第2話 服はどこ?!

 香川健人は広大な草原の上で静かに目を見開いた。目線の先にはいつも眺めていた病室の天井ではなく、雲一つない真っ青な空。


 そしてまた静かに目を閉じ、深呼吸する。自然の香りを鼻から吸い、肺に入れた途端「.........はっ?!」何かを思い出したように体を起こす。


 「いきがすえる.........?!」人として当たり前のことだが、健人には悪寒がする程の違和感だった。なぜなら自分はさっきまで呼吸が出来なかったからだ。


 「ここは何処だ?」疑問が解決されないまま、次の疑問が生まれる。よろめきながら立ち上がり、挙動不審に辺りを見渡す。健人の16年生きた記憶中に、辺り一面無限に広がる草原の場所はない。


 「ホントに何処だここ? 俺死んだのか?」疑問と疑問が頭の中で中央無人に錯乱する中、とにかく1番わかりやすい解決方法を導き出した。


 「そうだ.........足を見よう」視線を足元に注目した。足が無ければ自分は死んだ、足があれば自分は生きている。


 その答えは「足がある.........生きてる?」しっかり足裏が地面の草を踏んでいた。しかし同時にもう一つ疑問が生まれた。


 「俺.........なんで裸なんだ?」健人の生殖器が同時に視界に移りこんだ。


 「.........なんで俺裸やねんーーー!!!」頭の中にもう一つの疑問が生まれ、思わず空高く叫んでしまった。


 「俺さっきまで病院で入院しとったやん、喜助が役人と税金で揉めとったら本読んでたらいきなり血吐いて息できんくなって、ナースコール呼ぼうとしたらベッドから落ちちゃって.........」その後の記憶が無い事に健人は気づいた。「死んだんか.........俺」そして自分は死んだと勝手に解釈してしまった。


 「となるとここは.........ダメだ、さっきので頭の思考回路が壊れた.........」呆然と立ち尽くし、ダメもとで周りを見渡す。


 「.........うん?」遥か彼方、肉眼でギリギリ目視できる位置に影のようなものが見えた。「山か? わからんけど、あれでも目指してみるか」一か八か意を決して陰の見える方へと歩き始める。


 歩き始めて1時間、周りの景色は一向に変わらなかった。しいて言えば目的地の影が少し大きくなった程度。


 少なからず得られる情報もある「イッテ!」以外にも小石が転がっている。草に隠れた小石が足裏に直撃し、クレーターが出来ている。しかし歩いていると少しずつ慣れて感覚が無くなる。


 「以外に肌寒いな.........」裸のせいもあるが、体感で寒い日の春に近い気候。歩いていても汗はかかない。


 3時間が経過したころ、見慣れた風景に変化があった。


 「岩だ。何かデカい石踏むなぁと思ったら岩かよ」何の変哲もない岩を通り過ぎて数分、それまで風で草が揺れる音しか聞こえなかった音に水の流れるが聞こえるようになった。


 音の方へ駆け寄ると、流れが静かな川があった。「川だ.........川だ!」川であると確定すると一心不乱に走り出し、顔を水面に沈める。


 「あ゛あ゛あ゛生き返る.........!」豪快に水を飲み干し、顔を上げて川の流れを観察する。


 「今来た方向に水が流れているから、あっちは下流。で反対が上流か.........流れが分かったからってなんだよ。人に会えるわけでもないし.........」正気を取り戻り、おもむろに向こう岸を見ると、2人の人と思しき者が顔面蒼白で健人を凝視していた。


 「.........人だぁ!」


 「キャアァァァァ!!!」目が合ったとたん、対岸の女性2人は慌てて近くの馬に飛び乗る。


 「待って! いがないでーーー!」馬が走り出すと同時に健人も走り出す。「お願い! 待って!!!」


 「付いてくんな短小!!!」


 「もっと飛ばして! 速く!」


 健人の叫び虚しく、馬は物凄い速度で走り去って行った。


 「待って! 待ってってば.........」微かな希望を掴み損ねその場に座り込む。「イッテ!?!?」しかし運悪く尖った石がお尻に喰いこみ立ち上がってしまう。


 「うぅぅ.........でも人がいる事は分かった。向こう岸に渡って上流に沿って行けばまた会える」気持ちを切り替え、対岸へ渡り再び歩き始める。


 「しかし.........あれ人だったのかな?」健人が見た2人の女性。年齢は若く、成人体型、どちらも透明な金髪の長い髪で緑色の見た事のない服と茶色のズボンを着ていた。「どう見ても耳が尖がってたよな.........」


 健人はあの2人をエルフだと思っている。アニメやゲームの知識が豊富ゆえに導き出した仮説。「いや信じないぞ。もう一度この目で見るまでは信じてたまるか」


 しばらく頭を空っぽにして歩くが、景色が変わる事はなっかた。歩いては着かれて止まって休み、歩いては喉が渇けば川で水を飲みまた歩く。


 次第に腹も減る、川には何も魚も泳いでいない。唯一食べられそうな物は地面に生えてる草、秩序ある人間社会で育った健人には食べる選択肢など頭の何処にも無かった。


 そして日は落ち、夕餉れになっても歩くのをやめなかった。そのかいあって最初陰に見えたものが、何なのかわかる位置にまでたどり着いた。


 「も、森.........?」歩みを止むことなく歩き続け、1歩手前まで近づくとその広さに驚愕した。


 「嘘だろ.........下手したらこの草原に匹敵する程の広さの森が横一面に広がる。「こんなに歩いて、これはねぇだろ.........」


 その広さに絶望する中、森の中からある匂いが健人の腹の虫を刺激する。「うぁ.........なんだこのいい匂い」調理された食べ物の匂いが森の中から漂ってくる。


 夕暮れも終わりに差し掛かっり、辺りも暗くなってきた。この時間から森に入るのは危険なのは、都会育ちの健人も理解している。


 しかし危険とわかっていても今の健人にはその判断できず、1歩森の中に足を踏み込んでしまい、そのまま2歩3歩と進んで行く。


 「何の匂いだろう、肉じゃがかな? カレー? ラーメン? いやこんな世界にそれは無いだろ。もっとファンタジーに考えて.........ブタの丸焼きッ!?」突然。歩いていると、後頭部に強い衝撃と痛みが走りそのまま健人は気を失ってしまった。


 「コイツだよ! すっぽんっぽんで川の水飲んでた変態!」


 「さっさと殺してマスター! 異常者だよコイツ!」

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