第8話 目指すは精霊山

 翌朝。日の出と共に村を出発した健人、コロッサス、テカラの3人は、精霊山に続く林道を歩いていた。


 3人は各々革で出来たリュックいっぱいに食料などを携帯する中、健人だけ明らかに大きさが違う。


 「絶対剣3本も余計だって」


 他2人はコロッサスが作った剣を腰に携帯する中、健人だけ自身で作った3本の剣がリュックからはみ出ている。


 「ハハハ、こう見ると山頂に出稼ぎに行く武器商人に見えるぞ」


 「富士山にピザを届ける画像思い出しちゃった.........」まだ村から少し離れた地点で、既に息があがってしまった。


 「あの子も武具生成を?」


 「あぁ、俺の魔力を渡して今修行中さ」


 「渡したって事は、元は魔力がないのか?」


 「らしいぜ。アイツの世界には魔法が存在しないとさ」


 「私はどうもあの子が信用ならない、人さらいが送り込んで来た駒じゃないのか?」


 「この1月見てきたが、外部と連絡をとっていた形跡は特になかった」


 2人が健人について話す中「まだ信用されてないのか.........」後ろでなんとか先頭について行くと背中から突然何かが割れる音に気付く。


 「お、やっぱりな」コロッサスは健人の背後に回りリュックから1本剣を抜いて健人に見せた。


 「あれ?!」自身で作った剣が剣身の根元から折れていた。


 「どんなに形が良くても、お前のはまだまだ頑丈さが足りん」残った剣身を取り出し、持ち手部分と一緒に森の中に放り投げた。


 「そりゃこんだけかさばってたら、当たり所が悪くて折れるよ!」


 「そんなの剣とは言わんぞ。小枝だ小枝」


 コロッサスはいつものように健人の剣をののしったあと、再び歩き始める。


 「ねぇ精霊山まであとどれくらい?」


 「このペースなら夕方にはふもとに着く、登るのは明日になるかもな」


 「明日って.........まさかの野宿で1泊するの?!」


 「当たり前だ」


 「こんな森で野宿なんて.........絶対モンスターとか出るじゃん」


 「だからどんだけ村を亡ぼしたいんだ」


 「コイツの世界じゃ、山と森には恐ろしい怪物がいるって認識なんだよ」


 「いや実際にはいないけど」


 「今の村に移住した時はちらほらいたが、私たちが全て倒したから安全だ」


 「それに、出るとしたら虫ぐらいだな。ほらそこ、木にムカデが巻き付いてんだろ」


 コロッサスは林道の先の木を指を指す。「ぎやあぁぁぁぁ!」健人が叫ぶのも無理はない。コロッサスが指さしたムカデは目視で2mは超える巨大なムカデだった。


 「おい離れろ!」健人は恐怖のあまり、物凄いスピードでテカラの背中にしがみつく。


 「聞いてねぇよあんなサイズ! 十分虫じゃなくてモンスターだ!」血相を変えて涙目でモンスターと視聴する。


 「落ち着け! ただの虫だ!」


 「虫じゃねぇって! モンスターだ!」


 「大丈夫だ! 何もしなければ襲ってこない! ムカデもお前の大声にビビッてるじゃないか」


 「明らかに獲物を品定めしてんじゃんかバカ!」


 大ムカデはどっちとも捉える事ができる顔でこちらを見つめ、3人はその前を通り抜けた。


 「追ってこないよな.........」振り返って確認するが、ムカデは目を離した隙に森の中へと姿を消した。


 「言っただろ、この森は市中に収めたも同然。今更虫如きに襲われるがわけない」


 誇らしげにテカラは威厳を見せるが、健人は首の蚊が吸った後を見つめ「でも蚊に刺されてるよ」と言い放った。


 「これは蚊の生命活動の一環だ! てかいい加減離れろ!」顔を真っ赤にして健人を振りほどいた。


 「ハハハ! 情けねえな」


 「そうだ、男ならもっとたくましい姿見せたらどうだ!」


 「無茶だってば.........」2人に情けない姿を責められ、顔色が徐々に戻って行く。


