛錬し、共に傷つき今日に至った! 今更他に乗り換えるなど私にはできない!」
並みならぬ戦士のこだわりを熱く語るが「俺から言わせてみれば、よくこんな剣で100年持ったもんだ」コロッサスは冷淡な態度で返す。
「どういう事だ!」
「まぁ技術者の戯言ととらえてくれ。コイツは分類で言うところ魔剣に分類される、素材に魔法石が使われてるからな」
この世界における魔剣は、素材に使われる魔法石によって特定の魔法の威力を上げる効果が備わっている。テカラのガーディアンの場合自然の魔力が宿ったリーフストーンが使われているため、風・土・木を使う魔法が該当される。
「魔剣は魔法石を埋め込む都合上武具生成で製造した方が頑丈になる。コイツは断面を見た感じ鍛造製法だ。リーフストーンを剣身の形に加工し挟み込むように流し込んで作られてる。これじゃあ中と外で耐久度が異なり常に空洞がある状態の剣が出来、必然と折れやすくなる」
健人にとってはどれも初めての情報でためになるが、理解できず空気の如く耳から抜けていく。
「で、結局何が言いたい」
「この剣を作った奴はクソだ! それと修理は出来ない、中の魔法石も折れて魔力が抜けてただの石になってる。新しいのを作るしかない」
「ぐっ.........そこをなんとか」
「ならない。諦めろ」
コロッサスの放った一言にとどめを刺され、沈んだ顔で机に手をついて粉々になった愛剣を見つめるテカラ。
「あの、どうぞ.........」かわいそうに思った健人は水を1杯テカラのそばに置いた。「なんか、見てるこっちも心が痛むというか.........」
「今100年の思い出を噛みしめて、前に進む決意を決めてるんだ」
戦士にとって、剣は命を託すかけがえのない存在と教えられたテカラには簡単な事ではなかった。
決心がついたのか顔を上げて「わかった。ならこのガーディアンと同じ素材で新しい剣を作ってくれないか」コロッサスに依頼を頼む。
「そうなるよな~」露骨に嫌そうな顔を見せるコロッサス。
「いやなんで嫌そうな顔すんの?!」
「素材は全部精霊山にあるし、場所も北に森を抜けた所だから割と近いはずだ」
「まさかその山に邪悪なドラゴンや巨人とか住んでたりして?!」
「いるわけないだろ」
「なんだいないのか.........」
「餌になりたいのかコイツ」
2人はコロッサスを眼力を飛ばし返答を待っていた。
「はぁ.........わかった。明日日の出と共に村を出発でいいな、長旅に備える準備をくれ」
「ありがとうコロッサス! 引き受けてくれるか!」
「なあに、この村で上手くやっていくためさ」
テカラはコロッサスに感謝を述べ、ガーディアンの持ち手だけを持って家を出た。
「なんでさっきあんな嫌そうな顔してたの?」テカラが帰った後、健人は疑問に思っていた事をコロッサスに問いかけた。
「.........ただ登山したくなかっただけださ」突き出たお腹がそれを物語る。
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