第3話 宣告! 俺が晩御飯?!

 3羽の小鳥たちが静かな朝を告げるべく、朝日と共に健人の横渡る部屋へと舞い降りる。


 「うっ.........んんん」鏡のない開放的な小窓に停まった小鳥の鳴き声で意識を取り戻した。


 「.........今度はどこだ?」起き上がり、眉間にシワを寄せ細目で周りを見渡す。「ついに死んだか.........」


 「俺が天国の妖精に見えるかい?」視線の先には2mを超える巨漢の髭男が健人の声を聴きつけ部屋に入って来た。


 「.........いや」


 「安心しな、生きてるよ」髭男は寝床に腰かけ、持っていた水の入ったジョッキを手渡す。「まぁ飲めや」


 「あ、はいいただきます」


 「にしても大変だったんだぞ、昨日危うく丸焼きにされるところだったんだぞ」



 「はい?」600mlはある樽のジョッキを受け取ると髭男は昨晩の出来事を簡素に語り出す。


 「村長は昔気質だから森に迷い込んだ人間を喰っちまう世代だからな、皆に御馳走しようとしたら若い奴らが軒並み拒絶反応起こしてブーイングの荒しだったぜ!」


 「あの、言ってることが.........」


 甲高い裏声で「あいつ全裸で川の水飲んでた短小野郎よ、そんなの食べたら変な病気になっちゃう~で大騒ぎだったぜ!」


 「だから.........」


 「そんで俺が上手く説得して事態を収めたから、今のお前がいるんだぜ! で、お前なんで裸なんだ? どっから来た?」


 「.........こいつ」一方的な会話にイラつきながらも「じつは.........あんまり、わかんなくて」口を開く。


 「わかんない?! きおくそーしつって奴か」


 「いや、部分的にそうって言うか~」


 「口をもぞもぞするな、はっきり喋れ! 村長のスペシャルディナー孤独な夕食になりたいのか?!」


 「それだけはなりたくない!」


 「なら包み隠さず話せ」


 「その.........実は、別の世界から来たんです。俺がいた世界で死にそうになって、頭ぶつけて目が覚めたら草原の上に裸で横たわって、そこからたまたまこの森まで歩いてきて、入ったらまた急に気を失って.........」


 「ほう、からねぇ.........」


 「俺からしたらって言うか.........スペシャルディナー晩御飯決定?」


 怯える健人をよそに黙り込む髭男。「そうかそうか、適当に服着てに挨拶しに行くぞ」部屋の隅にある棚を指さし、一人先に出て行った。


 「え? あ? これ?」標準体型な健人には明らかにオーバーサイズな服とズボンを手に取り「加齢臭やば.........」急いで着替えて後を追う。


 「ついて来い」外に出ると髭男が待っていた。


 「はぁ.........」外の光景を見た健人は衝撃を受けた。森の中とは思えないほど開けた土地に、どこを見ても美しいと言わざる負えない耳の長い女性が暮らしている。「人なのか?」