 「そんなに怖いなら、姉ちゃんにおてて繋いでもらったらどうだ」


 「うぅ.........そうしてもらおうかな」すっかり弱気になった健人は静かに左手を差し出す。


 「いや勝手に決めないでもらえるか!」


 「いつも鍛練と仕事一筋だし、異性の手なんか握った事ないだろ」


 「失礼な! まぁでもさっきのがあるし、どうしてもなら」テカラは変な解釈で納得し、健人の手を握った。


 「中々お似合いだぜ、お二人さん」


 「やましい目でこちらを見るなジジィ!」


 「なんか.........ごめんなさい」テカラを茶化すコロッサスのせいで申し訳なさを感じながらも林道を進んで行く。

 

 それ以降特に会話が弾むことは無く太陽が傾き始めた昼過ぎ。


 止まる時間が惜しいとのことで、昼食は各自持参した保存食を歩きながら食べる事に。健人はコロッサスが作った干し肉を口にした。


 「完全にビーフジャーキーじゃん」見た目は真っ黒で原木見えるが、味は食べた事のあるビーフジャーキーそっくりだった。


 「びーふじゃーきー?」


 「あいや、俺の世界に似た食べ物があってつい」健人の言い放った聞きなれない独り言にテカラが食いついた事により重たい空気の中、偶然会話が成立した。


 「そういえば、お前の世界について詳しく聞いてなかったな」


 「1月もいるのに聞いてなかったのか?」 コロッサスが思い付いたように話したおかげで、話題は健人の世界の話になった。


 「ずっと地下に籠って作業してたからな、あんまり聞いてなかったな」


 「俺もあのムカデに出会うまで忘れてた」


 「じゃあ暇つぶしに聞かせてくれ」


 「暇つぶしって.........」自分の話は余興に過ぎないみたいな言われ方に不満を抱きながら自分の世界について話し始める。


 「俺の住んでた世界はここより発展していて、こう言う森とか自然があんまりないかな」


 「ほう、都市開発が盛んなのか。王都みたいなところか」


 「王都がどういうとこか知らないけど、鉄とかコンクリで出来たデカい建物とかがいっぱい」


 「エルフにはちと耳が痛い話だな」


 「森林伐採、環境破壊どの世界も人間は愚かなんだな」テカラは蔑んだ目でコロッサスと健人を見る。


 「なんか人間代表で怒られてるみたい」


 「で、キミはその世界どのように暮らしてたの?」


 「まだ学生だったから、毎日学校行ってた」


 「学校に通ってたのか、さぞかしいい階級の家のでなんでしょ」


 「義務教育で7歳からみんな通うし、高校も名門じゃないから学費も高くねぇよ。それに学校らしきものも村にあったはず」


 「まぁあれも学校と言えば学校だが、簡単な読み書き習う程度だがな。最近になって出来たから」


 「エルフの最近って何年ぐらい前なんだ.........」


 「確か、20年か30年前だったはず」


 「最近の桁じゃねぇ」


 「でも少しどんなとこか気になるな」


 「通ってみたらいいじゃん」


 「幼い子供の中に大人の私がいたら変だろ、私も恥ずかしいし.........」


 「それもそうか。でも俺のいた高校なら似合うかもよ。周り不良しかいないから、テカラさん居たら毎日ケンカ三昧で楽しそう」


 「ちょっと待て、なんで学校でケンカが起きる?! 学ぶところじゃないのか?」


 「若気の至りと言うか、悪ぶってるオレカッケーな連中がなぜか周りに多くて。歩いてるだけなのに肩ぶつけられてキレて殴られたり、脅して金盗られる日々でした.........」


 「き、キミの世界の学校は秩序が外れてると言うか、無いに等しいのか?.........」


 「だからこの世界に来られて嬉しんすよ~あっちに比べたらマジ天国みたい」


 「.........もう少し優しく接するよう、みんなに言おう」

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