 「人に見えるが、全員だ」


 「やっぱりエルフなのかよ.........」髭男と歩き出すと、エルフ全員健人の顔を蔑んだ目で見下す。


 「お前の世界にもいるのか?」


 「いや。作り話の存在でしかないけど、ほぼそのままだ」健人はエルフに見とれているが、歩くたびに全員一定の距離を保ちつつ離れていく。


 開けた広場の北側に森で覆われた先に村長の住む家があり、続く道の入り口に2人の鎧を着た褐色のエルフが立っている。


 「ちょいとばあさんに用があってな」髭男は難なく通れたが、健人は通してはくれたものの腰に携帯した剣を抜かれ殺気だった目で背後に回られた。


 「めちゃ信用されてないんですけど.........」


 「信用されるには初めの5秒が肝心だ。それを逃せば、後は時間と己でなんとかするしかねぇ」


 「初めてドMじゃない自分に感謝してるよ」


 背後に殺気を感じながらも道を歩き、かがり火の置かれたひと際大きな木造の建物に着いた。


 「邪魔するぜばあさん」入り口と思わしき垂れ幕をくぐり2人は中に入って行く。


 「言葉をわきまえろ髭。お前のせいで若い連中にも老人扱いされる!」


 「ば、ばあさん?」ひな壇の頂上に優雅に座るエルフ。他に比べて貫禄があり人間で言う30歳に見えるが、年と釣り合わない美貌でとてもばあさんとは呼べるものではない。


 「お前まで私をばあさんと言うか! スペシャルディナー私の晩飯にするぞ!」さっきまでの気品はどこへ行ったのか、鬼の形相で健人に怒鳴り散らかす。


 「そ、それだけはやめてください! えっと.........村長様!」必死に弁解し、おそらく人生初の土下座を繰り出す。


 「まぁ頭上げろ、2世紀も生きてるんだばあさんと呼ばずなんと言う」


 「うそぉ?!」エルフの常識を正面から喰らい、頭を上げる。


 「私をばあさんと呼ぶためにわざわざ来たんじゃあるまい。さっさと本題を言え」


 「おっと本題を忘れるとこだった。コイツの面倒見るから、この村に置いてくれねぇか」


 「そんな野良犬を飼っていいかみたいなノリで言われてもなぁ」椅子から立ち上がり、ひな壇を降りて健人の前に立ち顎を持ち上げる。


 「近い.........」170cm程の高身長で少し豊満な体型で肌が透けそうな白いワンピースを着たエルフを目の前にし163cmの健人には若干の恐怖心がある。


 「性欲は強いのか? 邪悪な思想は? 裏で王国と繋がってここを知らせたりはしないのか?」


 「いや、あ、ありま」金色の長い髪が顔の横にかかりそうでかからず、村長から香るいい匂いに徐々に顔色が染まってく。


 「コイツがそんな事するように見えるか? 女の子と話したことなさそうな顔だぜ」


 「うん。それもそうだな」ぱっと顎から手を放し、解放される。


 「すーーーふぅぅぅ」緊張から解き放たれ息を入れ替える。


 「いいだろう、お前をこの村にいさせてやる」


 「あ、ありがとうございます!」


 「ただし。1つでも不逞な行いがバレたら。即私のスペシャルディナー私のご飯だからな! よいな!」


 「はい! 死ぬつもりで守ります!」


 「ではもういいってよいぞ.........コイツ名前なんて言うんだ?」


 「そういいや名前聞いてなかったな。なんて言うんだお前?」一番大事な事を聞いていなかった。


 「えぇ.........香川健人です」


 「カガワケント? 聞きなれない名前だ、お前どこの国のものだ」


 「コイツは俺たちの住むから来たみたいだ」


 「.........そうか。私はエーデルワイス。その隣の髭はコロッサスだ」


 「い、いご主尻お気を。エーデルワイスさん」フィクションかネット上の別名でしか聞かない単語に戸惑いながら軽くお辞儀をする。


 「そんじゃ用も済んだことだし、帰って飯にするか。腹減ってるだろ」


 「あ、はい。えっと、ありがとうございました」エーデルワイスに1礼し2人は家を出ようとした時。


 「コロッサス。少しいいか?」エーデルワイスがコロッサスだけを呼び止めた。


 「お前は先に戻ってろ。道分かるだろ」


 「いやまぁわかるけど.........ちょっと不安だな、殺されそうで」


 「物騒なのはこのばあさんだけだ。いいから行った行った」先に帰るよう急かされ、渋々健人は垂れ幕をくぐり家を出る。


 「ほんとにを信じるのか?」


 「事実現れちまったもんな、目の前に。お前も伊達に長生きしてるわけじゃねぇだろ、あいつは世界中探しても存在しない顔だ」


 「確かにあの顔はこの世界で育った顔ではないが.........」


 「存在するんだよ、こことは違う別の世界がよ。そして俺はそのに従わなきゃならない」

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